#009 : 魔王軍 in 人体発火勇者──世界を焦がすのは羞恥心。
前回までのあらすじ
→ でっかいバカが、ちっこいバカのバリアを殴ったらバリア割れたとこ。
◇◇◇
【現在地】パンジャ大陸南東部・常闇のダンジョン最深部(魔王の間)
【視点】サクラ
【状況】異世界生活3日目。スパー開始。魔王のバリアをワンパンした瞬間。
◇◇◇
\\パリィィィィィン!!!//
まるでガラス細工のように、バリアが粉々に砕け散った。
【スローモーション開始】
光の破片が宙に舞う。
キラキラと輝きながら ── ゆっくりと落ちていく。
バリアの向こうで、エスト様の目が点になる。
[タグ]#世界征服は無理そう #筋肉は裏切らない
ヤバい!と気付いたエスト様!
『ひっ』と声を絞り出す。
そして、必死の形相で逃げようとするが……
そのまま勢いの止まらない拳が──
ゴツン!!
エスト『アゴッ☆』
エスト様のアゴに、クリーンヒット。
涙、鼻水、ヨダレがゆっくりと空に舞う。
── そして、ゆっくりと倒れる。
【スローモーション終了】
サクラ「……」
私は砕けたバリアの残滓を見下ろす。
(静寂)
私は拳とエスト様を交互に見つめた。
サクラ「えーっと……」
(…………)
(……やっちまった……?)
サクラ「どうしよう……」
──この時はまだ誰も知らなかった。
この出来事が、“魔王の致命的なウィークポイント”を世界に知らしめる第一歩になるとは──
◇◇◇
私は気絶したエスト様を見下ろしていた。
……うん、寝顔は天使。ヨダレ量は災害。
──この時の私、未来でそのヨダレに助けられるとは思ってなかった。
……こんな簡単に気絶するほどのポンコツ魔王が、“世界征服”なんて……ムリ。
でも……言い出したのは妹だ。
だったらもう、やるしかないじゃん。
守るのも征服するのも、まとめてやったるわ。
家族ってさ?姉ってさ?そういうもんでしょ?
(うーん……家族……ね……)
(頼られて、必要とされて、大切にされて……)
(私を呼ぶ声……あったかくて、悪くない。)
(うん……悪くない。)
(……)
サクラ「……姉?姉妹?……私が?暴力と逆ギレでできてる私が?」
── その時である。
《ぺったん ぺったん ずんどこどーん♪》(*レベルアップのテレレレッテッテッテー♪のリズム)
サクラ「わわッ!びっくりしたぁ……頭に直接聞こえてる?」
脳内にレベルアップ(?)のファンファーレが鳴り響く。
サクラ「ずんどこどーん♪じゃねぇええ!!何がレベルアップだよ!どこが上がったんだよ!?」(胸をガード)
【サクラのレベルが100に上がりました】
サクラ「…………ッは?」
サクラ「レベル100?……は?最終回?」
(静寂)
サクラ「いや、ちょっと待て待て待て待て待てー!」
サクラ「え?私だけバグってんの?ねぇ?」
《天の声:理由はサクラだからだ。どうだ?納得だろ?》
サクラ「なんだよその理由!?」
《天の声:お前に理屈を求める時点で敗北だ。》
サクラ「は?急にどうしたの?褒めないで!?」(混乱中)
《天の声:褒めてねーよ》
── そして、再び頭の中に響く声。
《天の声:ついでに魔王を倒したので勇者認定する。常識だな。世界の理だ。》
【称号「勇者」を取得しました。】
(ん?)
