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魔王がポンコツだから私がやる。 ──恥ずか死した私の黒歴史。  作者: さくらんぼん
第06章 : リンド村を拠点にしました。名前は「サクラ帝国・湯けむり支部」です。
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#062 : じいちゃん☆靴隠されすぎ人生


領主の差し金で命を狙われた私たちはとにかく早く領主にお礼を言いたくなったので、ドラゴンフォームの辰夫と辰美に乗り、旅路を空路へと変更した。



やがて地平の向こうに、領主の居る街 ── オーミヤが姿を現した。


遠くからでも分かるほど賑わう交易路、その両脇に立ち並ぶ幌馬車や露店。


そして都市全体を囲う灰色の石壁が、熱気と喧騒を内に抱えたまま威圧的にそびえている。


オーミヤはタマイサ地方最大の内陸商業都市。

各地から物資と人が流れ込み、金と噂と陰謀が日々交差する“王都の胃袋”である。


エスト『あれが領主のいる街かー!うわー大きいねー☆お店いっぱい!動いてる馬!荷物!人!すごーい☆』


エスト様が風に靡く長い銀髪を小さな手で掻き上げながら、目を輝かせて言った。

声が弾んでいる。どうやらこの旅は正解だったようだ。


サクラ「エスト様。あれは馬車です。商人が荷物を運んでるんですよ。へぇーこっちの世界にも、色々あるのねー!まぁ私たちの馬車のが空も飛べますし、ブレスも吐けますので高性能ですが。」


私は教えるように言った。


エスト『そうだよね!しかも2台あるしね☆』


エスト「そそ、壊れても、まぁ替えはありますしね。ふふ。」

無邪気な反応に、思わず口元が緩む。


辰夫「辰美…我等は馬車扱いと確信したぞ…」


辰美「ん?サクラさんの馬車なら良くないです?」


辰夫「お前……」


辰夫はそれ以上確認しなかった。


辰夫「そ、それにしても商人と物資が入り乱れて動いているような街ですな。」


辰夫がぼそっと補足する。


エスト『へぇー!あとで歩いて回ってみたい☆』


はしゃぐエスト様を見れた私は嬉しかった。


と、同時に地球を思い出した。


サクラ「……にぎやかな街……そういえば、前の世界にもあったな……」


(胸がちょっと締め付けられる)


サクラ「……でも、地球よりもこっちの方がドキドキするんだけどね!」


ジル「こっち?……前の世界?」


私がボソッと言うとジルが首を傾げ、眉間にしわを寄せた。

その糸目がさらに細くなる。


──


どうやら街に入るには検閲が必要となるようだ。


私たちは街の手前で馬車から降り、日陰になっている大きな樫の木の下で作戦会議を開く。


エスト『これは私たちがそのまま入ると大騒ぎになるやつだね☆』

その声には少しばかりの興奮が混じっている。


サクラ「人質とって領主んとこ行く?それか、魔王軍呼んで強行突破?」


エスト『……ねぇお姉ちゃん、犯罪者思考しか出てこないの?』


サクラ「えー……じゃあドラゴンの辰夫と辰美にこの街を襲わせて、それを私たちが助けるってのは?」


辰夫「狂気ですよ……」


サクラ「狂気?違う違う、これはおばあちゃん直伝の“人生の知恵”だよ!」

「『助けるためには、まず困らせなきゃいけないの。だから私は、おじいちゃんの靴を毎日、放課後に隠してたのよ。……そしたらね、サクラ。あんたが産まれたの』ってね!」


私はドヤ顔で語った。


サクラ「……じいちゃん、靴隠されすぎ人生」

エスト『愛は靴隠し☆』

辰美「じいちゃんに感謝!」

辰夫「靴が導いた奇跡……」


ジル「えと、良いですか皆様。どの案も人々を怖がらせる事になり、街全体を敵へと回す事になります。私が交渉してみますので、普通に街に入りましょう。」


ジル「そこで、こちらのフードをかぶって正体を隠してもらえますか。」


糸目のジルはそう言うと、私たちにフードを渡した。


エスト『ジルさん有能☆』


サクラ「ふむ。ツノは隠れるけど、逆に怪しくない?」


私はフードを受け取り、手に取りながら疑問を投げかけた。

布地をこすりながら、その質感を確かめる。


ジル「まぁ…モンスターという事でそこで戦闘が始まるよりはマシかと。」


ジル「とにかく交渉します。必ず愛しのサクラ様のお役にたってみせますよ。」


ジルはウィンクをしたようだが、糸目だからよくわからなかったが ──


 (心の声)──私、世界征服の経験はあっても、恋愛の経験はゼロだから……

 (モジモジしながら)


サクラ「ぇ……ち、ちょっと……ゃめて……ょ……」


辰美「サクラさんが困ってるだろ!そういうのやめろ!でも可愛いサクラさんをありがとう!」


辰美の情緒が仕事をしていない。


エスト『大丈夫かな…』


辰夫「不安しかありませんな…」


エスト様と辰夫は溜め息をついた。


(つづく)


◇◇◇


──【今週のおばあちゃん語録】──

『助けるためには、まず困らせなきゃいけないの。

だから私は、おじいちゃんの靴を毎日、放課後に隠してたのよ。

……そしたらね、サクラ。あんたが産まれたの。』


【解説】

“愛の形”と“因果関係”を履き違えた系おばあちゃん。

迷惑の積み重ねが人生を動かす──という誤解の上に成り立つ情熱。


でも、おじいちゃんが逃げなかったから──

サクラという最終兵器が生まれた。

ありがとう。おばあちゃん。

……そして、逃げなかったおじいちゃん。

サクラ「いや逃げろよ。じいちゃん。」

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