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#036 : 魔王軍ルール☆サクラ隔離

ダンジョンをあとにした私たちは、辰夫が見つけた村を目指していた。


… 道中のモンスターを蹴散らしながら進んでいくと、やがて村が見えてきた。


入り口の前の村人達は武器や農具を抱えて震えている。


獣耳の青年、魚の鱗を持つ男、老人のような人間の隣に立つ、褐色肌の長耳の戦士──


その多様な姿に、私と小娘のツノ、目立つかなって心配してたけど大丈夫じゃね?と呟きそうになった。


辰夫「ふむ……我の姿を見られたのかもな。」


なるほど。

どうやら辰夫が偵察している姿を見られたらしい。


サクラ「めっちゃ警戒してますね。蹴散らしますか?蹂躙しますか?……いや、ここはやっぱり交渉だからドロップキックですかね?」


私は遠くで身構える村人達を見ながら、真剣な顔で分析した。


エスト『いやなんで!?交渉とドロップキック関係ないでしょ!?』


サクラ「ムダ様が言ってました。《交渉の成否は最初の挨拶で決まる。だから“こんにちは”の代わりにドロップキックをかませ》って」


エスト『それ絶対おかしいよ!?』


サクラ「だから私はもう“おはよう”とかの意味わかんなくなってきた」


エスト『薄々気付いてはいたけどムダ様ってやべーやつなの!?』


サクラ「何を言ってるんですか!ブン殴りますよッ!ムダ様は紳士です!」


辰夫「……あのサクラ殿が心酔する……ムダ様とはいったい……」


エスト『……まぁいいや。お姉ちゃん!言ったでしょ!人間に危害は加えないの!』


サクラ「ぎゃふん!」


前世でも私はしつこい性格とよく言われたものである。



エスト『まずは話をしてみようよ☆』

サクラ「そうですね。」

辰夫「うむ。」



私たちは村の入り口まで歩みを進めた。


入り口の前の村人達は武器や農具を抱えて震えている。

無理もない。こんなにも美しい私が来たのだ。


怯える村人達にエスト様が話しかける。


エスト『こんにちは☆ 私はエストと言います。村や皆さんに危害を加えるつもりはありません☆』


サクラ「何かしてきたら "危害" を加える "気概" で溢れてるけどなぁーッ!?」


私は韻を踏みながら刀を舐めた。


エスト様は私を見た後に溜め息をつくと、話を続ける。


エスト『私たちはただ、村にしばらく宿泊させていただきたいだけなのです。』


サクラ「私たちから滲み出る王者の "風格"♪ここで "通達"♪ 村に "宿泊"♪ 料理を "振る舞う"♪リクエストは "中華っす"♪ 断った時がお前らの "天中殺"♪」


押韻(ライミング)がゾーンに入った私は最高のチェケラッチョポーズをキメた。


エスト『お姉ちゃん…少し黙れ…。』


エスト様は私を睨みながら言った。


サクラ「ぎゃふん!」


村人は震える声で言った。


村人「そ、そちらのドラゴン様はもしや…リンドヴルム様では?」


驚いた顔の辰夫が応える。


辰夫「む?いかにも我はリンドヴ……ル……む?」


私は辰夫をキッと睨みつけた。


辰夫「えと……違います……我は辰夫と……言います……」


サクラ「うんうん。」

私は笑顔で頷く。


村人達はざわついた。


ざわ……ざわ……


「た……辰夫だって?」

「な……なんか普通だぞ?」

「俺たちで倒せるんじゃないか……?」

「やるか……?やったるか……!?」


ざわざわ…ざわざわ…


「よし!俺たちの家族を!」

「村の未来を辰夫から守るんだ!」

「みんな!丸太は持ったか!?」


わーわー!わーわー!


辰夫「………。」


── 辰夫はゆっくりと空を見上げた ──。

それは溢れた涙がこぼれ落ちないようにする為だった。

春の木漏れ日がとても優しかった ──。


辰夫(我は先日まで誇り高きリンドヴルムという名だった……それが今は『辰夫』と言う名に……)


辰夫(回想:竜族を従えている英雄リンドヴルムの姿)


辰夫(我は……何のために生きてるんだ……)


察した私はそっとハンカチを辰夫に差し出した。


エスト『辰夫!お姉ちゃんを退場させて!』


辰夫「畏まりましたァーーッ!!」


バサバサバサッ!!!


