#008 : 魔王、教育中──お姉ちゃんの拳は愛でできてる
前回までのあらすじ
→ ほんのり家族っぽくなった姉妹。
だが、平和は──だいたい次の朝で終わる。
◇◇◇
【現在地】パンジャ大陸南東部・常闇のダンジョン最深部(魔王の間)
【視点】サクラ
【状況】異世界生活3日目。魔王軍、筋肉で覚えるタイプのレベル上げ。
◇◇◇
(前回のしんみりを受けて)
サクラ「で、レベル上げってマジ?」
思わず弱々しい声が漏れる。
心の中では、激しく拒絶反応が起きていた。
エスト『そ、そうだよ☆』
エスト様は元気そうに言ったが、目が泳いでいる。
この小娘、魔王の威厳を保とうと必死だ。
サクラ「嫌いな言葉?──努力・頑張る・PDCA。」
エスト『最後のは知らないよ!』
サクラ「要するに、何度もテスト勉強しろって話よ。地獄のループ。KPIも嫌い。数字で殴られるやつ。」
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サクラさんのブラック企業用語ミニ辞典
・PDCA:永久機関。回すたび魂が削れる。
・KPI :数字で殴られる拷問。
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エスト『ま、まずはさ!現状を確認しよう!』
エスト『ステータスオープンって言ってみて☆』
サクラ「は?なんで?いやですよッ!」
(沈黙)
エスト『いや!言えよッ!なんで拒否!?』
地団駄を踏むエスト様。ふふ。可愛い。
エスト『レベル確認して、計画立てようよ!!』
サクラ「だから計画とか苦手なのに……まぁ仕方ない」
すぅ……(深呼吸)
サクラ「ステータスーッ!オープンーッ!」
エスト『結果発表ーッ!みたいな!?』
──チカチカと光が浮かび上がり、目の前にステータスウィンドウが現れた。
\\ ぺったん!! // (※ウィンドウが開く効果音)
(は?音?どこから?それよりも──)
サクラ「おい!効果音!ふざけんなぁあああああ!?」
エスト『何その効果音!?そんなことあるの!?』
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【サクラのステータス】
レベル:1(やっぱり)
スキル:怪力 / 偏食
称号:ぺったん鬼女【呪い】←全ステ20%ダウン(笑)
性格:横暴・自己中・そして、美しい(本人談)
特技 : 寝る前に自分を褒める。逆ギレ。
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(凝視中)
サクラ「……ん、か、怪力?ぺ、ぺったん鬼女?」
(視界の端でエスト様が口を押さえてる)
サクラ「の、のの呪い?ステータスダウン(笑)ってなにこれ!?」
エスト『うわぁ……ひど……』
(沈黙)
サクラ「常時デバフ体質……?マジで……?」
エスト『おいしいネタだと思わないと!』(励ましてるつもり)
サクラ「なんで私は転生早々こんなに十字架背負ってんだよ!おいクソ世界ィィィ!」
(沈黙)
私は目の前のウィンドウを見つめたまま、しばらく呆然と立ち尽くす。
サクラ「……。」
現実味のなさに、しばし言葉が出ない。
……そしてもう一つ気になる称号が。
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【称号詳細:世界一タフな性格】
説明:
あらゆるストレスを「まあいっか」で流す最強メンタル。世界一の雑草女。
鬼化後もその性格は変わらず ── 世界が何度背中を蹴っても、
笑って中指立てて立ち上がるお前のような者こそ、魔王に選ばれるのだ。
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サクラ「……は? タフ?私が?バカじゃないの。」
サクラ「ただムカついたら殴ってるだけでしょ?」
エスト『それがタフ☆』
(……褒められてるのこれ?)
しかし、このステータスでは異世界無双など夢のまた夢。
サクラ「……これからの私の運命は、どうなるんだろう……」
深刻な顔で天井を見上げ──
“魔王も私もヒヨコ Lv.1──はい詰み”
(ポクポクポクチーン)
サクラ「……はい!切り替え完了!」(世界一タフな性格発動)
エスト『世界一タフな性格ホントだった☆』
とりあえずは!
サクラ「エスト様!いや魔王様!ファイトです!私の代わりに頑張ってください!」
エスト『無理だよ!!だからお姉ちゃんを召喚したんだよー!』
即答。
世界征服したいと言ってる魔王がこの弱気っぷり。
これは教育(物理)が必要だ。
サクラ「……仕方ない……それなら提案があります。」
エスト『な、なに……?』(嫌な予感MAX)
私は拳を握りしめた。
脳裏に、ムダ様の名言がよぎる。
《敵も味方も、まず殴れ。会話は最後だ。》
サクラ「──スパーリング、しましょう」
エスト『え?スパ……なに?』
サクラ「あなたは魔王。ウルトラレア!はい殴る!」
サクラ「はい経験値ズドン!もうそれだけ考えてた今!」
エスト『な……なるほど!?』
サクラ「大丈夫。試してみればわかります。」
エスト『ちょっと不安だけど、まぁ、でも☆』
しかし、エスト様がどこか余裕の笑みを浮かべる。
エスト『私にはバリアあるしー?☆』
エスト『レベル1のお姉ちゃんじゃ絶対壊せないしー?☆』
エスト『ちゃんと魔法の教科書に載ってたやつだしー?☆』
エスト様の足元に魔法陣が光り始める。
ぶわっ──と光の粒子が舞い上がり、エスト様の周りに透明な球体が形成された。
エスト『バリア完成!これで安心だよ☆』
魔法のバリアがエスト様を完全に包み込んでいる。
触れられそうで触れられない、光る膜のような防護壁。
サクラ「おぉ……今のが魔法……!」
サクラ「確かにバリアだ……」(バリアをコンコンとノック)
…
サクラ「じゃ、試してみますね?」
エスト『うん!こいこい☆お姉ちゃん!』
エスト様が得意げにバリアの中から手を振っている。
私は一歩、踏み込んだ。
右手を引き絞り──パンチを繰り出す!
ズドン!!
拳がバリアに激突!
光の膜が “ブルン” と、波紋のように揺れる。
──次の瞬間。
\\パリィィィィィン!!!//
まるでガラス細工のように、バリアが粉々に砕け散った。
サクラ「はい証明完了。努力ゼロでも世界は壊せます」
(つづく)
◇◇◇
\\次回予告!//
魔王の間に、再び嵐が吹き荒れる!
爆笑か、絶望か──それとも新たな地獄か!?
次回──
『勇者爆誕☆でも私、魔王軍ですよ☆』
\\お楽しみに!//
◇◇◇
──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──
『敵も味方も、まず殴れ。会話は最後だ。』
解説:
説明している間に殴られるくらいなら、殴ってから謝る方が生存率は高い。
スッキリするしな。
問答無用こそ最善の戦術。
外交?知るか。拳で語れ。
それでも話し合いたい奴がいるなら、先に床に叩きつけろ。
立場が変われば、考えも変わる。
スッキリした方が健康にも良い。




