10話 なんで?
「あの……本当に打ち上げが私の家でいいんすか?」
「どうせ肉持って行くんだろ?だったらついでだし、肉多めに渡すから俺の分も何か作ってくれ。何なら俺が料理してもいいけど」
「いえいえいえ!その位こちらでやらせてもらうっす!」
冒険者ギルドから出てきたモシュネーと一緒に彼女の家へと向かう。
今日の収入は金貨50枚だったらしい。
元々は30枚だったけれど、しばらく放置されていたから報酬が上乗せされていたそうだ。
俺とモシュネーはパーティ登録してあるので、モシュネーが手続してくれれば自然と俺にも評価が入る。
リーダーもモシュネーにしてあるから、データとしては残っても記憶からは消えてしまうって事は防げるだろう。
別に忘れられたところでギルドカードのデータは残るはずだからいいんだけど、「データ上だとすごい事してるのにそう言う話全く聞かないのよね……」って変な目で見られるのは怖いから、モシュネーに代行してもらえるのは非常に助かる。
だから、モシュネーを家まで送るついでに肉も届けるのくらい喜んでするし、家族を待っているらしい彼女
の負担にならないよう外ではなく家で打ち上げをするのだってこちらとしては全然問題ないんだ。
なのに物凄く恐縮されているのは……。
「……もしかして、迷惑だったか?流石に女の子の家に男が行くのはまずかったかもしれん」
「へ?いやいや、そんなこと無いっすよ?」
「いや、言うべきことは言ってくれていいぞ。俺基本的に人付き合いあんまりしてこなかったから、その辺りの機微がわからないんだ」
「だから大丈夫っす!ただ……」
言うのを躊躇っている様子の彼女だったけれど、観念したのかボソッと呟く。
「ボロッちいんで、あんまり人を呼ぶのは失礼かなって思っただけなんす……」
モシュネーに案内されてやってきた先は、王都の外れにある教会だった。
確かにボロボロだな……。
嵐でも来たら崩壊しそう。
「こんな感じでボロボロなんすよ。ここの孤児院で私は育ったんす」
「確かにボロボロだな……でも、金貨25枚もあれば改装くらいできるんじゃないか?」
「そんなお金どこに……え?アレ!?金貨!?」
「いや、今日のお前の取り分は金貨25枚だろ?」
「……あ……ああ!なんか感覚麻痺して気が付いてなかったっす!金貨なんて持った事ないっすもん!」
金貨1枚でも十分隙間風くらいは何とかなるだろうさ。
その位この教会はボロボロだった。
「孤児院って補助金出てないのか?国か、教会なんだし最低でもミレース教が運営してるんだろ?」
「さぁ?そんなお金貰えてるとは思えないっす。周りの人達がくれる野菜とか小麦と、教会の裏の畑の作物が生命線って感じっすね」
「随分ギリギリの状態なんだな……」
「生きているだけで儲けもんっすよ」
俺が思っているより、この街の孤児院の経営状態は辛いものらしい。
まあ、金貨がいっぱい手に入ったんだから、その状態も多少は緩和されるだろう。
「今帰ったっすよー」
「「「「「おかえりなさーい!」」」」」
モシュネーが扉を開けて孤児院の中に入ると、声を揃えて子供がお出迎えをした。
ちっちゃい子ばかりだな……。
「あれ?女の子ばかりか?男は?」
「男の孤児は、兵士にするために軍に連れて行かれちゃうんすよ。だから、ここには女の子しか残らないんす」
やべぇなこの国……。
ガキンチョ徴兵してんのか……。
いや、孤児を完全に放っておくよりはいいのかもだけれどさ……。
補助金が届いていないのもそうだけれど、どこかのバカ貴族がちょろまかしているんだろうな……。
男の子は、実際には傭兵として売られているかもだし……。
もう貴族どころか軍人ですら無くなった俺には関係ないけどさ。
あれ?俺ってもう貴族籍抜けてるんだよな?
