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9話 炭火焼き

「きゃああああああああああ!?」

「うわビックリした!どうした?」

「どうした?じゃないっすよおおおおおおお!」


 早朝の交易路を走る。

 背中にモシュネーを背負いながら。


 目的地のデオス山脈は、俺が走っても3時間は掛かる距離だ。

 当然モシュネーの脚に合わせていたらもっと時間がかかるし、彼女に馬に乗る技術は無い。

 まあ、馬車より俺が走った方が速いんだけど。

 ってことで俺がモシュネーを背負って走っているんだ。

 空は快晴、気温は涼しくもこの後上がりそうな雰囲気。

 最高の遠出日和だな!




「酷いっす……」

「そんなにか?かなり優しく運んだつもりだったんだが……」

「確かに乗り心地は良かったっす……でも速すぎるんすよ!途中魔物が襲ってきても1匹も追いつけてなかったじゃないっすか!」

「王都からここまでの地域の魔物なんて、素手でも1激で倒せるような低級のばっかりだし、駆けっこで負けることはないだろうな」

「思ってたよりヤバイ人だったっす……」


 デオス山脈の麓までやってきた俺達だけれど、とりあえず乗り込む前に休憩しようとしたら、モシュネーが滅茶苦茶怒ってた。

 帰りは、目隠しでもしてあげた方が良いんだろうか?

 人を背負ったことがあまり無いからわからないな……。

 王女様を背負って走り回った時には、「もっと速く走って下さい!」ってキャーキャー喜んでたのに……。

 あの時は、お付きの侍女さんがこっちを睨みまくってたから、俺の方は生きた心地しなかったけど……。

「わかってますよね?」って目線で訴えかけてたもん。

 美人のガチにらみって怖いんだよな……。


「それで、ワイバーンってどの辺りの奴の事だ?どこでもいいって訳じゃないよな?」


 ワイバーンは、デオス山脈全体に生息していた筈だ。

 態々討伐依頼を出されるって事は、それはこの街道沿いのどこかを縄張りにした一団って事だろう。

 それも10頭ってことは、そこそこデカい群なはずだ。

 何故なら、10頭なんてキリのいい数字で報告される場合、大抵実際にはもっと数が多いのを誤魔化している事が多い。

 まあ、あくまで軍に出動要請が来た場合の話ではあるけれどさ。

 あまりにも冒険者ギルドで持て余すような場合や、緊急性の高い脅威の場合には、仕方なく軍が出張ることもある。

 そして、一般人からの目撃証言をもとに要請があって向かってみたら、報告の10倍くらい居ましたって事も結構あったからなぁ……。

 因みに、そう言う不測の事態が起きて解決しちゃうと、それはすべてこの前俺を裏切った勇者様の奇跡の力ってことになります。


「依頼書によると、街道に思いっきり住み着いているらしいっす。近くとかじゃなくて、この整地された所に巣を作ってるらしいっすね」

「そりゃ迷惑だな。探す方としては楽だけど」


 巣を作る生き物にも色々な種類がいて、好む営巣地の条件って言うのもバラバラだ。

 大抵は、他の生き物に狙われないように隠れた場所とか、断崖絶壁や狭い穴の中などの敵が入ってこれない場所に作られるけれど、ワイバーン程の強力な魔物になると、来るもんなら来てみろとばかりに堂々と巣を作り出す。

 逆に隠れた場所だと、コソコソした小さい生き物から卵や子供を護りにくいというのもあるのかもしれないけれど。

 ネズミ型の魔獣なんかは、案外厄介だからなぁ……。

 何でも食う上に歯とアゴが強いから、しっかり対策しておかないとビックリするような被害が出ることがある。

 今まで見た中で一番怖かったのは、ネズミ型魔物の大発生を何とかしろって駆り出されて行ってみたら、民家の中に侵入して、そこで寝ていた赤ん坊をそのネズミ型の魔物が食い殺してたって事件だったな……。