サクラ「は?ついで?今度は勇者?」
\\ ぺぺぺぺぺー⤴︎ぺったん♪ // ※効果音
サクラ「なんで効果音変わってんだよ!?」(怒)
================
【ステータスウィンドウ】
名前:サクラ
種族:鬼
レベル:100
▼称号:
- 勇者(成長補正【極】) ☆NEW
- ぺったん鬼女【呪い】
→ 全ステータス20%ダウン(笑)
- 世界一タフな性格
▼スキル:
- 怪力(Lv100)
- 暴食(Lv1)☆NEW(偏食から進化)
================
──かくして、勇者サクラがここに誕生した。
私は首を傾げる。
サクラ「えーっと……」
サクラ「魔王を倒したから勇者……なのかな……?」
サクラ「うん……まぁそうか……なるほど。わかるけどわからん。」
サクラ「……で、これから魔王と勇者が世界を征服するの?」
サクラ「勇者ってさ、普通”世界を救う”もんじゃないの?」
サクラ「私?“世界ぶっ壊す”側なんですけど??」
(拳を見つめる)
サクラ「勇者になっちゃいました!ついでみたいです!てへぺろ★」
サクラ「って魔王に言うの?いや絶対めんどくさくなる未来見えた……」
私は拳を握り力を込めてみた。
身体の中から力が溢れる感覚があった。
壁を殴ったらどうなるか、怖いくらいに予感できる。
(やべぇ……マジで強くなってる……。)
── そんな時だった。
\\ ドガァァァァァンッ!!! //
壁が砕け、現れたのは──【ベヒーモス】。
筋肉と怒気の塊、異世界の生態系トップ。
サクラ「うわああああ!?ビックリしたぁ!?」
(ベヒーモスと目が合う)
サクラ「こんにちは……」(脳が処理を放棄)
(……)
サクラ「って、でっか!?」
サクラ「え!?なに!?どうすんの!?」
私は後ずさりながら震え声で叫んだ。
[タグ]#虹色は混乱 #ヨダレがフラグの量 #理不尽な世界
《天の声:戦え。死ぬぞ。》
サクラ「戦う?アレと!?無理でしょ!?」
サクラ「令和のOLにいきなりラスボスクラスぶつけるなぁぁぁ!!」
ベヒーモスが咆哮し、突進してくる。
その巨体が床を揺らす。
サクラ「やだやだやだ!!」
──ズルッ。
ベヒーモス「ブフォッ!?」
ズシーン!!!
気絶していたエスト様のヨダレに足を取られ、豪快に転倒するベヒーモス。
サクラ「え!?転んだ!?」
地鳴りの中で、私は腰を抜かした。
ベヒーモス「……。」(怒)
(えーっと……)
サクラ「怒ってる!!やばい!!どうしよう!!」
《天の声:スキル《怪力》を使え。》
サクラ「怪力!?」
サクラ「いやいやいや、私ジムの入会金も払えなかったOLだよ!?」
サクラ「筋トレ三日でリタイア勢だよ!?使えって何!?どうやんの!?」
《天の声:仕方ない。今回だけ助けてやる。》
【──強制発動:スキル《怪力》──】Lv100 発動!!
《天の声:それからお前が死んだ時を思い出せ》
サクラ「やめろ……あの夜は封印したんだ……!」
(映像:深夜の住宅街、ファイティングポーズ)
サクラ「うわあああ! あれ思い出すと心臓止まるって!」
【──強制発動:スキル《怪力》── 恥ずか死を思い出したモード】発動!!!
《天の声:恥ずかしかった記憶がサクラの筋肉を呼び覚ます。サクラの攻撃力が1000%アップする。理由?募集中だ。》
サクラ「理由募集中!?未完成のまま実装すんなぁぁぁ!!」
身体の奥からグンッと力がみなぎってきた。
サクラ「え、ちょっ、待っ……力が溢れて──!?」
──さらに。
(ボッ!)
サクラ「……え?」
前髪の先が、燃えた。
オレンジ色の炎が、ゆらりと髪を包み込む。
(……火?)
サクラ「まってまってまって!? 燃えてる!? 私の髪!?!?!」
《天の声:……おい、燃えてるぞ!? お前、燃えてるぞ!?》
サクラ「なんで!?!?!?」
《天の声:おいおい!怪力にそんな効果ないはずだぞ!?》
サクラ「私の身体で初見リアクションすんなぁぁ!!」
《天の声:えっ、理屈どこいった!?!?》
サクラ「お前が理屈の代表だろぉぉぉ!!」
(メラメラメラァッ!)
《天の声:あ、でも……綺麗だな……》
サクラ「感動すんな!!!」
《天の声:熱くないのか?》
サクラ「そういえば熱くない……」
《天の声:マジか……正直、引いてる……》
サクラ「たすけて!?」
《天の声:スキル怪力は感情を力に変える。悲しければ弱くなる。世界一タフな性格のお前しか使いこなせん。燃えるとは知らんかった。》
サクラ「そんな情緒不安定な燃料いやあああ!!」
《天の声:だが、使いこなせれば最強だ。燃えるみたいだし、他にも効果あるかもな》
サクラ「かもなじゃねぇえええ!!雑に実装すんな!!」
(ボォォォォォォン!! *火力⤴︎⤴︎)
サクラ「……わ、わあああ!? 燃えてる燃えてる燃えてるううう!!!」
《天の声:怒ったからか?》
ベヒーモス「グルルル……ッ!?」
巨大な影が再び立ち上がる。
サクラ「くるなぁぁぁああ!! 恥ずかしいのに集中できないんだって!!!」
《天の声:まぁいいか。そのまま燃えろ。感情を力に変えろ。》
ベヒーモス「グルルル……!」
ベヒーモスが接近してくる。
サクラ「くんなぁぁぁ!! 今、髪型がファイヤーなんだよぉぉ!!」
ベヒーモスがダッシュ!!
