#009 : 魔王の弱点☆アゴだよ?
前回までのあらすじ
→ ノリと勢いで勇者になった。
◇◇◇
「……いやマジで、まだ膝ガクガクしてんだけど……」
「心臓バクバクで倒れそう……いや一回死んだ気持ちになったからセーフ?」
深呼吸しても全然落ち着かない。
それでも目の前にはポンコツ魔王(妹)が転がっている。
《世界一タフな性格》 ── 自然に発動!!
「……はぁ……妹がポンコツだから、休む間もなくお世話係ですよっと……」
私はしゃがみ込み、エスト様の頬をペチペチ叩いた。
「おーい、エスト様ー?大丈夫ですかー?
聞こえてますかー?……うーん……ダメか」
── 仕方ない。
「はいはい搬送しますよー(*雑)」
私はズリズリとエスト様を布団まで引きずる。
「まったく……妹になったからって、
お姉ちゃんは甘やかさないからな……って軽っ!
いや、これが鬼の怪力?」
ドサッ!(*とりあえず布団に放り投げた)
「……水でもかけときゃ目覚めんだろ」
私は水差しを手に取ると──バッシャァア!!
『ひゃ!?』(ぱちくり!……むくり)
(沈黙)
『……なんかアゴがジンジンする☆』
「はい目覚めた!!事故です、幻覚です、夢でしたー!」
エスト様が意識を取り戻した。
よかった、目を覚ました……と、思った次の瞬間だった。
『ふらふら〜☆』
「寝てなさい、脳が揺れてるから。」
私の言葉を遮るようにエスト様は立ち上がろうとして、ふらりと前のめりに倒れ込んできた。
「あぶな──」
──ゴンッ。『またアゴッ☆』
エスト様のアゴがヒジに直撃し、静かに崩れ落ちた。
私は硬直したまま右ヒジを見つめる。
「………えぇ?」
《ぺったん ぺったん ずんどこどーん♪》
【サクラのレベルが120に上がりました】
【光魔法:ライトアローを習得しました】
「………えぇえええええ?」
……い……今ので倒したことになるの……?
……そして光魔法……勇者……っぽいね……。
(ねぇ誰か説明して? 私の人生で遊んでるヤツいない?)
──CM風字幕──
\\ ☆ 新スキル獲得 ☆ //
【スキル名】光魔法:ライトアロー
【取得条件】妹のアゴをポキる
────────
「条件どうなってんの!?」
──その時、私は気づいてしまった。
「……この子、アゴ……脆すぎない……?」
──天の声──
この日の一撃が、もしかしたら初の"致命打"だったのかもしれない。
この小さな魔王の身体には、致命的な弱点ができてしまったのである。
そう ── それは……魔王は"ガラスのアゴ" なのである。
◇◇◇
── そして、エスト様が目を覚ました。
『……やっぱりアゴがジンジンする☆』
「夢です。幻覚です。事故です」
(すべて偶然で押し通す。これ基本)
(静寂)
『そうだ!お姉ちゃんのレベル上がった?』
「ええ……まぁ……少しだけ」
『おお!じゃあまたスパーリングで ──』
「はい中止。ご飯食べましょう」
『うん!お肉!!』
『……でもさっき起きた瞬間、またアゴに衝撃が──』
「夢です。幻覚です。事故です」
『そっか!ごめんなさい☆』
(よし、勝った)
*サクラさんは20歳超えた大人です。
◇◇◇
外出する準備を続けながら、エスト様に質問してみた。
「ちなみにエスト様?勇者が現れたら、どうします?」
『全魔力を使うけどアルティメットスキルで地獄にバカンス送り☆』(にぱっ)
「なるほど。大変参考になりました(ヒィィ……)」
(アルティメットスキル?……そんなのあるの?)
