#004 : お姉ちゃん☆魔王が妹な件
前回のあらすじ
→ ココアで雑に召喚された。
◇◇◇
【現在地】パンジャ大陸南東部・常闇のダンジョン最深部(魔王の間)
【視点】サクラ
【状況】死後、異世界で目覚めた直後。目の前には──自称・魔王の少女。
◇◇◇
……恥ずか死して、未練たらたら叫んでたら誰かに怒られた。
《天の声:うるせぇ!!》
(静寂)
サクラ「誰ぇぇぇぇぇ!?」
(周囲を見回す)──誰もいない。
それから"妙な力"に引きずられて──気がついたら、ここにいた。
◇◇◇
夢を見た。
両親はいなかった。
おじいちゃんとおばあちゃんに育てられた。
おじいちゃんは中学の時に、
おばあちゃんは高校卒業の朝に──いなくなった。
遺品整理で見つけた家族写真を、押し入れに突っ込んだ。
「家族なんてクソ」って叫びながら。
でも夜中に、こっそり取り出してた。
三人で笑ってる写真。
……あの笑顔の匂いが、ココアに似てた気がする。
◇◇◇
── 少女の声が、朦朧とした意識の中に滲み込んでくる。
???『……ちゃん!お姉ちゃんッ!!起きてよー!?』
同時に、誰かの手が私の肩を揺さぶっている。
サクラ「ん……おばあちゃん……私ね……ずっとね……?」
(沈黙)
サクラ「……違う。何言ってんの私。おばあちゃんは、もう──」
サクラ「……あれ?」
違和感が電流のように駆け抜ける。
私は一人暮らしのはずなのに、誰かに声をかけられている。
???『あれー?起きないなぁ……おかしいな……別世界に来た反動かなぁ?』
???『ココアは関係ないよね……?』(小声)
(……なんか、ココアの匂いがする……私から?)
サクラ「えッ!?別世界!?ココア!?なに!?」
(反射的に目を開ける)
──甘い。異様に甘い。
(数秒の沈黙)
慌ててガバッと起き上がると──
???『あ!やっと起きたー!』
知らない女の子が私を見つめて嬉しそうにしている。
周囲を見渡すが ── そこは見知らぬ光景だった。
石壁、石の床、薄暗い。カビの臭いが鼻につく。
サクラ「なにこの石壁!?湿度高ッ!?てか君だれ!?」
エスト『魔王のエストだよ☆』(ウィンクして目の前横ピース)
(沈黙)
サクラ(……この子が魔王?)
エスト『やったー!召喚成功だッ!わーい!』
サクラ(……なんだこのテンション差。死後初のカルチャーショック。)
そして私は召喚陣にカカオ色の染みを発見。
サクラ「そのシミなに?めっちゃ広がってるけど」
エスト(さらっと)『あ、それ。召喚に使ったココア』(真顔)
サクラ「は?」
(間)
サクラ「……人を飲み物で喚ぶな!!」(ジト目で召喚陣を見下ろす)
……ココアの匂いがほのかに甘く漂う。
甘いのに──どこか胸の奥が痛い。
エスト『……続けて良い?』
サクラ「……うん」
エスト『ここは"常闇のダンジョン"最深部の"魔王の間"!』
嬉しそうにエストは続ける。
エスト『お姉ちゃんの魂、私と同じ色してた。ココアみたいに甘くて、ちょっと寂しい色……だから呼んじゃった』
(胸の奥がチクリと痛んだ)
サクラ「お姉ちゃん?……私の名前はサクラ。佐倉桜」
エスト『可愛い名前!』
サクラ「可愛い、ね……」(目を逸らす)
エスト『でね!でね!魔力とココアでお姉ちゃんの体も作ったの!!』
ピョンピョン跳ねるエスト。
エスト『調整が難しくて──』
サクラ「情報過多ァーーッ!ちと待った!」
(間)
サクラ「召喚・魔王・鬼・家族・ココア──多い!渋滞してるから!?」
エスト『あ、ごめん!』
ちょっと間を置いて、エストがぽつりと呟く。
エスト『パパも、家臣のみんなも、居なくなっちゃって……ずっと一人で……だから、家族が欲しかったの』
エストは持っていた本をギュッと抱きしめた。
サクラ(それ……知ってる痛みだ……)
その声は、さっきまでの魔王の声じゃなく──小さな女の子の声だった。
(喉の奥がきゅっと詰まった)
サクラ「……とりあえず、話を続けて」
小さな一歩だった。
──その時だった。
バシュゥゥン……!
ココアの染み付き召喚陣が輝き、一冊のノートが出現した。
パサッ……
そのノートには《佐倉 桜・祈りの手帳(副題:ムダ様超詩大全)》と記されている。
エスト『……え?なにこれ?聖遺物?聖典?』(目がキラキラ)
サクラ「違うッ!!それは黒歴史だぁぁ!!!」
《魔王軍・神託プロトコル:自動朗唱陣/起動》
ノートのページが開き、風もないのにめくれる。
パラパラパラ……
サクラ「やめろ!それ開くなッ!見るなーーーッ!!」
ガバッと起き上がりノートに飛びつく──
バイーン!
