#034 : 光合成☆おばあちゃんの白菜を守る
常闇のダンジョン最深層をクリアした私たちを、柔らかな日差しが包み込んだ。
サクラ「うーん…!…ふふふ…季節は春かな…?」
私は背筋を伸ばし、両腕を大きく広げて伸びをした。
久しぶりの太陽の光が体中に染み渡る感覚に、思わず目を細める。
陽光を浴びながら、私は故郷である日本の春の風景を懐かしく思い出した。
桜並木、新学期の始まり、花見の宴……。
そして、自分の名前の由来である 桜 の花びらが風に舞う様子が脳裏に浮かぶ。
同時に、胸の奥から、おじいちゃんとおばあちゃんの顔が浮かぶ。
小さい頃からずっと一緒だった、たった二人の家族。
もう二人とも天国に行ってしまったから、私が”とんでもない死に方をして異世界に飛ばされた”なんて、きっと知らない。
(おじいちゃん、おばあちゃん──
そっちには行かず、サクラは今、異世界で生きてるよ。
“恥ずか死”っていう面白い最後でごめん。
でも、ちゃんと笑ってるから安心して。)
──私は、心の奥で祈るように。
まぶしい太陽へ、届かぬ想いをそっと重ねた。
エスト『うわぁ……これが外の世界なんだね……暖かいねぇ☆』
初めてダンジョンの外に出たエスト様はとてもはしゃいでいる。
サクラ「ふふ……エスト様、たまたま今は暖かいだけです。この外の世界では時には水が降ることも、氷が降ることも、雷が降ることもあります。」
サクラ「くくく……あはは……あっはっはっはぁー!」
サクラ「……そしてこれから愚かな人間どもの血を降らせに行くところだしなーーーーーッ!?」
私は刀を舐めながら叫んだ。
エスト『お姉ちゃん……?』(ガクブル)
辰夫「……。」(ガクブル)
サクラ「うふふ。いやだー私ったら★冗談ですよ?wじょ・う・だ・ん★」
エスト『いや、もの凄い殺気だった……』(ガクブル)
辰夫「ですな……」(ガクブル)
──
そして、エスト様は意を決したように口を開く。
エスト『あのね!お姉ちゃんと辰夫に言っておくよ!私は人間を苦しめるつもりは無いからね!』
私は エスト☆マジックスティック の後遺症かとオロオロしながら確認をする。
「ええッ!?エスト様!?お気は確かですか?
スティックのように何度も振り回されて、脳を何度も頭蓋骨に叩きつけられたからですか……?
あんな自分の事だけしか考えてない欲深く……そして愚かで汚い生き物……生かしておく必要なんてありますか?」
《あくまでもサクラ個人の見解です。 by 天の声》
すかさず天の声がフォローを入れた。
エスト『お姉ちゃん……元人間だよね……?過去に何があったの……?』
サクラ「うふふ。冗談ですよw じょ・う・だ・ん★」
エスト『いや、冗談に聞こえなかった……』
辰夫「ですな……」
…
私たちはまず、ダンジョンの周囲を散策する事にした。
どうやらダンジョンは森の中にあったようだ。
ダンジョンの周囲には木が生い茂り 野いちご のような物が生えていた。
サクラ「あら、美味しそう。モンスターの肉ばかり食べてたから、こういう果物は久しぶりだわね。」
ひょい!ぱくっ!
私は野いちごを食べた。
── その時である。
私の頭の中に 天の声 が響いた。
《サクラは スキル : 光合成 を習得しました。》
サクラ「……こ、うご……せ……い!?」
ちょっと待って!
私、植物になっちゃうの!?
(脳内整理中)
水やりとか必要になっちゃうの!?
サクラ「ファーーーーーーーーーーッ!?」
いつの間にか私は叫んでいた。
エスト『きゃ!?な!なに!?』
辰夫「敵襲ですか!?」
身構える小娘と辰夫。
……これは 甲子園のサイレン のモノマネでは無い。
私のモノマネレパートリーの中に、甲子園のサイレンは ── ……確かに、ある。
《天の声 : 甲子園のサイレンって職業あるのかよ。》
サクラ「あるに決まってるでしょ!毎年夏に大活躍よ!」
《天の声 : それは音響設備だ。》
サクラ「嘘でしょ!?日本中が騙されてた!?」
《天の声 : お前だけだ。》
サクラ「……。」
しかし、これは違う。違うのだ。
私の脳裏にお婆ちゃんとの記憶が蘇る。
サクラ (おばあちゃん!私ね?大きくなったら甲子園のサイレンになる!)
おばあちゃん (ふふふ……サクラならなれるかもねぇ……)
サクラ (えへへ!私の声でみんなが甲子園で野球するんだ!)
おばあちゃん (そうかいそうかい。それは楽しみだねえ……)
お婆ちゃんはいつだって私を褒めてくれた。
お婆ちゃんは私の唯一の理解者だった。
お婆ちゃん……会いたいよ……お婆ちゃん……
………けて……助けてよ……お婆ちゃん……
エスト『お姉ちゃん?お姉ちゃんッ??』
辰夫「サクラ殿!?」
地面に倒れ込んだ私はゆっくりとエスト様を見つめ、口を開く。
その目には光が無かったはずだ。
「……エスト様……私は……鬼となり……人間ではなくなりました……その後……哺乳類でもなくなりました……そして……今度は……哺乳類と……植物の……中間のような存在になりました……要するに【究極生命体 (アルティミット・シイング)】に……また……近づいてしまいました……」
エスト『また……ろくでもないスキルを覚えちゃったの?』
辰夫「ん?……あぁ、何か食べるとスキルを覚えると言ってましたな。」
「ううう……光合成なんてどこで……使うの……お婆ちゃん……」
エスト『光www合成www』
辰夫「……ぐっ……きっ……ぶはwww」
──そして風が吹いた。
土のにおい。光を浴びた葉のきらめき。
その全てが、記憶の奥底にある「声」を引きずり出す。
──『あんたが泣くとねぇ、白菜が傷む気がするのよ。だから笑いなさい。お漬物が助かる。』──
「おばあちゃん!?……そうだ……このままだと!おばあちゃんの……白菜が傷んじゃう……ぅふふッッ……うふふッ……どう?笑えてるかな……?これで……お漬物が……助かる……ッ!!」
ドサァッ! 地面に突っ伏した。
笑ってるのか泣いてるのか、自分でもわからない。
でも一つだけはっきりしてた。
……漬物が、食べたい。
エスト『どうしよう辰夫!?お姉ちゃん完全にキマってる!!!』
辰夫「白目剥いてますな……」
(つづく)
◇◇◇
\\ 次回予告! //
ナレーション「野いちごを食べ、ついに覚醒する新スキル──その名は『光合成』!」
ナレーション「笑うか泣くか、すべては白菜のため……おばあちゃんの言葉がサクラを動かす!」
エスト『……お姉ちゃん、ほんとに大丈夫?』
辰夫「光合成で何するんですかねぇ……」
ナレーション「次回──」
#035 : 鬼ころし☆酒くさ調教と村イベント不発
サクラ「征服?交渉?どっちにするかは──酔ってから決めるわぁぁあ!!」
\\ お楽しみにッ!! //
◇◇◇
──【今週のおばあちゃん語録】──
『あんたが泣くとねぇ、白菜が傷む気がするのよ。だから笑いなさい。お漬物が助かる。』
解説:
意味なんてわからなくていい。
サクラが笑えば、それで漬物が助かるなら、
それでいいじゃないか。
おばあちゃんは、いつだって本気だった。




