第5話 願い
―――彼は成長した。通常、本能のまま生きる彼はいわゆる、野生動物、獣であった。肉を喰らい、水を飲み、睡眠とる、その繰り返し、獣であった。そう、獣であった。彼は偶然か必然か、今起こる現象に巻き込まれる。
まれに、その現象が起こるとき、近くにいることで生物に変化、思い、願いに応じて、成長、進化がもたらされると言われている。
そうして彼は獣から成長した。獣があるが故、その時彼はいつも通り、ただいつも通りに本能のまま生きていた。しかし獣から変化するものがより良いものになるとは限らず、いわゆる、怪物と成った。
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動きだすその怪物は、手に何かを持っていた。そして、ずるずるとそれはその怪物の中に消えていった。
そしてゆっくりとそれは暗闇の中に姿を消すのであった。
それの姿が見えなくなると、身体から緊張が抜け、固まっていた思考と身体が動き出すことを許した。
「早くここから出よう……」
「ごめんね……錬……動けそうにないよ」
先ほどのあれで腰が抜けてしまったのか詠が動けずにいた。そのため、背負い連れていくことにした。
あれが何なのか、本当に現実に起きたことなのかいまだ混乱する中、早くここから出たいという一心で足を動かし、出口に向かった。
―――あっさりと出口に到着することができた錬と詠であった。
「本当にさっきのはなんだったんだろうな…?」
「わからない…けど、錬が来てくれて嬉しい。本当にありがとう」
「助けられて良かった」
そして、出口から出ようとした瞬間、異様な気配が体に流れ込み、身体を動かすことができなくなった。
目の前に、あの怪物が現れたのだ。
その怪物は手と口が赤黒く、汚れており、こちらをジーっと見つめている。
これはやばい、本格的にやばい。その怪物は死そのものだ。詠を助けられない。
どうしてこんなことになったのだと。自分を恨み、怪物を睨む。自分に力がなく、身近な人を守ることが出来ず失う。
守る力があれば、―――願う。届かない。願う。届かない。願う。届………かない。
無情にもその怪物は二人に近づく。目は赤く、獲物を狙うその怪物はゆっくりと近づく。
願う。願う。願う。願う。願う。再度願う。
彼は気づかない。その身に受けた祝福を。偶然か必然か、彼には強い願いなど今まで存在しなかった。なぜなら願ったところで救えないものは存在し、どこまでも無力であったからだ。しかし彼は今、心の底から願った。彼女を守れる力が欲しいと。この怪物を恐れぬ心と体を。刹那……その願いは……。
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ふと気が付くと
それはこちらを覗き込むように話しかける。
「やあ、君は今のこの世界をどう思う?僕は少し刺激が欲しかったんだ。僕はね、君がここに来ることが楽しみだったんだ。その魂の色、形、匂い、全てにおいて、君は僕の好みだよ。だから最初は君って決めていたんだ。変わりゆくこの世界を楽しんで生きるといいよ。どんな苦難や困難をも乗り越えるような君の生き方を楽しみにしているよ。」
「君にはこれを。これは僕から君への初めての贈り物だよ。頑張ってね。」
かけられた言葉の理解をするより早く意識が遠のく。
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意識が戻り、目の前には、まだ怪物がこちらを見つめていた。
しかし明らかに先ほどと違い、体が動かせるようになっていた。
まるで何かの力に目覚めたように。体の内側から力が溢れ出るような感じがした。
そして、溢れる力で目の前の怪物に立ち向かうことができる気がした。
「詠。俺はお前を守ると決めた。だから、この怪物は」
「俺が倒す!」
手を軽く広げ、体から溢れる力を手に向けた。すると手元に一本の槍が現れ、それを掴む。
溢れる力の影響か、槍の使い方はなんとなく理解することができた。
怪物が敵意を感じ取ったのか、怪物は身構える。
刹那、
「ギャァアアァ!!!!」
怪物は腕を振り下ろし攻撃を仕掛けてきた。それに対処するように俺は槍を振るう。
生きてきて槍を扱ったことがなかったがこんなにもしっくりくるものなのかと思えるぐらい怪物の攻撃に対処していた。
しかしながら、怪物の力は強く、
ドン!!
「うっ!」
壁に叩き付けられる。痛い、痛い、痛い。
しかし詠を守る。その一心で立ち上がる。
「オラァァッ!おれは…負けない!詠を守って!必ずお前を倒す!」
立ち上がる錬であったが満身創痍の状態であることは変わりなかった。
好機であると感じ取ったのか,怪物はさらに攻撃を繰り出そうとしている。
次の攻撃は受けきれそうにない。ここで力を出さなきゃ、奴にやられる。
覚悟を決め、槍に力を込める。槍先に力が流れ込み、輝きを放つ。
「穿てぇぇぇ!!!!」
手から離れたその槍は、金属が擦れるような音を立てながら、周囲に稲妻を出しながら勢い良く、その怪物に向かって飛んで行った。
突然の出来事であったが怪物は本能で危険を感じとっていたが、動けずにその槍を受ける。
大きな音を立てながら飛んで行ったその槍は怪物の胸を貫き、大きな穴を開けた。
「はぁ………はぁ………」
「何とか………倒すことがで………」
ドサッ
俺の意識はそこで途絶え、倒れることとなった。
残された槍はキラキラと風に乗って消えていき、貫かれた怪物も黒い霧となって消えた。
残されたのは、黒い霧となって消えていった怪物が残したと思われるキラキラと輝く宝石と
激しい戦闘を目にしたが、どこか目をキラキラと輝かせながら座り込む詠であった。
そしてこの日を境に世界は大きく変わり、やがてこの日のこと世界から祝福と脱却の日、そう呼ばれることとなるのだがこれはまだ先のお話である。
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ああ。やはりあの魂に見合った素晴らしい能力を手にすることができたようだね。うんうん。僕が見込んだだけのことはある。うふふ………これでやっと次の段階に進められるよ。ああ楽しみだ。彼の成長、苦難や困難を乗り越える姿。これから本格的に始まる改変でどのような成長を、冒険をしてくれるのかな。それに………
ああそうだった。今の戦いどうだったかな?僕的にはもう少し見たかったけど。それはさておき君たちも、この子の、この世界の子たちの、それに■■■■■■の成長を見届けてくれると嬉しいよ。
いつか相まみえる時が来たら仲良くしてあげて欲しいな。
それじゃあまたあとで!僕はやることがあるから、次会えるのはもう少し先になるけどそれまで楽しみにね!
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