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#069|桜046:モンスター領主をホタテで殴る

 こんにちは。サクラよ。

 今日は──とんでもない発見をしたの。


 ノーベル平和賞?


 ノンノン。


 これはもう、ノーベルボイン賞。


 なにがって?


 ──あてくし、昨日から「貝殻」を具現化できるようになったのよ。


 でね?

 もちろんやることはひとつしかない。


 胸に貼る。

 重ねる。

 盛る。


「私は令和の“ホタテの女神”よ!!」


 《解説:バブル期に貝殻一枚で社会と戦った伝説の女神。たぶん。by 天の声》


 女神はホタテ1枚で戦った。

 でも私は違う。

 ホタテを──何枚でも盛る。


 2枚目。

 3枚目。

 ……5枚目……。


 理性がそっと囁いた。


 ……ねぇ、私?

 虚しくないの?

 今日、天気いいよ?


 ──その声を、私は聞かなかった。


 なぜなら、ここで折れたらFの夢が砕けるから。


 ……その時、ふと気づいた。


 重ねたホタテが、ほんの少しだけ胸を押し上げていた。


 “谷”と呼ぶにはギリギリ言えるのかもしれない何かが、確かに──あった。


「……ッ完成。Fカップッ……完成しましたッ……!」


 私の両手が天を仰ぐ。

 同時に、ふわりと香ばしい磯の香りが漂った。


 ──貝殻パート、閉廷。


 *


「あっはっはっはー!ボインボインよー!」


 そんな過酷な試練を乗り越えた私は、

 ジルの家の女子部屋の中をスキップしていた。


 カチャカチャ……カチャカチャ……


 私がスキップをする度に、

 胸元の貝殻が重なり合う音が響き渡る。


 カチャカチャ……カチャカチャ……


 それは、私の業(カルマ)が立てる音のようでもあった。


「お姉ちゃん……」

「サクラさん……」


 エスト様も辰美も呆れた声で言った。

 二人は汚いものを見るような目で私を見ていた。


「やめろ!そんな目で見るな!」


 私はうずくまり、耳を塞ぐ。


「「……虚しく……無いの……?」」


 エスト様と辰美が口を揃えて、私の心を物理で潰しにきた。


 カチャッ……


「それ以上言わないで!?

 ……だって……憎かった、羨ましかった!

 止められなかったのよ!……Fへの衝動がッ!

 ……けて……助けて……おばあちゃん……」


 カチャ…


 私はそのまま、火サスの崖っぷちの犯人のように泣き崩れた。


 ── 完。貝殻パート、今度こそ閉廷。


 *


 ── 私が床に伏せて自供していたところ、突然!


 バンッ!とジルがドアを開けた!


「はぁはぁ……た、大変です!

 街でモンスターが暴れてます!」


 ジルは息を整えながら言った。


「なんですって!?小娘!辰美!行きますよ!」


 カチャッ


 私はすっくと立ち上がり、二人に指示を出した。


「辰夫!すぐに準備をして!」


 カチャカチャッ


 そして隣の部屋の辰夫に向かって叫んだ。


「「カチャカチャうるせー!それ取れ!」」


 エスト様と辰美が同時に叫んだ。


「いやだ!」


 私は断固拒否した。


 これは装備ではない。

 魂だ。取れるものか。


 *


 ジルの家を出ると、人々が逃げ惑っていた。


「こ!こっちだ!早く逃げろ!」

「きゃー!」

「うわぁー!?」


 街の人々が叫びながら走ってくる。


 私たちは、人々が逃げてくる方向へと急いだ。


 カチャカチャカチャカチャ!


 すると、モンスターが女の子に向かって拳を振り上げているのが目に入った。


「女の子が危ない!……くっ!間に合えッ!」


 私は迷わず、近くにあった “手頃な辰夫” をモンスターに投げつけた!


「……辰夫ロケットーッ!」


 ブンッ!!


「ちょッ!サクラ殿ーーーーー!?」

 辰夫の悲鳴が遠ざかる。


「手頃だった」

 私は辰夫を見送る。


 ギューン!!ドガッ!!!!!


