#031 : 勇者です☆国外追放された話聞きます?あ、草食べます?
こんにちは!カエデです!
実は今とってもとってもとってもピンチです!
略して!カエデとてもピンチ!
なんと!
とうとう私がポンコツだという事が認知されて、軍法会議が開かれているんです。
あの……私……最初にモンスターと戦うなんて出来ないって言いましたよね……?
なんなら言い続けてましたよね……?それがいまさら…?
…
「……というわけで、カエデ様は最弱のスライムとすら戦う事は出来ませんでした……」
騎士団長のヨハネさんが先日のスライムとの出来事を王様に報告しています。
「ふむ……では、カエデ殿の意見を聞こうではありませんか。カエデ殿。何か言いたい事はありますか?」
王様は私を横目で見ながら言ってきました。
「え……はい……この世界に来てから何度も言ってますが……」
「今までは戦いとかそういうのとは無縁の世界で暮らして来ました……」
「ですので、突然勇者だからと言われ、モンスターと戦えと言われても困ってしまいます……」
「私には無理です……ごめんなさい……」
私は必死に訴えかけました。
「やれやれ……召喚が成功したと喜んだと言うのに……とんだハズレを引かされたのか……」
「これでは……モンスターに国を滅ぼされてしまうのも時間の問題だ……」
王様は玉座から立ちあがり、私を見下ろしながら言いました。
「ヨハネ!なんとかカエデ殿のこの "たるんだ" 性格を鍛え直せないものか?これでも勇者の称号を持っているという事に間違いはないのだ…。」
王様はオデコに手を当てながら下を向いていました。
「え……たるん……?」
「お言葉ですが…カエデ様のこの "柔らか" な性格的に戦闘は不向きだと思われます。」
ヨハネさんはすでにさじを投げているようでした。
「……柔らか……?」
そして、王様とヨハネさんが私に必死に訴えかけて来ました。
「カエデ殿!勝手な事を言っており、大変申し訳ないとは思ってはいます!」
「しかし!そなたの双肩には皆の想いが……」
「何卒、何卒!その力を我が国……いや、この世界の人間のために奮ってはくださらぬか!?」
「カエデ様!今はまさにカエデ殿の『運命』が左右に "たゆたっている" のですよ!」
「そうけん…おもい…ふるう…運命…たゆた…?」
「カエデ殿!」
「カエデ様!」
そして、とうとう私の中で何かが弾けました。
「もう我慢できない!さっきから黙って聞いてればッ!」
「なんなのよッ!たるんたるん とか 柔らかそう?」
「私の人生はそっちのけでまたまた胸の話ですか!?」
「重くて両肩が凝りそう?ほっといてよ!!!」
「人の胸に『運命』とか名前を付けたかと思えば……!?」
「左右に たゆんたゆん と振ってくれですって!?」
「右が「運」で左が「命」なの!?どうなの!!ふーッ!ふーッ!!」
「……えと……ヨハネ……さん?この子は何を言ってるのかな…?」
王様は目をパチクリさせながらヨハネさんに確認をしました。
「……どうやらカエデ様は "大層" な発作をお持ちのようなのです……。」
ヨハネさんは残念そうな顔でクビを横に振りながら応えました。
「はッ!?……た、体操服で反復横跳びをさせようとしてるの……?」
「な、何を考えてるんですかッ!?……け!ケダモノーーッ!?近寄らないで!!!」
「……助けて………助けてよーッ!サクラーーーーーァッ!!!」
身の危険を感じた私は両胸をおさえながら叫び続けました。
「「えー……っと……」」
◇◇◇
—— そして、私は国外追放され、1人でこの異世界で生きていくことになりました。
「いい天気だなぁ……この草って……食べれるのかなぁ…?」
追放された現実がまだ信じられなくて、涙も出なかった。
そんなとき、不意に頭をよぎったのは、親友・サクラのあの言葉だった。
『立ちなさい。前に進みなさい。手を出し続けるのよ。寝たままじゃ何もできない。でも私は寝返りで進み、寝転がったまま蹴る。』
……なんの役にも立たないし、たぶん励ましですらない。
でも、なぜか少しだけ──心が軽くなった。
私は寝転び、草に手を伸ばした ──。
「……にが……」
(つづ……これつづけていいのですか?)
◇◇◇
《征服ログ》
【征服度】 :該当外 (マジでマイナスにしたい)
【支配地域】:なし(オサカ王国から追放)
【主な進捗】:カエデ、スライムに勝てず軍法会議へ。
最終的に国外追放。食べられる草を探す日々に突入。
【特記事項】:胸に“運命”を背負っていたらしい(左胸名:運、右胸名:命)。
両肩が凝るほどの圧に耐えながら、野草と寝返りで進む未来が始まった。
◇◇◇
──【今週のサクラ語録】──
『立ちなさい。前に進みなさい。手を出し続けるのよ。寝たままじゃ何もできない。でも私は寝返りで進み、寝転がったまま蹴る。』
解説:
たぶん頑張れって意味。
別に立たなくてもいいらしい。
なんなら転がりながらでも戦えるよって話。
なんか元気出る。
カエデはそう思った。それで充分だった。