#094 : 請求書☆世界征服の火種は経理から
──ギルドの外。
地面に叩きつけられたユリシアが、剣を支えにふらつきながら立ち上がる。
──そして、私とユリシアの視界に入ったものは!
【落とし穴 ここだよ☆(byエスト)】という看板。
看板の横ではニコドヤ顔でピースする小娘。
小娘を止められなかったためか、私に土下座をする辰夫。
よくわかってないけど、笑顔で私に手を振る辰美。
サクラ&ユリシア「「…………」」
私とユリシアの時間が止まる。
「……おい…嘘でしょ……?落とし穴の場所教えるとか……ここはなんて優しい世界なんだよ……?」
私はパニックになった。
サクラ「小娘ぇぇぇぇぇえええええい!!!!!」
エスト『え?だって分かりやすい方がいいかなって☆』
サクラ「バカか!バカだバカだとは思ってたけどどこまでバカなんだよこのバカは!バーカ!」
エスト『バカにバカって言っちゃダメなんだよ!』(ぷんすか ※逆ギレ)
辰夫「今の発言的にはバカの自覚が……」
辰美「あははははははw」
ユリシア「……ここに“落とし穴”……確かにそう書いてある……!」
正義さんはしばらく黙って札を見つめていたが──やがて小さくうなずき、踏み出す。
サクラ「落ちて!落ちてお願い!お願いだから!」
私は初めて神に祈った。
ユリシア「──我が正義はそんな罠になd」
正義さんは叫んだ。
──ズボォッ!!!ガラガラガラ!!!
ユリシア「うわあああああああああああああッ!!?」
サクラ「なんで落ちたんだよぉおおおおおおッ!!?」
私とユリ様は同時に叫んだ。
看板をしっかり読み、確認した上で直進して、完璧な角度で落ちていくユリシア。
サクラ「……逆に凄いわ……えっと……ありがとう?」
私は、もう言葉を失って穴の縁まで歩きながら言った。
エスト『ちゃんと落ちたね☆』
嬉しそうな小娘。
辰夫「まさか…落ちるとは…」
目を見開き驚愕する辰夫。
辰美「私!凄いもの見たw」
嬉しそうな辰美。
── そしてヒラリ、と穴の中に吸い込まれていく看板が舞い落ちる。
……ガンッ!
ユリシア 「ふにゃ!」
穴の奥から何か聞こえたけど、無視。
サクラ「……ねぇエスト様?」
エスト『えへへ!お礼ならいいよー☆』
サクラ「あとで話がある。」(目が笑ってない笑顔)
エスト『ひぃ!?』
…
私は拳を腰に当てて穴を見下ろす。
サクラ「……ねぇ、ユリ様……って深っ!?……この穴深っ!!」
エスト『50メートルはあるよ☆』
サクラ「落とし穴レベルマックス!?」
辰夫「ちょっとだけ……“竜の本気”、お見せしました(ドヤ)」
辰美「うんw」
辰夫と辰美が誇らしげに伝えてきた。
サクラ「ドラゴン組すげーな!」
…
《落とし穴掘る時の回想 : 天の声視点》
── その直前、穴を掘るためにふたりは一瞬だけ本来の姿に戻っていた。
辰夫「ふんッ!」(ブレスを地面に吐く)
辰美「はいッ!」(ブレスを地面に吐く)
ギルド裏の地面が、ドゴォォォン!と大きく陥没する。
街の人A「で、ででで ── でたあああああああああッ!!!」
街の人たち「黒いのと赤いの!?」「どっちもでけぇ!?」
街の人たち「ドラゴンだぁああああ!!」「逃げろおおおおおお!!」
黒と赤の巨大な竜──辰夫と辰美が、堂々と地を掘り返していた。
その爪は鋭く、その咆哮は轟き、その姿は完全に自然災害である。
街の人たち「きゃああああ!」「ドラゴン出たああああ!」
街の人たち「避難警報だ!避難警報ッ!!」
街の警備隊「こちらオーミヤ警備隊です。ドラゴン出ました!みなさま、てんでバラバラに避難してください」(※警備隊も混乱)
ドドドドドドドドッッ!!!