 辰夫がモンスターに命中した。


 モンスターはよろけ、体制を立て直そうとする。


「くッ!まだ立て直しそうね!」


 私は咄嗟に、近くにあった “投げやすそうなエスト様” を掴み、構えた。


「これは投げやすそうね」


「ちょ!お姉ちゃん!?」


 私の手の中でエスト様がバタバタと暴れる。


 そして──

 モンスターがよろけてるその隙に女の子は母親に保護された。


 一安心だ。


「ふぅ。よかった」


 私はエスト様をポイっと下ろした。


 モンスターが標的をこちらに移したのが分かった。


 “モンスター” と “辰夫” と “エスト様” が、同時に私を睨みつけている。


 敵が多い。美しさは罪だ。


「ふふ。上等じゃない……ん……ってあれ…?」


 私はモンスターに違和感を覚えた。


「ねね!あれ!……領主じゃない?」


「「「え?……ん……あ!ホントだ!」」」


 三人が同時に反応した。


 モンスターは領主だった。


 その体躯は倍程に大きくなっており、

 目が紅く、牙が生えていたが、

 その顔は紛れもなく領主だった。


「……見つけたぞ……鬼の女……殺す、殺す殺す!」


 モンスター領主は殺意を私に向けた。


「ッはは……私が怖くて、モンスターに……

 なっちゃった……のかな……?

 さすがの私も、ごめんなさいしないと──」


 ガン!!!


 モンスター領主が投げた瓦礫が、私の胸に直撃した。


「──かはッ……まだ喋ってるのに!?」


「お姉ちゃん!?」

「サクラ殿!?」

「サクラさん!?」


 三人が悲鳴を上げる。


 まともに食らえば、肋骨が砕ける一撃だ。


「……ぐっ……くそ……油断した……って……」


 あれ?


「……あ……貝殻……痛くない……」


 なんと!“ホタテの女神”が私をガードしてくれていた。

 5枚重ねた厚みは伊達じゃなかった。


 私は口に手を当て、

 目をパチクリしながら ビックリ!のポーズを取っていた。


「あービックリした!

 ……とりあえず退治しますかね!小娘!

 周囲にバリアを張って街に被害が出ないようにして!

 私の街になるんだしね」


 エスト様に指示を出す。


「あいよー!でも、お姉ちゃん?違うよ?

 私の街になるんだよー?」


 エスト様が嬉しそうに答える。


「ふふふ……こんな時のためにも考えてたの!

 その名も──《絶対迎撃魔障壁ちゃんグレート!》!」


 エスト様を中心に、強大なバリアが街の広場を覆った。


「ネーミングのクセが強い!!」


 私が思わずツッコむ。


「おお……機能は完璧だな……」


 辰夫が感心している。


「え、これ自作!?理論構築どうなってんの!?」


 辰美が驚いた声を上げる。


「凄いでしょ!?グレートがポイントだよ!」


 エスト様が得意げに言った。


「成長したじゃん?ポンコツのくせに?」


 私が笑いながら言う。


「魔王っぽくなってきましたな…」


 辰夫が頷く。


「ちょっとかっこいい……」


 辰美が感心した様子で言った。


「えへへへ〜」


 エスト様が嬉しくてクネクネしていた。


 いいね。

 この娘が嬉しそうだと、私も幸せな気持ちになる。


 ざわ……ざわ……


「あのモンスターに立ち向かってる人も鬼……モンスターだよな?」

「ジル様も一緒にいるけど……仲間……なのか?」

「領主様がモンスターだったなんて……」


 ざわざわ……


 人々はバリアの向こうから、こちらの様子を見ている。


 あとで色々と、ややこしいことになりそうだ。


「どうやら私に恨みがありそうだし、

 ギャラリーも居るし?

 辰夫と辰美がドラゴンの姿に戻ったら……

 さらに人々を怯えさせることになるし、

 私がやりますか……」


 ……ほんっと、しょうがないわね。


 なんで毎回こうなるのよ。


 “魔王軍”って看板、あるけどさ?

