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1話 王国軍追放

「被告、ジル・シュヴァリエを、王国軍より追放することとする!」


 軍のお偉いさんが、偉そうにそう宣言する。

 いや偉いんだけどさ実際。

 問題は、そのオッサンによって追放されるのが俺だってことだ。

 困った。

 非常に困った。


「来い!」


 両脇の兵士に強引に引っ張られ、そのまま城外へと連れていかれた。

 そして、放り出されるようにして開放される。


「二度と戻ってくるなよ!」

「詐欺師が!吐き気がするぜ!」


 そんな言葉と共に送り出された。

 まさか、荷物すら取りに戻らせて貰えないとは思わなかったな。

 っていっても、大して私物も無いんだけど。

 軍に入ったのは、服も食事も提供してもらえるからだしなぁ。

 一応貴族の出だから、入りやすかったってのもあるけど。


「さて、どうしたものか」


 俺の名前は、ジル・シュヴァリエ。

 シュバリエ侯爵家の三男坊だけど、既に実家からは勘当されてしまっている。

 最後の情けって事で、軍に入れられたんだけど、そこもたった今追い出されてしまった。

 それというのも、俺が何もせずサボり続けているのが悪い……という事になっている。


 この世界の人間には、生まれた時にそれぞれ何かしらのギフトが送られる。

 神様がくれるものらしいけど、詳しくは知らん。

 そのギフトにも当たり外れがあるとされていて、それぞれランク分けがされている。

 このランク分けは、別に人間が行ったわけじゃなくて、ギフトを配ってる神様が決めているらしい。

 一番下がFで、これはもう持っててもあまり役に立たないとまで言われるくらいに外れ扱いだ。

 だけど、Bランク位からは、持っているだけで貴族の位が与えられる程に便利なものが多く、貴族の大半はCランク以上のギフトを持っている。

 Aランクのギフトなんて持っていたら、もう一気に上級貴族の仲間入りだ。

 そして、ギフトの中でも最上級で、持っていると英雄扱いのギフト、Sランクギフトを俺は持っている。


『60分だけの英雄』

 それが俺のギフト。

 普通のギフトは、もう少しシンプルな名前が多い。

 例えば、『鍛冶師』とか『薬剤師』なんて感じ。

 職業の名前の物が多くて、その職業につくと便利な効果が付いている。

 Fランクのギフトだと、職業ですらなく『草』とか『虫』みたいな感じだそうだが。


 10歳以上の者であれば、教会に行ってギフトを調べてもらえる。

 調べなくちゃいけない訳ではないけど、調べれば自分の適性もわかるから大抵の奴は調べてもらう。

 なぜ10歳になってからなのかというと、小さい時にギフトを調べて、それが低ランクのギフトだった場合に、子供を捨てる親が続出したからなんだとか。

 10歳まで育ってれば、仮に捨てられても何とかなるだろという判断なのかもしれないけど、10歳で放り出されても普通死ぬと思うぞ。


 でだ、もちろん俺も調べてもらったんだけども、Sランクのギフトだとわかった時には親族皆大喜びだった。

 Bランク以上だと城まで報告が行って、スカウトされると聞いたけど、俺も将来は王宮の良い所に配属されるのでは?なんて言ってたなあいつら。

 その1時間後、何も無かったかのように皆その事を忘れていたけど。


 俺のギフトは、60分だけ英雄並みの力になれるような便利な物じゃなく、常時英雄並みの能力が発揮できるけど、60分しか俺の功績を覚えていてもらえなくなる呪いみたいなモノだったらしい。


 昔から、なんとなーく違和感はあったんだ。

 周りより俺の方が努力してても、何もしていないと言われてしまっていた。

 昨日勉強してる所を褒めてくれた父が、次の日にはその事を忘れ、何故毎日ぐうたらと何もせずに過ごすのかと怒ってくるんだ。


 最初は、もちろん訳が分からなかった。

 言われた通りにしてみても、その事を皆覚えてないんだから。

 だから更に人より努力してみたけど、結局周りからまともに評価してもらうのは諦めた。

 まあ、勉強も訓練も続けたけどさ。

 途中から家庭教師も雇ってもらえなくなったけど。

 これでも侯爵家の息子だから、小さい時は多少とはいえ色々やってもらえてたんだよ。

 7歳頃には、周りも俺に対して期待することは完全に辞めちゃってたけどさ。

 それで10歳の誕生日に久しぶりに会う家族たちに連れられて向かった教会でSランクだと判明して、これならぐうたらな息子でも許してやるかって空気になったのもつかの間、それ自体が『功績』と判断されたのか、忘れられちゃったんだよなぁ。


