#088 : Fカップクエスト(?)☆草王との遭遇
前回までのあらすじ
→ スク水でスクイズしろと言われた。
◇◇◇
こんにちは!カエデです!
今日はとっても嬉しい日なんです!
だって…
おっソロ「よかったね!冒険者になれて!ほーらこれ!お祝いのパンだよ!」
冒険者登録祝いをしてくれたおっソロさん!優しい!
カエデ「わぁ!ありがとうございます!」
冒険者になれた報告にパン屋に帰ると、おっソロさんが大喜びしてくれました!
おっソロ「冒険者はいろんな物資を持ち帰ってくるよね!素材とか薬草とか!うちのパンにも使えるし、買い取るからねー頼んだよー!あはは!」
カエデ「はい!!」
私はおっソロさんに恩返しするんです!ふんす!
おっソロ「でも、行くならちゃんと無理のないクエストにしなよ!あはは!」
カエデ「はい!」
私はおっソロさんお手製のパンをもらって、明日に備えて早めに眠りにつきました。
◇◇◇
翌朝。
ギルドに到着すると、受付カウンターに初日とは違う、メガネをかけた女性が立っていました。彼女はニコニコとしています。
受付嬢「あら、新人さん?何かお探しですか?」
カエデ「あの…クエスト…を見に来たんです。私、初めてなので…」
受付嬢「はいはい!クエストボードはこちらです。お名前は?」
「カエデと言います。よろしくお願いします。」
受付嬢「カエデさんですね。私はシルビアと言います。初めてでしたら、こちらの紙に書かれた【 F 】ランクのクエストがおすすめですよ。」
カエデ「なるほど……私のこの胸を見て言ってますね!?」
受付嬢「……ん?」
シルビアさんは優しく微笑みながら、茶色の紙が貼られた壁を指さしました。
カエデ「ありがとうございます!では……ええっと……」
クエストボードをじっくり見ていると、ある依頼が目に留まりました。
【緊急依頼:魔法の森の謎解明】
【内容:最近、魔法の森から奇妙な光が目撃されています。調査をお願いします】
【報酬:50万リフル】
【ランク:D】
カエデ「わぁ……光の謎……なんだか素敵なクエストですね!」
受付嬢「え?カエデさん、それはDランクの……」
カエデ「この光の正体を突き止めるのは…まるでファンタジー映画みたい!私にぴったり!」
シルビアさんの表情が曇りました。
受付嬢「カエデさん、すみません。あなたはまだFランクの冒険者です。Dランクのクエストは命の危険があります。」
カエデ「でも……光の謎を解明するなんて、きっと素敵な冒険になるはず……」
受付嬢「いいえ、だめです。まずはこちらの【草原の薬草採取】からスタートしましょう。」
【草原の薬草採取】
【内容:町の薬屋さんのための薬草を集めてください】
【報酬:3000リフル】
【ランク:F】
カエデ「……薬草採取……!」(そうか。さっきのはDカップじゃないと受けれないのか……)
受付嬢「はい、とても大切な仕事ですよ。町の人々の健康を支える、立派なクエストです!」
カエデ「私が F カップだからですね!?」
受付嬢「うるせーよお前。早くいけよ。」…ばさっ!
シルビアさんが依頼書を投げつけてきました。
この冒険者ギルドの受付の人は急に怒るんだよなぁ……怖い。
◇◇◇
町の東にある草原。
カエデ「えっと……《湿性薬草》を10束!」
風がさらさらと心地よく吹き抜けていきます。
緑の絨毯のように広がる草原には、色とりどりの草花が咲いています。
カエデ「えっと……赤い花びらに紫の茎の薬草を10束…」
私は薬屋さんからもらった薬草の絵を手に、草原を歩き回っていました。
カエデ「あ、これかな?……これ遭難してる時に食べてたヤツだ!苦みの後に死ぬほどの辛いヤツ!」
赤い花びらの植物を見つけ、薬屋さんの絵と見比べます。
カエデ「うん、合ってる!これを10束集めればいいんだね。」
私は慎重に薬草を摘み始めました。
サクラとツバキがいたら、きっと笑うだろうな…「カエデが草摘みっていかにもだねー」なんて。
カエデ「ふふっ。でも、私って意外と几帳面なんだよ。」
薬草を丁寧に束ねながら、私は独り言を呟きました。
カエデ「むしらせてもらいます……すみません……でも役に立ちますから……」
と、きっちり“ごめん”を添えて、草をむしっていた。
──その時だった。
風が止んだ ──。
草が──震えた。
カエデ「……え?」
振り返ると、草が一本、また一本と、逆立つように持ち上がり── まるで集合体のように形を成していく。
そして現れたのは──
???「よくぞ来た、“草と語る者”よ」
カエデ「……な、なになになになに……だ!誰ぇえええええ!?!?」
現れたのは、全身が葉とツタで構成された植物の巨人。
でも顔立ちはやたら整っていて、草の香りがやさしい。
草王「我は《草王》。草界の監視者にして、草たちの代弁者」
カエデ「そんな役職あるんですか!?」
草王「そなたは勇者。悪いが少し試させてもらっていた。草を摘むたびに“ごめん”と言った。その慈愛の心。まさに勇者であった。それゆえ……力を授けよう」
【アルティメットスキル:スピリットコール : 草 】
【称号:草生える者】
【獲得条件:草王との契約】──達成。
カエデ「アルティメットスキル!?」
草王「今、そなたは草である。風と共に在れ、グラス・カエデよ
……そして、忘れるな。
その力は“アルティメットスキル”
勇者にしか扱えぬ、精霊契約の証。
本来、精霊は理と共に在るが、
そなたは草と意思疎通を成した。
無自覚とはいえ、それは勇者の素質ゆえ。
そなたは今後も数々の精霊と契約を交わしていくことであろう。
──だが、気をつけるがよい。
契約を重ねるたびに、そなたの周囲は奇妙な力で満ちてゆく。
得られるスキルが……実用的とは限らぬゆえにな。」
草王が消えながら語った。
草王「──正式名称、《精霊顕現・第零式 : 草(スピリットコール:草)》」
風が舞い、草王は姿を消した。
カエデ「ありがとう草王さん!」
草王「── それから」また草王が出てきた。
草王「洗った草はなるべく早めに食せ。栄養が逃げるゆえ」
カエデ(また来た)
また風が舞い、草王は消えた。
草王「── あ!そうだ!」また草王が出てきた。
草王「食後には必ずストレッチをするのだ。便秘に効く」
カエデ(……あ……また来た)
三度目の風が舞い、草王は消えた。
草王「── あとさ?」また草王が出てきた。
草王「雑草にも名はある。摘むときは呼んでやるのだ」
カエデ(……もう帰って欲しいな……)
再び風が舞い、草王は消えた。
草王「── そうそう!あのさ!」また草王が出てきた。
草王「夜露は飲むな。お腹を壊す」
カエデ(……ほんとに早く帰って欲しいな……)
ようやく風が最後に吹き抜け、草王は今度こそ消えた。
◇◇◇
……気がつくと私は一人、草むらに立っていた。
カエデ「……草王さん……ありがとう……私、がんばる……!」
(つづく)