#063 : 検閲突破☆ラップでPeace!
前回までのあらすじ
→ サクラ誕生秘話
◇◇◇
ジルを先頭に街の入り口の鉄門に着くと、すぐに検閲の兵士がジルに気付いた。
鉄門は巨大で、幅は十メートル以上あり、その表面には複雑な模様が刻まれている。
門兵「これはジル様!ご苦労様であります!」
兵士は背筋を伸ばし、敬礼をした。
その声には明らかな尊敬の念が込められている。
ジル「はい。ご苦労様です。この方達は私の大切なお客様です。」
ジル「急用がありますので、すぐに街へ入りたいのです。通してもらえますか。」
ジルはフードを被った私達を見ながら言った。
その声は落ち着いているが、どこか威圧を感じられた。
門兵「なるほど…しかしながら…ジル様の客人となれど、その素性を確認しないわけにはいかないのですが…」
兵士が困惑した顔で言った。
その目は私たちのフード姿を不審そうに見ている。当然である。
門兵「しかし……素性を確認しないと──」
ジル「……彼らは──旅芸人です」
(沈黙)
──その時、私はリズムをとり始めた。
♪ドゥン・ツッ、ドゥン・ツッ(足でトントン、指でポンポン♪)
サクラ
♪「Yo Yo Yo!♪ 我ら魔王軍 in da house ──
オーミヤ潜入☆領主も笑えねぇ!
フード深めて逆に怪しめぇ!
ジルの交渉?私ゃ待てねぇ!
街ごと征服──今夜は寝れねぇ!──Check it!」♪
ジル「やめろォォォォ!!!!!」(口をガッと塞ぐ)
エスト『お姉ちゃん!?今“魔王軍”って言ったうえに、完全にバラしてるよ!?☆』
辰美「やばい!あれサクラさんの“ドヤ顔ラップモード”だ!」
辰夫「このままでは世界征服より先に牢屋行きですぞ……!」
サクラ「(もがもがッ!)Yo…まだ二番あるのに……!!」
ジル「あるかーーーッ!!!」(額に青筋+胃を押さえる)
ジル「……彼女は喉の……病で……ラップすると死ぬんです」
サクラ「病気扱い!?てか死ぬって盛りすぎだろ!!ラップは生き様だぞコラァ!」(小声)
門兵「な、なんて恐ろしい病……お気の毒に……!」
ジル「門兵!先程の私の知り合いという話、聞こえなかったんですか?──私に、恥をかかせる気ですか?」
ジルは静かに怒気をにじませた。
門兵「ひッ……わ、わかりました!お通りください!!」
兵士は顔を蒼白にし、慌てて門を開けた。手はガクガク震えている。
ジルの糸目が開くかと思って身構えたけど──やっぱり開かなかった。
ジル「私の顔を立ててくれてありがとうございます……このお礼は、必ずいつか……」
ジル「さて、それでは皆様。参りましょう。」
ジルは穏やかな口調に戻り、私たちを促した。
サクラ「……ジル、案外頼れる……!糸目さえ開いてくれれば100点なのに」
辰美「減点理由そこ!?」
サクラ「……まぁ。魔王軍総出で攻め込まなくて済んで良かったよね。」
私は小声でぼやいたが、みんな下を向いて聞かないフリをした。
私は続きを歌いながら街を歩く。
気付けば周囲が勝手にMV化していた。
(ズームアップ:サクラのドヤ顔)
(通行人の若者がブレイクダンスで乱入!)
(パン屋の煙突から出る煙がビートに合わせてポンッ!)
♪「──領主の陰謀?笑って放置!
請求書ドーンで財布は凍死!
ポンコツ魔王が横で行進!
ドラゴンライドで街ごと更新!」♪
(スローモーション:犬が飛び跳ねて「わん!」)
(カメラぐるぐる:通行人がサクラの周りをサークルで手拍子)
(光エフェクト:銅貨が空に舞い、スポットライトみたいにキラキラ)
♪「チェックの検閲?そんなの無効!
城下に咲かすぜ黒い栄光!
夜明けに轟く我らの咆哮!
征服完了☆歴史に登場──!Peace !」♪
(通行人の子供たち:合いの手で「ぴーす!」「まおーぐん!」)
(沈黙)
チャリン……(小銭が足元に)
通行人A「おぉ!これぞストリートの魂!」(サムズアップ)
通行人B「へい、これでパンでも買いな!」(小銭ポイッ)
通行人C「あれ?ジルさんが怪しい集団を街に入れてね?」(ひそひそ)
通行人D「魔王とか征服とか言ってる……」(ひそひそ)
エスト『わー!お姉ちゃん、完全にMV撮影みたいになってるよ!?☆』
辰美「いや違う!これ完全にバレフラグだから!」
辰夫「ふむ……これはもはや征服ではなく営業活動……」
ジル「頼むから誰か胃薬を……!」(胃を押さえて崩れ落ちる)
…
とにかく無事に街の中へ入れた。
街の中は活気に満ち、人々の喧騒や市場の呼び声が耳に飛び込んでくる。
香辛料や焼き立てのパンの香りが鼻をくすぐる。
ジル「ふぅー……なんとかなりましたね。」
《天の声 : なったのかよ。あれで。》
ジルが緊張を緩めながら言った。
その肩の力が抜けるのが見て取れる。
エスト『ジルさん凄い凄い☆』
エスト様が両手を挙げて喜んだ。
その目は星のように輝いている。
サクラ「ま、まだ認めたわけじゃないんだからねッ!」
辰美「ツンデレサクラさんが尊すぎる……」
辰夫「大騒ぎにならずに良かった……」
《天の声 : 大騒ぎだっただろ》
私たちが安堵してると、ジルが言葉を続けた。
ジル「さてと……とりあえず私の家に行きましょうか。」
『「「「ジルさん有能すぎ!マジパネェ!!!」」」』
私たちは口を揃えた。
(つづく)
※次回!『ふんふんふーん♪ 人は皆ー♪ 悲しみをー♪ 抱いているのさー♪ お山が無いよー♪ ぺったん♪ ぺったん♪ ぺったんこー♪ 』
◇◇◇
《征服ログ》
【征服度】:3.2%(商業都市オーミヤ潜入成功+政治ルート開拓)
【支配地域】:オーミヤ(潜入フェーズ)
【主な進捗】:王国騎士軍元部隊長ジルの政治的立場を利用し、
正面衝突なしで都市潜入に成功。
魔王軍としての影響力を隠したまま、
領主への接近ルートを確保