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魔王がポンコツだから私がやる。これ、私の黒歴史。見るな。【10万PV大感謝!】  作者: さくらんぼん
第06章 : リンド村を拠点にしました。名前は「サクラ帝国・湯けむり支部」です。
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#053 : 本の虫☆鬼姐さんとヴ潰し開幕

挿絵(By みてみん)

── 僕は今日、生まれ変わったんだ。



(やーい!やーい!本の虫ー!)

(返せ!返してよ!)

(あっははははは!この本返して欲しかったら、かかって来いよー!)


(それは……お母さんとお姉ちゃんが一生懸命働いて……

 僕に買ってくれた、大事な……本なんだよ……!返して……返してよ……!)



「……うっ、うっ……ひっく、ひっく……」

僕は丘の上で村を見下ろしながら、ひとり泣いていた。


(あなたはとても賢い子。だから、お母さんたちの代わりに勉強していてね)


(そうそう!この家のことは、お母さんとこのお姉ちゃんに、まっかせっなさーい!)


優しい声を思い出すたび、涙は止まらなくなった。


「……うっ……うううー……」


(おお、すごいな!こんな難しい本が読めるのか!さすが俺の息子だ!

 ……あ、違うな、賢いから俺じゃないか!わははははは!)


僕は、くしゃくしゃにされた髪の感触を思い出して、頭に手を置いた。

だけど、その温もりはもう、どこにもなかった。


「……お父さん……会いたいよ……ううっ……」


……


……その時。


「……どうした?少年。」


背後から、草を踏む音と共に、低く澄んだ声が届いた。


「ッ!?」


慌てて涙を拭いて振り返ると、そこには一本角の鬼がいた。

黒髪の長い髪が風に揺れ、紅い瞳がこちらをじっと見ている。


サクラさんだ。最近この村にやって来たという、鬼の女の人。


「な、なんでも……ないです……」


僕はうつむいて答えた。涙の跡が見られないように。


「森の中に入っていく子供がいたからね。

 危ないと思ってつけてきたのよ。……へぇ。こんなに綺麗な場所があったんだ。」


サクラさんも丘からの景色を見下ろし、肩を並べて立った。


「……あら?本を読めるのね。まだ小さいのに、すごいじゃない。」


ボロボロになった本に目を留めた彼女は、優しく笑った。


「……本が……好きなんです。」


風になびく黒髪を見ながら、僕はぽつりと呟いた。


「ふーん。いじめられてた……ってとこかな?」


「で、本の虫ってバカにされた?本を破かれた?

 ──靴が片方しかない?なら投げな。武器になるでしょ。

 もう片方を探して投げれば二回攻撃よ。止まったか?涙。」


「……昔、私が心を救われた言葉。意味はわからないけど。」


サクラさんはぐいっと僕の顔を覗き込んで、にやりと笑った。


「……え?」


「ムダ様語録よ。世界の理。」


「……ムダ、様……?」


「そう。伝説のプロレスラーよ。私がここの世界に来る前の神よ。」


「ここの……世界?」


「そう。私は転生者なの。……これでも、前の世界では人間だったのよ。」


少しだけ寂しげに、サクラさんは笑った。


「ええっ!?す、すごい……!転生者に会ったのは初めてです!」


「ふーん?……その反応からすると……他にも居るかもってこと?」


「はい。言い伝えは残ってます。」


「そっか。探してみるのも面白いかもね。」


彼女は、ぽつりと呟くように言った。


「ねぇ、サクラさん……」


「ん?」


「……前の世界の話、もっと聞かせてくれませんか?」


「いいわよ。」


サクラさんはふっと笑って、僕の隣に腰を下ろした。

そして、ほのかに酒の匂いがした。


「酒くさっ……」

「…………。」


そうして彼女は、前の世界──“日本”という国の話をしてくれた。

プロレスに、お笑いに、漫画に、日本酒──聞いたこともないものばかりだったけど、全部が全部、心を掴んで離さなかった。


……


「おっと、そろそろ時間だわ。私、用事があるの。」


「また聞かせてください!本当にすごかった……!僕、日本に行ってみたいです!」


「ふふっ、いいわよ。その代わり、あなた……この世界の文字を教えてくれる?」


「はいっ!喜んで!」


「そうだ。まだ名前、聞いてなかったわね。私は……」


「サクラさんですよね!」


紅い瞳を見ながら、僕は笑って言った。


「……まぁ、目立つしね。鬼だし。」


「僕の名前は……ヴィヴィです!」


「……また【ヴ】かよ!?なんなんだこの世界!?

 お前の名前はもう、ハカセ!それでいいな!?いいよな!?」


突然怒鳴られて、びっくりしたけど、どこか優しくて──思わず笑ってしまった。


……でも、そう。


——僕は今日、生まれ変わったんだ。


「さて。涙止まったなら、次は仕返しの番でしょ?ムダ様はこうも言ってた。

 『先に仕留めておけば、正当防衛だって言い張れる。どうだ?元気か?』ってさ。」


「……!」

僕は思わずサクラさんに見惚れてしまった。


「ムダ様の言葉ってのはね……理屈じゃなくて、魂に刺さるのよ。」

サクラさんはニコッと笑い、立ち上がった。


僕は思わず、くすりと笑った。

まるで、本に出てくる女神様みたいに思えたから ──。


……


── 後に、魔王軍の軍師と呼ばれることになる少年と、サクラはこうして出会ったのだった。



僕の手には、ボロボロの本と、片方だけの靴が残っていた。



(つづく)


※次回、サクラたちは領主に会いに!?


◇◇◇


《征服ログ #032》


【征服度】:2.6%(村の子どもとの交流により信頼度上昇)

【支配地域】:リンド村(拠点化進行中)

【主な進捗】:村の少年ヴィヴィ(後の軍師)との邂逅。

       サクラ、涙を拭いてやり、プロレスとムダ様と日本の話を伝授。

       少年の心に火を灯し、未来の魔王軍の頭脳を獲得。

【特記事項】:

・サクラ、初の“心を救う側”として機能。

・ヴィヴィ→ハカセに即改名。伝統芸【ヴ】潰しも発動。

・少年はもう一人じゃない。勇気と靴で二回攻撃だ。


◇◇◇


──【今週のムダ様語録】──

『靴が片方しかない?じゃあ投げれば武器だろ。もう片方を探して投げれば二回攻撃だ。止まったか?涙。』


解説:

涙を止める理由に理屈は要らん。勢いと物理で十分なんよ。

止まったか?涙。

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