第3話 嵐の前触れ
「さて、そろそろ帰るとするか」
辺りが暗く、アクセサリーを作った満足感とともに帰宅することとなった。
ちなみに早めに帰らないと詠が怒られる。詠の門限は中学生にしては遅めな設定がされているが破るととんでもないことになるらしい。だから帰る準備をし始めた。
詠はペンダントをもらってからなんとなく機嫌が悪い。なぜかわからない。ペンダントが気に入らなかったのかもしれない。とりあえず全員帰る準備が整ったようだ。
「詠、割と遅いし途中まで送ってくぞ」
「そうだなっと、わりーけど俺は家の手伝いあるからよみりんのことは任せたぞ友人」
「ああ。しっかり送り届ける」
時間が少し遅いときは大体、俺が詠の家がある市内まで送っている。そんないつも通りの返事を返した。廉人の家は母子家庭で家事などをよく手伝っている。そうして廉人は先に帰る。
いつも通り彼らは秘密基地から蘆谷家までの道を普段通りの足取りで歩いていた。そのとき、地鳴りのような異変を感じ取り、数秒しないうちに地が揺れる。
「おお、震度1、2ってところか?」
「3はなさそうね。というか最近やけに地震が多い、少し怖いわ」
「ああ、大きな地震とか起きなきゃいいけど」
近頃地震がやたら多い。それもここ1、2週間の話で、しかも地震は世界各地で起きておりニュースもそればかりである。天変地異の前触れとも言われているが定かではない。まあ地震大国の日本ならどうということはないが海外での地震は怖いものだろう。
地震の多さに少し怖がる二人であったが、詠の少し怯えた様子をみた錬が、
「まあどんなことがあってもお前らを守るけどな」
そんな恥ずかしいセリフを淡々という錬に詠はため息をつくのであった。
「まあいいわ。いつも通りのあなたで、しっかり私を守ってね!」
そうして詠の機嫌はいつも通りに戻るのであった。
「今日はペンダント作ってくれてありがとう。出来ればペンダントよりイヤリングとかのほうがよかったけどね!」
「ああ、機会があったら作る。まあ道具買えばいいだけだけどな」
いつも通り彼らは秘密基地から蘆谷家までの道を普段通りの足取りで歩いていた。そうこうしているうちに自宅に着いた。詠が家族に挨拶をして、ふたりとも自転車に乗り、自宅から市内まで送り届けるのであった。そして明日には普段通り学校に行き普段通り学校生活をする。日常が続く。続くはずだった。
詠を送った帰り不意に携帯電話が鳴る、携帯を見ると詠から掛かってきていた。忘れ物でもしたのかと電話に出る。
「もしもし?」
返事がない。
「どうした? こっちの声聞こえてないのか?」
そして、電話の向こうから声が聞えた。
「おぉい! お嬢ちゃん早く出て来いよぉ! こんなとこに助けなんて来ねぇからよぉ! 君のお父さんと”お話”してぇだけなんだよぉ!」
体が固まる、汗が出る、思考が止まる。そして小さな声で『たすけて』と泣きそうな、今にも消えていしまいそうな声が聞こえる。
落ち着け俺、思考しろ、体を動かせ、もう二度とあんな思い、するものか!蘆谷錬は自分自身を奮い立たせるのであった。自身を落ち着かせて考える。位置情報アプリで位置情報共有をしているためすぐに場所は分かった。どうやら詠の自宅からそこまで離れていないようだった。場所から考えるに車などで連れ去られたわけじゃなさそうだ。そしてすぐに廉人にも知らせた。
それと同時に街へと引き返した。自転車のチェーンが外れそうな勢いで走らせ続ける。俺の心臓は破裂するのではないかというほどバクバクと音を鳴らしながら鼓動する。街の光が残像を残す程にかれは自転車を漕ぎ続けた。やがて着いたのは位置情報に載っていたこの辺りで有名な廃墟だった。建物周辺は草木が生い茂っており、街灯がなく、月明かりが照らすのみだった。
建物に近づくと声がする。イライラと焦燥感のある怒鳴り声だ。犯人らしき人物はまだ詠のことを見つけられていない。
俺は安心とともに犯人の誘導と詠の逃げる隙を作るために犯人に近づくことを決意するのであった。
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