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#030 : 濡れシャツ未遂事件☆スライムと戦う前にスライム扱いされた件

こんにちは!カエデです!


突然異世界に召喚されて、勇者だとか言われました。


正直、まだ夢を見ているんじゃないかって思うくらい。


でも、痛みも空腹も感じるし……

これが現実なんだって、少しずつ実感してきています。


家族のみんな……元気かな……

突然いなくなった私のこと、きっと心配してるはず。


お父さん、お母さん、弟……みんなの顔が次々と頭に浮かびます。

胸が締め付けられるような感覚。


就活頑張って入社したばかりなのに……やっぱりクビかなぁ……

何よりも親友のサクラとツバキに会いたいなぁ……


──


そんな勇者としての訓練や勉強が続く日々ですが、今日はモンスターと戦うという実戦訓練の日なのです。


この日が来るのを、ずっと恐れていました。

頭では分かっていたけど、まさか本当に来てしまうなんて……


……どうしよう……


この言葉が、頭の中でエコーのように響きます。

本当に、どうしよう。逃げ出したい。

でも、逃げ場所なんてどこにもない。


はっきり言って、モンスターと戦うとか無理です!!


心の中で叫びます。

誰かに聞こえたらいいのに。

でも、誰も私の本当の気持ちを分かってくれない。


家に【G O K I B U R I☆】が出現しようものならナベを被ってナベの蓋を盾にして殺虫剤を1本全部使い切るくらい吹きかけるような臆病な私にモンスターを倒せるわけがない!


……でもね……いくら無理と言っても「勇者なので大丈夫。」という謎の根拠で皆さん全然……私の話を聞いてくれないのです……!


この状況が本当に辛い。


誰も私の声を聞いてくれない。


みんな「勇者」っていう肩書きだけで判断して……

本当の私を見てくれない。


──


そんな複雑な思いを抱えながら、今は騎士団長の【ヨハネ】さんと近くのダンジョンに向かって歩いています。


(無口なヨハネさん……気まずいなぁ……

 何か話しかけた方が良いのかなぁ……)


「あ……今日は良い天気で……」


私が気まずい空気をなんとかしようと、とりあえず無難に天気の話をしようとしたところ、ヨハネさんが話しかけて来ました。


「カエデ様。」

「ひ、ひゃい!」


びっくりして声が上ずってしまいました。

恥ずかしい……。


「あそこにスライム型のモンスターが居ますね。

 準備運動にちょうど良いですね。戦ってみましょうか。」


ヨハネさんが前方を指さしながら言いました。


「スラ……えええ……?」


とうとうモンスターが現れてしまいました……


スライムは人間の私くらいの大きさです。


「ははは。訓練通りにすれば大丈夫ですよ。

 カエデ様には何よりも勇者としての光の加護があります。

 スライムくらいならカエデ様に傷一つ負わせることは出来ませんよ。」


「そ……そうは言っても……」


ヨハネさんはそう言うけど、私には勇者の自覚も無く……


(……やだ……怖い……どうしよう……)


スライムがプルプルと跳ねて、こちらを見ている。


挿絵(By みてみん)


(ダメだ、怖い。

 足がすくんで動けない……サクラならどうするかな……)


その瞬間、心の奥から自然に蘇る。

サクラの、いつもの無茶苦茶な励まし。


──『逃げてもいいよ。でも私なら逃げた先でもケンカしてる。』──


(……そうだよね……サクラなら……

 絶対こういう時も何かと戦ってる……

 いつも何かと戦ってる。何がそんなに気に食わないの?)


(……サクラは極端すぎるけど!私も、少し見習う!

 今回は逃げない!逃げても結局ケンカになるなら、

 最初から向かうしかないもんね!)


自分でも信じられないくらい、ふっと力が抜けた。

怖さよりも、胸の奥が熱くなる。


(……よし!私もサクラ流で頑張ってみよう!)


震える手で武器を握り、スライムに一歩踏み出した。


(行くぞ……!)


恐る恐るスライムに近づこうとすると、ヨハネさんが言いました。


「いつ見てもプニプニしてますね。」


この言葉を聞いた私は今までの全てがヨハネさんの演技だと確信しました。


「……は?……プニ!?……えッ!ヨハネさん!?

 こんな時にどこを見てるんですか!?」


私は胸を隠しながらヨハネさんに言いました。


驚きです!

こんな時にも胸です!

そうだ!この人も男だった!


「え?スライム……のこと……ですけど……?」


必死に取り繕おうとするヨハネさん。


そんなわけあるか!騙されるか!

カエデはオコですよ!略してカエデオコ!


そんな苦しい言い訳を私が信じるわけがありません。


「まさか……私の胸にスライムって名前を!?」


「は……い……?

 ……私はそこのスライムの事を言ったのですが……」


「うそだッ!男はみんなそう言うんだッ!

 男はみんなッ!例外無くッ!

 胸を見ながら会話をするんだッ!」


「えぇ……スラ……イム……?」


「そこのスライムと戦うようにと……

 私に言ったのだって……

 私のシャツをビショビショにさせて……

 シャツに密着した胸を見るためなんでしょう!?

 ……このケダモノめッ!!!」


「ちょ……待っ……お、落ち着いて話を聞いてください……

 カエデ様……?シャツというか鎧を着てますよね?」


「それからッ……それからッ!

 粘液で少しづつシャツが溶けて……あんなことや……

 はッ……こんなことを!?……ほんでもってッ!

 ……あッ……まさか……!?

 風邪をひきますよとか言って……そんなことまでーッ!?

 ……けて……助けてよーサクラーーーーー!!!」


挿絵(By みてみん)


「すみません!なんかすみません!」



── 今日は中止になった。



(つづいてもいいのですか?) ※問いかけ


◇◇◇


《征服ログ》


【征服度】 :1.0%(むしろマイナスにしたい)

【支配地域】:なし(スライムすら倒していない)

【主な進捗】:カエデ、勇者として初訓練。

       しかし妄想が暴走し、スライムとの

       戦闘を中止に追い込む。

【特記事項】:濡れシャツ未遂事件が発生。

       訓練は延期。ヨハネさんが一番の被害者。


◇◇◇


──【今週のサクラ語録】──

『逃げてもいいよ。でも私なら逃げた先でもケンカしてる。』


解説:

逃げ場所すら修羅場にする天才、それがサクラ。

参考にはならない。でも元気は出る。

それが、カエデの心の支えだった。

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― 新着の感想 ―
 カエデは普通の娘だと思ってたのにwww  怪しくなってきたぁあああwww
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