 どんだけ頑張っても下っ端だから、死体処理までやらされてたからなぁ俺。


「なんで遠い目してるんすか?」

「いや、昔を思い出して」

「嫌な思い出っすか?」

「そうだなぁ……しばらく肉が食えなくなった思い出」

「虐めとかじゃなくてそっち系っすか……」


 和やかに談笑しながら山間の道を歩いて進む。

 流石にここまできて走ると、物陰にワイバーンがいたら突っ込みかねない。

 俺だけならまだしも、背中のモシュネーが可哀想だ。


「……なんか、ワイバーンいっぱい飛んでるっすね?」

「だな」


 まだ道に直接巣くっているような奴らには会っていないけれど、空を見上げると相当数のワイバーンが見える。

 前にもデオス山脈には来たことあるけれど、まだ奥に入ったわけでもない場所に、こんなにワイバーンいたっけか?


「ワイバーン見てたら、お腹空いてきたな」

「え!?どういう繋がりっすか!?」

「あれ、知らない?ワイバーンって美味しいんだぞ」

「えぇ……?食べた事ないっす……」


 それはいけない!

 これは是非食べさせなければ!

 ……あ、丁度いい所に1頭だけでいる奴がいる。


「モシュネー、一回降ろすぞ」

「はいっす、トイレっすか?」

「いや違う……ってか女の子がそう言う事を言うな……」


 俺は、足元に落ちていた直径20cm程の石を持ち上げる。

 ……よし、この重さと強度なら大丈夫そうだ。


「よっと」


 その石を、砕けない程度の力でぼっちワイバーンへと投げつけた。


「ぐぼぉ!?」


 狙い違わず石が命中し、ワイバーンの心臓を打ち抜いた。

 何が起こったのかも理解できていないだろうワイバーンは、大きく痙攣し、すぐに動かなくなる。


「……武器とか、必要無いんすね」

「石は武器だろ」

「原始的ぃ……」


 そこら中にあって、十分な威力があるんだから便利だぞ?

 高価な武器と違って、寮に持って帰っても盗まれないし。


 仕留めたワイバーンをサクサク解体してしまう。

 売れそうな所は、肉以外全部空間魔術で収納しておいた。

 いい値段になるから捨てるのはもったいないし。

 そして、肉は焼く。

 ガンガン焼く。

 塩コショウをかけて、食う。


「食べていいんすか!?」

「いいぞ!」

「いただきます!」


 貧困層にとって、肉を頬張る経験って言うのはそうそう無い。

 家が貧乏だと言っていたモシュネーも例外ではないらしく、肉の塊を渡されると目をキラキラさせていた。

 そして齧り付き、動きが止まる。


「…………」

「どうした?」

「う……」

「う?」

「うまああああい!?なんすかこれ!?」

「ワイバーン肉だ」

「今まで食べたお肉の中で一番美味しいんすけど!?」

「まあ高級肉だしな。ワイルドバイソンより高値で取引されてたはず」

「……え?アレって、魔物素材だから高いんじゃなくて、美味しいから食材として高かったんすか?」

「うん」

「そんな高価なもの食べちゃったんすか!?」

「大丈夫だって。アレだけいるんだから」


 俺は、モシュネーの後ろの空を指さす。

 空から、50頭近いワイバーンがこちらへ向かって急降下してくる光景に、モシュネーの口が再度止まった。


「あのぉ……なんかすごいこっちに向かって来てないっすか?」

「そりゃ来るでしょ。こんな旨そうな匂いさせてんだもん」

「えええええ!?やばいじゃないっすか!逃げましょうよ!」

「大丈夫だって。モシュネーはそこで肉食べてな。俺が全部片づけてくるから」


「何言ってんすか!?」というモシュネーの声を背に、俺は石を片手にワイバーンと向かい合う。

 こんな事もあろうかと、空間魔術で石を大量に集めておいたんだ。

 これが高価な武器だったら、どうしてお前がそんなものを持っているんだ!って難癖付けられるところだけれど、元同僚の兵士たちも流石に石持ってるだけじゃ何も言ってこなかったからな。

 でも、石だってちゃんとコントロールとパワーさえあれば、対空兵器になるんだ。

 その証拠に、空からこちらに突っ込んできていた50頭ほどのワイバーンは、1分もしないうちに全て石で撃墜できていた。


「よし、終わりっと」

「うわぁ……」


 モシュネーがドン引きしている。

 何故だ?