辰夫の翼が爆音を立てて広がる。

私は抵抗もむなしく、辰夫にワシ掴みにされた。


サクラ「チクセウッ!この暴挙ァーーッ!!やめろ辰夫!!骨が……骨がギシギシ鳴ってるぅう!!これは陰謀だァ!!人権侵害だァァアーーーッ!!」


辰夫「サクラ殿!暴れたら危な…暴れないでください!」


サクラ「あ!辰夫が胸を胸を触った!セクハラ!セクハラですぅううううう!お巡りさん!!」


辰夫「無いでしょう?」


エスト『無いだろ☆』


サクラ「え……」(大人しくなった)


辰夫は勢いよく飛び上がった。

私を握り締め、空を飛んでいく。


サクラ「待ってよ辰夫!私には『おばあちゃんとの約束』があるの!『困った人がいたら助けなさい』って!だから村人を助けるために征服するの!これは優しさなの!愛なの!」


サクラ「この村を!この私が支配して!サクラ帝国の拠点にするのぉおおおおお!!」


エ&辰『「サクラ帝国!?」』


私の断末魔のような絶叫が、空にこだました。

たぶん三回くらい反響した。


いや、心の中では今も反響している…。

読んでるあなたの耳にも、響いてるでしょう?


エスト『サクラ帝国ですって……?あぶない……アイツ……またよからぬ事を考えてやがった…!』


エスト様はこの時は本気で安堵したと後に語った。


エスト『……お姉ちゃん、もうちょっと普通に振る舞えたら、きっと皆に受け入れられるのになぁ……』



……静寂


エスト『……………。』


私の姿が見えなくなるのを待ってからエスト様は口を開いた。


エスト『オホン……バカが大変失礼しました。アレはいったん忘れて仕切り直しましょう。』


村人「インパクト凄すぎて忘れられないです!」


村人がもっともなことを言った。


エスト『村への滞在の件です。もちろん宿代も払います!あと、迷惑はかけ……かけ………かけないようにします!……か?』(問いかけ)


村人「不安しかない!?」


村人がまたもっともなことを言った。


エスト様は話を続ける。


エスト『先程のドラゴンはいかにも常闇のダンジョン最下層のリンドヴルムです。……しかし、筆舌にし難いとてもとても悲しい事情があり……今は辰夫という名前になっているのです。』


村人の緊張がとけたのか、少し安心した表情となった。


その中の1人がエスト様に近づき、話を始めた。


村長「ご丁寧にありがとうございます。ここはリンド村といいます。私は村長のマイヤーと申します。」


村長のマイヤーが話を続ける。


村長「この村は過去に大厄災に見舞われました。そして、この村はその大厄災からリンドヴルム様に救われたと伝えられています。そのご恩をいつまでも忘れないようにと、村の名前をリンド村としているのです。先程のドラゴン様がそのリンドヴルム様なのであれば、お断りする理由はありません。では……どうぞ村の中へお入りください。」


エスト『えッ…えッえぇッ!?』

エスト様は驚愕した。


エスト『……ッお姉ちゃんが居ないと話進むのめっちゃ早ッ!!』


──エスト様はこのパーティー最大の障害が誰かをようやく悟った。


そしてこの日以降、「村との交渉時はサクラを隔離すること」が魔王軍の基本方針となった。


(つづく)


◇◇◇


《征服ログ》


【征服度】 :1.1%(一時的にサクラ帝国(仮)を宣言しかけたため微増)

【支配地域】:リンド村(滞在許可獲得)

【主な進捗】:リンド村に入村成功。サクラは交渉失敗につき空中退場。

       村長とエストによる正式交渉で滞在許可を獲得。

       なお、以降「交渉時はサクラ隔離」が魔王軍の方針となる。

【特記事項】:サクラ帝国計画は空に消えた?

       いや、サクラが簡単に諦めるわけがない。

       村の名前が「リンド村」であることが辰夫にとって精神的に深く刺さった模様。


◇◇◇


──【今週のムダ様語録】──

『交渉の成否は“最初の挨拶”で決まる。だから“こんにちは”の代わりにドロップキックをかませ』


解説:

「交渉術」と本人は呼んだが、刑法では普通に「傷害罪」。

結果、相手は入院、ムダ様は謹慎。

交渉の場はしばしば取調室へと移った。

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