サクラ「な、殴るよ!?殴っちゃうよ!?」
ベヒーモスがいよいよ目の前に!!
サクラ「も!もももももう知らんッ!右ストレートだぁ!!」
私は叫びながら目を瞑り、全力で右手でパンチ!
ドガァァァァァァン!!
ズドォォォォォン!!!
拳が振り抜かれ、轟音と衝撃波。
ベヒーモスの巨体は壁を突き破り、遥か彼方へと吹っ飛んでいく。
ベヒーモス「ギャオオオオオ!!」
遠ざかる咆哮と共に、ベヒーモスは逃げ去った。
天井から瓦礫が降り注ぐ。
サクラ「……え?」
サクラ「逃げた?……逃げた!?」
サクラ「……勝った……?」
《天の声:とりあえず勝利か》
サクラ「……私、燃えてるんですけどぉぉぉ!!」
《天の声:多分スキル解除すれば消える。多分な。》
サクラ「雑ゥゥゥ!!!」
(スキル解除)
ボワッ。
サクラ「……」
サクラ「……燃え尽きた……って、髪どうなってんの?」
鏡代わりの瓦礫に映る自分の姿──モッサリ。
ふわっふわの、漆黒の……
サクラ「アフロゥゥゥ!?!?!?」
(アフロを触る)
サクラ「女子力も……燃えたじゃん……」
《天の声:上手いこと言うな。感心した。》
サクラ「っさい!!」
(BGM:ずんどこどーん♪)
◇◇◇
《天の声:それよりお前、魔王軍なのに勇者になったな。どうすんだ?》
サクラ「知らん!!」
《天の声:バレたらヤバいぞ》
サクラ「……そういえば」
(考え込む)
サクラ「……私、魔王軍なのに勇者……?」
サクラ「エスト様にバレたらどうしよう……」
(間)
サクラ「……いや、待てよ」
私はムダ様の言葉を思い出した。
サクラ「ムダ様は言った。『敵か味方か? どっちでもいい。殴れる奴は全員敵だ。』ってね。」
《天の声:ムダ様、狂ってるな。》
サクラ「つまり、エスト様は私を殴れない!私がお姉ちゃんだから!」
サクラ「私もエスト様を殴れない!だから味方!」
(うんうんと頷く)
サクラ「私は魔王軍!立場より拳!」(キリッ)
《天の声:お前も大概だな。》
サクラ「……とりあえず寝る」
──こうして、“人体発火勇者アフロ・サクラ”が誕生した。
この日、世界はひとつの事実を知る。
恥は燃える。髪も燃える。だが、心は立ち上がる。
*アフロは昼寝したら治った。
(つづく)
※次回!勇者になってしまったサクラに危機が!?
◇◇◇
《征服ログ》
【征服度】 :0.1%(爆上がりに見えてまだ微増)
【支配地域】:常闇のダンジョン最奥(本人基準)
【主な進捗】:レベル1から100へ爆上がり。
ついでに勇者になってしまった。
【特記事項】:
・称号「勇者」獲得。スキル構成はネタ寄り
・暴走はまだ序章
・ベヒーモスを一撃で撃破
・魔王のアゴが豆腐(NEW)
・人体発火(原因:恥)を確認。副作用としてアフロ化
・恥の臨界突破による新スキル挙動を観測
・アフロは昼寝で自己修復(再現性あり)
◇◇◇
──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──
『敵か味方か? どっちでもいい。殴れる奴は全員敵だ。』
解説:
殴れる奴は全員敵。
殴れない奴は味方。
それだけだ。
ちなみに俺は試合で味方を殴ったことがある。
理由? 殴れたから。
後で謝った。
「ごめん、敵だと思った」って。
許してもらえなかった。
以上だ。立場より拳だ。腹減ったな。