 打ち落としたワイバーンの内、1頭だけ解体して肉を取っておく。

 あとは、依頼分の10頭をロープで縛って引っ張って行けるようにし、残りは収納してしまった。


「依頼主が倒してほしかった奴らかはわからないけれど、指定された場所も曖昧だったし、10頭倒して持ち替えればそれでいいだろ」

「まあ……そうっすね……誰も50頭も倒してるなんて思わないでしょうけど……」


 ちょっとだけ目が虚ろなモシュネー。

 やっぱり、あれだけのワイバーンに狙われるとストレスも大きかったようだ。

 体にケガは一切ないから、とりあえず食べることでそのトラウマを乗り越えてほしい。


 打ち落としたワイバーンを10頭だけロープで結んで引っ張って行けるようにしてから、残りは収納してしまった。

 どうせモシュネーには空間魔術の事はバレているし、2人だけの時はもう自重せずバンバン使っていくことにしよう。


「帰ったら、ワイバーン肉分けてくれないっすか?家族にも分けてあげたいんすよ」

「いいぞ、何頭分だ?」

「頭!?いや、1頭分でもおつりがくると思うんすけどね……」


 本当に控えめな奴だな?

 俺としても分け前が少なくて済むなら都合がいいぜ……。

 汚い人間になっちまったなぁ俺も……。


「ワイバーン1頭丸々で幾らになると思ってるんすかね……?」

「ごめん、風の音で良く聞こえなかった!」

「独り言っすー!」


 走ってる時にぼそっと言われると聞き取れないしビックリするから気を付けろ!



 その日のうちに王都まで戻ってくると、何やら騒がしい。

 お祭りでも開かれているような雰囲気だけど、そんなイベントあったっけ?


「そういえば、今日は王様と王女様が帰ってくる日っすね」

「あ、言われてみたらそうだったな。色々あって忘れてたわ」

「王様たちに会いに行ったりとかしなくていいんすか?引き留められてたんすよね?」

「王国の兵士だった時ならともかく、今の俺はただの新人冒険者だし無理だろ。さっさと依頼達成の手続きして休みたい」

「ジルさんがそれでいいなら私はいいっすけど……。じゃあ約束通り、私が手続してくるんでいいっすか?」

「頼む。報酬は山分けで」

「本当にそんなに貰っていいんすかねぇ……」


 モシュネーがボソボソ言いながらギルドの中に入っていくのを見送りつつ、俺は通りの方を見る。

 外遊から帰って来た国王とお姫様がパレードをしているようで、それはもう華やかな雰囲気だ。

 騎馬隊が列をなしていて、その後ろに豪奢な馬車が見える。

 アレは、国王様専用の馬車で、その後ろの馬車は王女様専用の奴だな。

 王女様と侍女、それと俺の幼馴染の女も護衛で乗り込んでるはず。

 無事帰ってきたようで何よりだ。


 なんてことをボーっと考えていると、ある事を思い出してしまった。

 今となってはどうしようもない事なんだけども。


「そういえば、『帰国したらお土産話を聞かせて上げますから私の部屋へ来なさい。いいですね?逃げることは許しません』って圧力を感じる笑顔で王女様に言われてたけど、流石にもう行かなくていいよな?」


 ギルドの建物前で、ワイバーンの山に色めき立つチミっ子たちに囲まれながら、平和を堪能する俺。

 王女様の無茶ブリにも付き合わずに済むし、何の功績にもならない出陣もしなくていいんだもんなぁ……。

 あぁ……幸せだなぁ……。

 こんな日々がこれからも続けばいい。

 そう思いながら、俺を指で突っついてくるガキンチョ共を無視していた。





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