 実質ボディガードじゃん、私。


 ……ふふ。でも、いいのよ。


 小娘が笑ってるうちは、それでいい。


 私がやるわよ。

 誰のためでもなく、私のためにね。


 私は仕切り直すように袖を捲りあげた。


「この私に不意打ちするなんてね……

 テメーは絶対ぶっ潰す──」


 そう言いながら、巨大な貝殻を生成し、投げつけた。


 シュッ!!


「……ぐがっ!」


 領主は飛んできた貝殻を振り払った。


 その隙に、私は領主の背後に回り込んだ。


 タタタタタッ!

 カチャカチャカチャッ!


「あっはー!貝殻めっちゃ便利ー!」


 そう言いながら、貝殻を生成し、拳を覆いナックルにした。


 領主の後頭部に、右ストレートを放とうとする。


「喰らえ!PTAが激怒する……後頭部パァァァンチ!」


 スカッ!


 領主は私のパンチを避けると、すかさず反撃のパンチをしてきた!


 ガン!!!


「ぐっ……ん!?痛くない……?」


 またしても、“ホタテの女神”が私を助けてくれた。


「「「いや!貝殻スキルさ!それ当たりスキルだろ!」」」


 エスト様たちのツッコミが気持ち良い。


「鬼の女……お前さえ居なければ……殺す殺す殺すーッ!」


 領主の殺気がさらに膨らみ、再度パンチを繰り出す!


 ガン!!!


「ぐっ……ゎーぉ……」


 また“ホタテの女神”が(略)


「「「何枚付けてんだよ!領主も胸以外狙えよ!」」」


 一同のイライラがピークに達していたので、

 この天丼(お笑い用語)も、ここまでだなと私は思った。


「な、なんて締まらない戦いなの……」


 エスト様が呆れ顔で言った。


「はっはっは!サクラ殿らしいな」


 辰夫が笑いながら言う。


「こういうところが好きなんだよなー」


 辰美がうっとりした表情で見ている。


「美しい……」


 ジルが恍惚とした表情で呟いた。


「鬼の女…私はもう……終わりだ……

 だが──最高の気分だ!

 破壊こそが快感だ!ふははははは!」


 領主が笑いながら叫ぶ。


 私の肩が、ゆっくりと上下する。


 カチャ、と小さな音がした。


 息を整えて、ひとつ、吐き出す。


「……ねぇ、領主?」


 声は自然と静かになった。


 怒ってるわけでも、叫びたいわけでもない。


 ただ、伝えたいだけだった。

 今のこの──歪んだ私を。


「わたし、ちゃんと間違えられてるかな?

 正しく狂えてるかな?

 ……あんたの”正しさ”で測ってみてよ。そしたら──」


 私は口元を、ゆるやかに笑わせた。


「ぶっ壊してあげる。そのモノサシごとね」


 ずっとこっちは壊されてきたんだ。


 誰かの都合で、誰かの”正しさ”で、

 勝手に決められて、黙って、飲み込んできた。


 でもね──


 今度は、私の番。


「だから今度は、こっちが壊す番なんよ。

 この世界ごとね?お前なんかオ・マ・ケ」


 ……ふぅ。


「──さ、続きやろっか? モンスター領主さん?」


 領主が拳を振り下ろす瞬間、私は真正面から拳をぶつけた。


 ガキィィン!!


 貝殻と領主の拳がぶつかり合い、衝撃波が走る。


 地面に足がめり込む。


 私は一歩も引かなかった。


「はッ!いくぞ!!」


 ……カチャッ


 私の業が、乾いた音を立てた。



(つづく)



◇◇◇



──今週のサクラ語録──

「わたし、ちゃんと間違えられてるかな。正しく狂えてるかな」


解説:

正しく生きることに、もう疲れた。

誰かの”正しさ”を守っていたら、

いつのまにか自分の輪郭が、にじんで消えていた。


だからせめて、間違えるなら思いきり。

狂うなら、自分の意志で。

壊れる前に、自分で壊してしまえたなら──

それはきっと、“私”を守る唯一の反撃だったのだ。


……世界征服なんて、たぶんその延長線。


お腹すいた。

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