「エスト様のステータスを見せてもらってもいい?」
『いいよ!ステータスオープン☆』
\\ ぴろぴろぴろ〜ん☆ ポンコッツ♪ //(*ステータス画面展開音)
「うん、ポンコツって知ってた。(確信)」
==========
【エスト・ラピス・ネフィル】
魔王/レベル2
HP:68
*怒られると3減る
MP:∞(制御不能)
*空間が勝手にねじれる。本人は気づいてない
筋力:5
*ペットボトル開けられない
知力:8(バカ)
*会話のテンポはいいが、話の内容は全部まちがってる
精神:1(豆腐)
*お姉ちゃんに怒られると泣く。でも反省・学習しない
スキル:
・天与の魔力(持ってるだけで迷惑)
*魔力だけ最強
・奈落穿つ咎の瞳(勇者にだけ超特攻)
*全魔力を消費し、勇者を魔界に封じ込める事が出来る
*正式名はダサくないもん!と言い張っている
・その他、性格:純真・単純・バカ
*本人は「天才」だと思ってる
==========
『ふふん☆ すごいでしょ!』
「(……うん、勇者バレしたら即死確定)」
── その時だった!
エスト様の足元に、するりと蛇が現れた。
「危な ── ライトアローッ!!」
シャパッ!!!
光の矢で蛇を一刀両断。
《天の声:レアモンスター《殺意のコブラたん》を討伐》
《ぺったん ぺったん ずんどこどーん♪》
【レベル130に上がりました】
「はああ!?今の蛇、レアだったの!?」
《殺意のコブラたん:眠くなるという猛毒持ち。10年に一度しか出ない。》
「レアの癖に毒の効果弱ッッ!!!」
『……?』
(沈黙)
──その瞬間、エスト様の顔色が変わった。
『あれ……お姉ちゃん!?今の、ライトアロー!?』
「えっ?うん。……え?」
『えええっ!?それって勇者しか使えない魔法じゃなかったっけ!?』
「……は???」
『光魔法って、勇者専用だよ!?だから私びっくりしちゃって!』
(沈黙)
(キュルルルル!!!!! *胃の音)
「えっ……マジで……?」
──そして頭が真っ白になる音がした。
キィィィィィン……!(金属音+思考停止エフェクト)
あ、これ詰んだやつだわ。胃だけは正直。
光魔法=勇者専用……?
知らんかったわーーーーーーッ!?
落ち着け!今知ったならセーフ!
知らんからセーフ!はい無罪ィィッ!!
──そのとき。
ズギィィィィィィィン!!!!!
《♪BGM:深淵の序曲(咎の瞳・起動テーマ)》
(重厚なオーケストラ×パイプオルガン×滅亡系コーラス)
突然!宙にふわりと浮かぶエスト様。
地面に魔紋が浮かび、空気がバキバキに歪む。
ズゴゴゴゴゴ……!!!
《【奈落穿つ咎の瞳】 ── 起動》
「エスト様の声じゃない?別人格!?なんだこれ!?」
《いえ。やっぱり 【プリティー☆エリミネーション】 ── 起動》
[タグ]#空飛ぶ妹は大体ヤバい #妹が飛んでるだけで事件 #魔法陣多すぎて回転寿司状態
「名前かわいくした!?コンプレックスなの!?」
《……………。》
(あ…図星だったんだ…ごめん…)
シュイン!シュイン!シュイィィィィン!!
《対象:勇者反応。敵意評価──開始》
「ちょっ、待て、待て待て待て!?
初耳なんだけど!?光魔法って勇者専用なの!?!?」
《対象:勇者反応、確認完了》
(いや、知らなかったし!?
誰も教えてくんなかったし!?!?)
《撃滅プロトコル──最終段階へ移行》
「ていうか私、勇者なの!?違うよね!?
鬼だし!!!違うと思うよ!?!?!??」
《──ビーム、チャージ完了。》
地割れが走り、空間が軋む。
(だめだ、マジで撃たれる……!)
……一瞬、時が止まった気がした。
心臓が嫌なほど早く打っている。
(……これ、本当に殺されるやつじゃない?)
目の前のエストがいつものエストじゃなく、
何かとんでもないものに見えた。
"今、死ぬかも"というリアルな予感が脳裏をかすめる。
(落ち着け……落ち着け……!)
(今言えることを、全部ぅー!!!)
── 突然、私は両腕の筋肉をムキッとアピール!
「ち、違うのよ!!!」
「これは筋肉なの!!!」
(つづく)
\\次回予告!//
突如放たれた衝撃の一言──
「これは筋肉なの!!!」
光魔法は勇者の証?
それとも筋肉の輝きか?
迫りくる魔王の必殺スキル!
サクラの命運は……量子筋肉に託された!?
次回──
#010 : マッスル☆量子力学概論(必修2単位)
筋肉は嘘をつかない。ただし作者はつく。
\\お楽しみに!//