表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/168

#042 : 辰夫の独白☆竜王の誓い

挿絵(By みてみん)

──これは、かつてあの地下深くで投げ飛ばされた竜王の、静かな独白である。


かつて、我がすべてを失った場所があった。


──常闇のダンジョン、100層。


主を喪い、誇りを捨て、翼を畳んだ我は、ただあの底で、終わりを待っていた。


千年の時を生きた我にとって、最後の百年は絶望の淵に沈んでいた。


ユズリハ様が倒れられたあの日から、我の世界は色を失い、音を失い、ただ冷たい石の感触だけが残った。


強大な力も、長い記憶も、すべてが重荷でしかなかった。


「もう、誰も我を必要としない」


そう呟いては、深い眠りに落ちる日々。

目覚めるたびに、現実の重さに押し潰されそうになる。


そこへ現れたのが、サクラ殿だった。


「あはは!ドラゴンさん…チェック!メイちょ…ぁ……ょ…」


── 問答無用で足を掴まれ、ドラゴンスクリューで地にめり込んだ。


衝撃と痛みとともに、我は確かに思った。


"これは一体、なんなのだ"と。


あまりにも突然で、あまりにも理不尽で、あまりにも──痛かった。


だが、その名を"辰夫"と呼ばれた瞬間から、我の時間は再び動き出したのだ。


「……は? ヴ が言い難い!もう 辰夫 でいいな?な?辰夫?」


その屈託のない笑い声が、千年の沈黙を破った。


高貴でもない。理性的でもない。凛とした気配など、微塵もない。


それどころか、常識すら疑わしい。

礼儀作法など皆無。

品格?そんなものは最初から存在しない。


だが、それでも、ふとした仕草の中に──

どこか、ユズリハ様を思い出させるものがあった。


── 誰よりも先に動き、誰よりも乱暴で、 それでも周囲を置いていかない"先頭の背中"。


(……ユズリハ様が誇りを背負った背中なら、サクラ殿は自信だけで突き進む背中。)


ユズリハ様は、重い責任を背負いながらも、それを美しく昇華させるお方だった。


一方、サクラ殿は──責任など何処吹く風で、ただ「面白そう!」という理由だけで突き進む。


それでも、二人に共通するのは、決して振り返らない強さ。


そして、その背中を見ていると、なぜか安心できるという、不思議な魅力。


……その姿が、我の心に灯をともした。


「配下になれと言ってるのよーッ!」


何の迷いもなく、我を仲間に加えるその決断。


千年の孤独を、一瞬で打ち破る、その単純な優しさ。


"かつての主の背中"と、"今の主のドヤ顔"が、なぜか重なって見えた。


ユズリハ様の凛とした横顔と、サクラ殿の間抜けな笑顔。


正反対でありながら、どちらも我を前に進ませてくれる。


それが、我がこの命を預ける理由としては──十分すぎた。


「面白そうだから?ノリと勢いでしょ?」


「……それだけですか?」


「なんだよ!」


このやり取りを何度繰り返したことか。


最初は呆れ果てていた我も、今では微笑ましく思える。


なぜなら、サクラ殿の「楽しそう」という言葉の中に、我も含まれているからだ。


そう思えるようになったのは、いつからだろうか。


もしかすると、我もまた、千年ぶりに「楽しい」と感じているのかもしれない。


ユズリハ様への忠誠は、今も我の心に深く刻まれている。


それは消えることのない、永遠の絆だ。


しかし、サクラ殿への想いは、それとは違う形で我の中に根付いている。


崇拝ではなく、親愛。

畏怖ではなく、信頼。


そして何より──共に歩みたいという、素直な気持ち。


「我はここにいます」


その言葉に込められた想いを、いつかサクラ殿に伝えられる日が来るだろうか。


それまで我は、この新しい主の背中を見つめ続けよう。


時には呆れ、時には笑い、時には心配しながら。


そして、必要な時には、千年の力で護り抜こう。


──これが、かつて絶望の底で朽ち果てようとした竜王の、新たな誓いである。


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