 結果、ギフトを調べるのすら拒否する奴って認識されちゃったわけで……。

 本来だったら王城に行くはずの俺のSランクギフトの報告も、俺にスカウトが来ないことから、恐らく忘れられてしまったんだろうと推測している。

 そして、そんな奴の面倒はもう見てられんと親に軍へ入れられて今に至る。



 俺のギフトの効果を決める『功績』っていうのが曲者で、全く同じような事を行ったとしても、それを忘れられるかどうかが割とランダムな事が多くて、あまり当てにならない。

 仮に、目の前の男を俺が殴ったとする。

 それが功績と判定される場合もあれば、判定されない場合もあり、その違いは後から皆がそれを覚えているかどうかでしか判別できないというクソめんどくさい事になっている。

 それは、軍に入ってから、何度も俺を暴力でイジメようとしてくる奴らに反撃していて気が付いた。

 同じ相手を同じ時間に同じだけボコボコにしても、それが俺の仕業になるかどうかが違っていたので、本当にただただランダムとしか思えない

 このギフト寄こした神様が、ゲハゲハ笑いながら勝手に決めてるんじゃないかと思ってる。


 もっとも、あまり人と関わらないのであれば、俺自身がとても強くなれるギフトだから便利なんだけども。

 だから軍に入ってから、魔獣討伐で出撃しても大戦果を上げてたし、ハッキリ言って軍で最強なのは俺だと思ってる。

 でも、俺が活躍すればするほど当然それは功績として見られちゃうから、皆俺がやったことを忘れる。

 忘れた場合、どうも都合がいいように情報が整理されるらしくて、俺以外の強い誰かとか、天変地異とかで相手が死んだことになるらしくて、俺が頑張った戦場は何故か後から奇跡が起きたって指定されてる物もある。


 ただ、軍の場合は本来戦功を記録官が記録しておいてくれるんだけど、1時間だけは俺の功績を覚えているから、記録用の台帳には俺が大活躍した事が書いてある。

 なのに、本人にはそんな事を書いた記憶が無い。

 だから、証拠は全くないけど俺が偽造したんじゃないか?という論調で今回裁判を受けて、まあ訓練もサボったことになってるし、お前なんて要らねぇと追放されちゃったわけだ。


 因みにだけど、俺のギフトによって功績を忘れてしまうという効果は、同じSランクギフト持ちには効かない。

 この国にいるSランクギフト持ちは、現在公になっているだけで4人。

 1人は王様で、『王者』ってギフトらしい。まんまだな?

 2人目は王女様で、『聖女』ってギフトらしい。本人は聖女って言われると内心キレてるみたいだけど。

 3人目は俺の幼馴染で今魔術師団に所属している女で、『賢者』ってギフトだ。まだ俺と同じ18歳だっていうのに、死ぬほど酒とギャンブルが好きな賢者だ。

 4人目も俺の幼馴染といえば幼馴染だけど、コイツは男で、『勇者』ってギフトを持ってる。

 この4人目の証言が決め手となり、俺は追放されたんで、今現在、俺はそいつの事を「死ね」って思ってる。


 Sランクギフトを持ってる王様と王女様、そして賢者様は、俺が色々やってることを忘れないからか重宝してくれていたけれど、それは周りからすると贔屓にしか見られていなかったらしく、めっちゃ心証が悪かったらしい。

 更に、王女様の兄である第1王子が俺の幼馴染の女の事が好きらしくて、その女に気に入られている俺に対するヘイトがすさまじかったと噂で聞いた。

 でも、別に俺はその女と男女の仲だとかそういうことはない。

 童貞だし。


 それで裁判になって、


「俺はちゃんと仕事してる!Sランクギフトを持っている奴なら俺の言ってることが本当だってわかる!」


 って主張して、仲がいいと思ってた幼馴染の男に急遽証人になってもらったんだけど、


「コイツの言ってることは嘘です」


 って言われちゃったんです!

 どうなんですかねこれ!?

 嫌われてたのかなぁ!?


 まあ、それはいいや。

 重要なのはこれからだ。

 お金を稼がないと、今日寝る所すらない。

 なにせ、今の俺は一文無し。

 訓練場から引っ立てられて、部屋に戻る事すら許されなかったから、今の持ち物は汗だくの服と靴だけ。

 今考えると、俺の数少ない後ろ盾になってくれそうな人物である王様と王女様が外国に行ってて、それに護衛として幼馴染の女が付いて行っている今は、俺を排除するのにいいタイミングだったんだろう。

 そんな事も知らずに間抜け面でいつも通りの訓練してた俺なんて、いくらでも排除できるだろうさ。


 万が一のために靴の中に銀貨の1枚でも入れておけばよかったなぁ……。

 まあ、功績の無い俺なんて基本給しかもらえないから、そんな事する金銭的余裕も無いんだけど!

 一応侯爵家出身なんだけどな?


「だが!その内に軍を止めようと思っていた俺は、その後の事も多少は考えていたのである!」


 城門の手前で、空元気でカッコつけて声を出してみたけど、門番に睨まれたからさっさと行こうっと……。

 戦ったら楽勝だけど、流石に何も悪いことしてない奴に暴力はちょっと……。


 まあさ?

 今の状況を好意的にとらえるなら、やっとあの針の筵みたいな場所から脱出する機会を得られたわけで、さっさと次に行くチャンスなんだ!

 軍では記録を人間がやっていたからカスみたいな対応だったけど、俺は知っているんだ。

 仕事の記録は魔道具で共有し、報酬も1時間以内に支払われるという俺にとって夢のような職業を!


 ずばり!冒険者!


 魔物倒したり仕事を斡旋してもらって成功報酬で食いつなぐ奴らだ。

 基本ゴロツキ。

 一部のヒーロー扱いの奴ら以外は、臭くて危ない連中と思われている連中。

 そんな奴ら相手だからこそ、情報は魔道具でキッチリ管理してくれるらしい。

 それくらいしか知らんけど……まあ何とかなるだろ……。


 俺は、内心不安しかない状態で、冒険者たちが集う場所、冒険者ギルドへと向かった。





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