第4話 月明かり
月明かりが地面を照らす。
その日は少し風があり草木は風に吹かれて揺れている。
普段なら気持ちの良い夜であった。しかしそこに見える廃墟から響く声、バタバタとした足音、草木同士が擦れる音、錬にとっては焦りと緊張でその風景は不気味なものになっていた。
目の前に移る廃墟はどこかの会社の跡地であった。
廃墟の入り口の扉は既に壊れているため入ることは容易である。そのとき、入り口の脇から物音が聞こえる。体が硬直し、手を震わせながら身構える。ゆっくりと慎重に近づいていくと、人らしき影が倒れていた。
この日は満月であったため月明かりでよく見える。
このひと時、詠の件を忘れるほど恐ろしいものを見てしまった。
その者は金髪で明らかに不良らしき装いをしていたが腕は折れており、あしが無い。
ひざから下が血にまみれ無くなっている。なぜこの男がここでこんな風に倒れているのか、不気味で仕方がない。少なくとも人の力では到底できそうにない損傷を与えていた。
男の姿に気を取られていたがそのとき、建物の中からの男の怒鳴り声が聞こえ、我に返った。今は詠を助けることが優先だ。
そうして錬は建物の中へ入っていった。一抹の不安を残して……。
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一方その頃……。
――男は焦っていた。谷川家の娘は未だに見つからない。
男はとある犯罪グループの一員だった。そして、普段からよく悪事を働いていた。万引きや、窃盗、暴行などと様々なことをしてきた。もちろん警察に足取りをつかまれないよう動いていた。
そして男は計画を立てる。多額の活動資金を欲しいがためとある人物の娘の誘拐を考えたのだ。
男はそうして仲間を募り2人がこの計画に加わった。
男たちは普段から誘拐の機会をうかがっていた、がようやくその時が来たと。
自転車で帰宅途中のところで道を3人で囲み、取り押さえ車で誘拐する算段であった。しかし、失敗した。あの娘は催涙スプレーを持っていたのだ。
男たちは反撃の想定はしておらず中学生だからと侮っていた。
仲間の一人は催涙スプレーが直撃したようだった。催涙スプレーがあまりかからなかった残りの二人であのガキを追いかけることとなった。そして追いかけた先、娘が入っていったのがあの建物だった。男たちは逃げられないよう外と中で別行動にして捕まえることにした。
段々と時間が経ち、焦りからか探す声が大きくなり始めた。そして男の頭には血が上っており気付くことが出来なかった。外から一瞬、何かが潰れる音に。
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俺は携帯の位置情報から詠がいる場所が建物の入り口から反対側の北側にいることが分かった。
階数はわからないがあの男を引き離すにはせめて建物の2階以上、できれば入り口から遠い場所に誘導する必要がある。廃墟ではあるが建物の案内がまだあったため階段の位置は把握できた。
それぞれ東西南北に階段があり建物の正面、南側には非常階段、それ以外は普通の階段があることが分かった。廃墟であるため実際に使えるかどうかわからないため、まずは詠がいる北側を捜索することを決めた。
捜索をはじめた俺は、あの男に注意を払いながら携帯の位置情報を頼りに、1階、2階と探す。
もちろん詠は声を出すことが出来ない状態であり、こちらも声をだす訳にはいかなかった。そして位置情報を頼りに探していると携帯が落ちていた。携帯を取ろうとした瞬間
「…錬!」
隠れていたであろう詠が物陰から今にも泣きだしそうな顔を出していた。
「――詠、無事だったか。とりあえず早くここから出よう」
「うん……」
「よし…!行くk———」
そこから立ち上がろうとした瞬間、轟音が鳴り響く。
「キャァ!?」
「なんだこれ!?」
ふと轟音のする方向を見ると自分たちのいる反対側の三階部分が崩れ、砂ぼこりが立ち昇る中、薄っすらと月明かりに照らされ、中で蠢く大きな影がそこにあった。
次第に砂ぼこりが晴れ、その禍々しい姿を目の当たりし、二人は絶句する。
———声が出ない……あの化け物から目を話すことが出来ず、また足を動かすことが出来ず、どうすることもできない、
そしてそのことすら認識出来ずに、その姿から目を離すことが出来ずその場で固まるのであった。
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