サクラ「……うわッ!?」
しかし、謎のバリアで弾かれた。
(エストがココアを啜る音。ズズッ……)
サクラ「何これ!?バリア!?ちょ、返せってば!!」
エスト『お姉ちゃんもココア飲む?』
いつの間にかココア飲んどる!?
サクラ「誰が飲むかッ!!」
そして朗々とした声が石壁に響き渡った。
──それはまるで神託のように、私の中二ポエムの朗読が始まった。
《神託》『月が照らすのはムダ様の背中、私はただの影──でも影にも価値はある(震え声)』
エスト「……深い……!」
サクラ「やめ……」バイーーーン!(バリアに弾かれる)
《神託》『恋はスープレックス。投げられても、また立ち上がる』
エスト「名言……!」
サクラ「名言じゃない!!」バイイイーーーン!(バリアに頭突き)
《神託》『ムダ様の必殺技を夢で見た。私も夢の中で一緒に技を受けた。幸せだった』
エスト『必殺技を受けて幸せ……?』(眉間にシワ)
サクラ「……もうやめて……助けて……」(両手で顔を覆う)
◇◇◇
《神託》『──以上、全52編神託朗読、了。』
エスト『お姉ちゃん……ずっと一人で祈ってたんだ……苦しかったでしょ』(小声)
サクラ「まさかの追い黒歴史が来ました。ちょっともう一回死んでくる」(床にうつ伏せで寝てる)
エスト『もう大丈夫だよ?私がいるよ?』
サクラ「ソッスカ」(棒読み)
エスト『お姉ちゃんの祈り……私好きかも。もう一回聞いて良い?全52編!』
サクラ「やめて!?」(ガバッと起き上がる)
エスト『もう一回!もう一回!全部覚えたい!』(目キラキラ)
魔力でノートがピカッと光り──パラリ、と再び開いた。
《魔王軍・神託プロトコル:自動朗唱陣/再起動中……》
《神託》『月が照らすのはムダ様の──』
サクラ「やめろぉおおおおおおおお!!」バイバイバイーン!(バリアをぐるぐるパンチ)
エスト『月が照らすのはムダ様の──』(目キラキラ)
サクラ「もうやめてぇえええ!お願いだからぁぁぁ!!」 (バリアを抱きしめて泣く)
──こうして、黒歴史ノートは勝手に"魔王軍の神聖な書"として認定された。
サクラ「また恥ずかしくて死ぬぅううううう!!」(床でバタバタ暴れる)
エスト『……また? お姉ちゃん恥ずかしくて死んじゃったの?』
サクラ「そうだよ!生き恥で死んだの!」(顔を覆う)
エスト『ふふ……でも、それってすごいことだよ?』
サクラ「どこが!?」(涙目)
エスト『恥ずかしさはね、生きたいって叫んでる音だと思うな。』
(時間が止まった気がした)
エスト『……あとさ?誰かが見てくれてるってことだよね。ひとりじゃないってこと。だから私は──恥ずかしいと、ちょっと嬉しいの。』
サクラ「…………」
(心臓の音だけが鳴っていた)
サクラ「……そんなポジティブ変換ある? ……ずるいわ、あんた」(小さく笑う)
(──でも、ちょっと救われた気がした)
《天の声:おい、サクラ。名言出たぞ。》
サクラ「黙りゃ!!台無しにすな!!」
エスト『え?名言? やった☆』
◇◇◇
……ココアの甘い匂いが、まだ鼻の奥に残っていた。
エストは笑ってた。私は泣きそうだった。
たぶん、恥ずかしさにも糖分があるんだ。
……カロリー高めの人生だな。
サクラ「……恥ずかしいって、甘いんだね。」
(つづく)
◇◇◇
\\次回予告!//
エスト『えへへ、盛りすぎちゃった(ツノだけ)』
サクラ「おいコラぁぁぁーーーッ!!ツノじゃなくて胸を盛れぇぇぇ!!」
次回──
『ツノ七変化☆誓いのキスと世界征服』
サクラ『筋力のA? いや、AカップのAだ!!』
\\お楽しみに!//
◇◇◇
──【エスト理論:恥の中に、あたたかさあり】──
『恥ずかしさはね、生きたいって叫んでる音だと思うな。誰かが見てくれてるってことだよね。ひとりじゃないってこと。』
解説:
恥ずかしいって、実はすごいこと。
誰かに見られてるってことだから。
一人じゃないってことだから。
私、ずっと一人だったから──
恥ずかしいって、ちょっと嬉しいの。
だからお姉ちゃん、恥ずかしがらないで。
それは、生きてる証拠だから。
一緒にいるよ。もう一人じゃないよ。
 