家から追い出されたんだし、平民だと思うんだけれど……。
変に貴族にのままだったりしたら、メリットを全く享受していないのにデメリットばっかり被りそうで怖いな。
「モシュお姉ちゃん!その人だれー?」
「かれしー?」
出迎えに来た女の子たちが、モシュネーの後ろにいた俺に気がついたようだ。
興味津々という目で見られて、ちょっと怯む。
女の子ばかりの場所に遊びに来たとなると、なんとなく言い訳しておかないといけない気がしてしまう。
どうせ1時間すれば忘れられているんだろうし、カマしておくか?
「婚約者だ。今度モシュネーと結婚するから挨拶に来たんだよ」
「何いってんすか……」
「ほんとー!?」
「モシュお姉ちゃんお嫁さんだー!」
「たまのこしー!?」
「どこで覚えてきたんすかそんな言葉?違うっすからね?この人は、一緒に仕事してる相棒っす」
「なんだー……」と女の子たちががっかりして中に戻っていく。
「なんていうか……家族って感じがするな」
「そうっすか?別に普通だと思うっすけどね」
その普通を俺は得られなかったからな。
奥へ入ると、修道女の格好をした女性がいた。
どうやら彼女がここの管理人らしい。
とりあえず挨拶をしておこう。
挨拶は、人付き合いの基本だ。
たとえ忘れられるとしてもだ。
「まぁまぁ!モシュネーがボーイフレンドを連れて来るだなんて……」
「いや、だから違うっすからね?仕事の相棒っす」
「彼女のことは俺が幸せにします」
「はい、お願いしますね」
「あーもー!さっさと料理するんでそっちで大人しく座っててほしいっす!」
流石にモシュネーに怒られてしまった。
まあ、結婚どうこうはともかく、ちゃんと幸せにはしてやろう。
モシュネーが幸せになるってことはつまり、利害が一致している俺も幸せってことだからな!
その後は、食事ができるまでチミっ子たちのおもちゃにされていた。
モシュネーとどこまで行ったのかだの、普段デートではどんな事をしているのかだの、マセた質問が多かったけれど、皆モシュネーのことがすきだっていうのは伝わったな。
夕食のメニューは、ギルドからの帰り道で買ったふかし芋と、シンプルに焼いたワイバーンステーキだったので、割と早めに夕食となった。
食事中も質問責めだったが、さっきまでは料理をしていたシスターも質問する側に混ざったために、更に勢いが増す。
それでも、俺は食事をさっさと済ませてしまう。
何故なら……。
「……あ、そろそろ時間になるな。これで帰るわ」
俺の宣言に、皆が不満げな声を上げる。
後ろ髪ひかれるなー……。
でも、目の前で忘れられるのはちょっとだけ辛いんだよ。
「もうっすか?まだゆっくりしててもいいんすよ?」
「いや……もうすぐここ来て1時間だからな」
「あっ……大変っすね」
「それでも、ちゃんと覚えていてくれる人がいるってだけでも割とマシだぞ?今日は楽しかった。またな」
「はいっす!」
「「「「「ばいばーい!」」」」」
「またいつでも来てくださいね」
暖かく見送られた俺は、そのまま宿へと向かう。
また従業員皆にまた忘れられていたけれど、台帳には俺の名前があったらしく問題なく部屋に入れた。
ベッドに横になって今日の出来事を思い出す。
久しぶりに家族のあったかさを味わっちゃったな……。
でも、今この時点で、多分あの孤児院にいた人たちの中から、俺という存在は殆ど消えていることだろう。
慣れたつもりだったけれど、最初から仲が悪い軍人たちと違い、仲良くなってから忘れられているんだろうなと考えると辛い……。
「幼馴染で仲間だと思っていた勇者様には裏切られたからなぁ……。賢者も実は俺のことを面白く思っていないのかもしれん。王様と姫様はわからんな……。姫様にはよく呼び出されて、その度に現状を改善してくれと賃上げを願い出てみたけれど、結局最後まで俺の待遇が改善されることは無かったから、嫌われていたのかもなぁ……」
なんだかんだで、ちゃんとマトモに会話できて嬉しかった俺は、モシュネーの事を思い出しながら眠りに落ちていった。
賢者や姫様たちにまで裏切られているかもしれないという不安から目を背けながら。
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