街中に非常ベル(※鍋を打ち鳴らす音)が響き渡り、避難誘導用のゴーレムたちがガシャガシャと走り回る。
だがそれを追い越す勢いで市民が勝手に逃げていく。
街の人B「子どもを連れて!あ、連れてねぇえええ!?」
街の人C「誰かそのベビーカーを止めてええええ!!」
地鳴り。叫び声。破壊音。
オーミヤの平穏は、竜の爪先で5秒で消し飛んだ。
──そしてその数分後、穴は完璧に完成していた。
…
《現在 : サクラ視点》
サクラ「な…なんか街が騒がしいけど…ま、まぁいいわ。おーい!ユリ様ぁ?聞こえてるー?穴に落ちた時点で、“対等”じゃないのよー? “戦い” ? 違うわよ。これはね── “身分の確認” ってやつ。上が私。下があんた。以上。」
ユリシアの沈黙を楽しみながら、私は一歩、穴に近づく。
サクラ「まさか、“正義”の看板掲げて、看板に書かれた“落とし穴”に落ちるとはね?目も脳も足も全部ポンコツかよ。騎士様ごっこもそこまでくると哀れだわ。」
一拍置いて、えぐるように言い放つ。
サクラ「で?今どんな顔してんの?くやしさ?情けなさ?
“正義”の仮面が泥だらけになった気分は?もうここからは“戦闘”じゃないの。
“後処理”よ、後処理。この穴と一緒に、あんたの尊厳ごと埋めてやるわ。
ばーかばーかばーかwww…ふう。ばーかばーかばーかwww」
エスト『お姉ちゃんのスキル【超粘着】出た☆』
辰夫「相変わらずのしつこさ…」
辰美「容赦無いサクラさん好きw」
──その言葉に、ユリシアは震えた。
落とし穴の泥で顔はぐしゃぐしゃ、髪は乱れ、頬には落ち葉。
そしてなぜか、【落とし穴 ここだよ☆】の看板をしっかりと握ったまま。
威厳も正義も見当たらない──その姿は、もはや“騎士”ではなく、“リアクション芸人”だった。
それでも彼女は、崩れそうな声を振り絞る。
ユリシア「く……ふ、ふふ……認めない……!覚えていろ……鬼の女……!!」
サクラ「いやん!サクラって呼んで!」(煽り ※性格最悪)
ユリシア「次に会う時は、貴様を"断罪"してみせる!!この私が!!絶対にッ!!この恨み、正義にかけて!!」
ドガァン!!!
雷魔法で無理やり跳躍、ギルドの屋根を越えて──白煙とともにユリシア、退場。
サ「……逃げたね」
エ『ユリ様面白かった☆』
夫「敵ながら天晴れ。」
美「あははw」
──数分後。
ギルド職員が、書類を抱えておずおずと近づいてきた。
ギルド職員「さ、サクラ様……こちら、修繕費のお見積もりを……」
サクラ「は?」
ギルド職員「ギルド外壁、屋根、受付カウンター、街路……すべて破損でして……総額、3210万リフルとなります」
サクラ「………………はぁ???」
ギルド職員「えっと……その……ユリシア様の攻撃による被害が大半なのですが……」
サクラ「──ユリシアは"ラウワ王の命令"で来たって言ってたわよね?」
ギルド職員「え、あ……はい?」
サクラ「つまりラウワの差し金でギルドが壊されて、私がそれを迎撃して、結果────“請求は私に”?」
(ピキッ!ピキキキキキッ!!!!!)
バァンッ!!!!!
掲示板が木っ端微塵に砕けた。(請求書プラス5万リフル)
サクラ「誰が…誰が払うかよ…ラウワ王だな?因縁付けて来たのは…よろしい…」(ブチ切れ)
サクラ「──ねぇ、エスト様?辰夫?辰美?」
エスト『う?☆』
辰夫「は、はい…(察して震え声)」
辰美「はーい?」
サクラ「魔王軍総動員だ……ラウワ王都を…焼きに行くぞ…」(怒りすぎて涙が出て来た)
エスト&辰夫&辰美「「『ラウワの中の人達逃げてー!?』」」
──こうして、
ポンコツ魔王とだるい鬼による世界征服は──
"請求書の恨み"から、次の一歩を踏み出すことになった。
サクラ「なんだろうね……なんかもう……ムカつくから全部ぶっ壊すわ。」
(つづく)
◇◇◇
《征服ログ》
【征服度】:4.1%(王都ターゲット選定により進行)
【支配地域】:オーミヤ(ギルド:残HP5%)
【主な進捗】:
・S級異端審問官ユリシアを落とし穴で処理
・貝殻ナックル&バットによる勝利
・請求書3210万+掲示板破壊5万追加
【特記事項】:
正義と請求書は、静かに火を点けました。次なる犠牲者:ラウワ王都。
◇◇◇
──今週のムダ様語録──
『請求書は、理性を削る武器だ。』
解説 :
……って、昔ムダ様が言ってた。
今ならわかる。これは戦争の引き金になる。