#024 : 目指せ地上☆作者も出口が見えません
前回までのあらすじ
→ トカゲを捕まえた。
◇◇◇
ドラゴンの広間の隅で私と辰夫はエスト様が目覚めるのを待っていた。
──
エスト『う……ん……あ……れ?これは夢かな?』
エスト様の目がゆっくりと開いた。
エスト『お姉ちゃんがいる……ドラゴンさんも!』
サクラ「良かった!エスト様!」
私は思わずエスト様を抱きしめた。
震える手で、エスト様の額をそっと撫でる。まだ少し熱い。
辰夫「ふむ。一安心ですな、サクラ殿。」
サクラ「本当に良かった。感謝しますよ、辰夫。」
エスト様はキョロキョロと周囲を見回しながら言った。
エスト『これは夢じゃないのかな……?』
サクラ「夢ではありません!サクラはここにいます!」
エスト『だって…最近の私はね?記憶障害が酷くて………』
怯えながらエスト様が呟く。
エスト「アゴをぶつけて……連続で気絶したりしてたから……」
サクラ「……。」
私はエスト様の運命のアゴを狙うのはしばらくやめようと思った。
エスト『2人が助けてくれたんだね。ありがとう☆』
サクラ「わ……私のFカップの野望の為に、た……助けただけなんだからねッ!」
辰夫「エスト様は私の全てなのです!と言ってたが(笑)」
サクラ「おいコラ!トカゲ!」
辰夫「……はい……すみません。」
エスト『ふふふ☆いつものお姉ちゃんだね☆』
とても嬉しそうに笑っている。
サクラ「エスト様。このドラゴンですが……辰夫!自己紹介しなさい。」
辰夫「ふむ。我が名はリンドヴル……む?」
私は辰夫をキッと睨み付けた。
辰夫「もとい。我が名はた、たつ……辰夫。」
震える声で辰夫が続ける。
辰夫「……サクラ殿に敗北し…配下となった。今後とも宜しく頼む。」
サクラ「そうなんです!私が!わ・た・し・が!倒して配下にしましたーwww」
サクラ「私が!ソロで!タイマンで!余裕だったねーwww ねー?たーつーおッ?」
辰夫「……」(グスッ)
これ以上に無い最高のドヤ顔の私の横で辰夫はそっと涙を拭っていた。
エスト『え!お姉ちゃんが1人で倒したの?凄い!凄いよ!』
サクラ「ふふふ……小娘ッ!もっと……もっとよ!もっと褒めなさい!」
エスト『よろしくね☆ 辰夫☆』
辰夫「……うむ。よろしく。」
エスト『おいおい。辰夫?私にも敬語つかえよな?☆』
辰夫「……はい……」(グスッ)
……辰夫は震える手でそっと涙を拭った。
サクラ「うん?あ、エスト様。辰夫は私の配下だからな?」
エスト『ぇ……お姉ちゃ……ん……?』(グスッ)
……エスト様は震える手でそっと涙を拭った。
…
エスト『お姉ちゃんはドラゴンも倒せるんだね!やっぱり最強だね!』
サクラ「ふふふ……もっとだ……もっと褒めなさい!」
辰夫「意味わからないくらい強かったです……」
辰夫が遠い目をした。
エスト『じゃあ、また一緒に世界征服がんばろうね☆』
「もちろんです。この世界は私のものにすると決めましたからね。」
エスト『え……?……魔王の私が世界を……』
サクラ「……」(無視)
辰夫「……え、ちょ、え? 世界征服って……本気で言ってます……?」
辰夫がポカンと口を開けたまま固まっていた。
エスト『うん☆世界征服すればお父様も褒めてくれるかなって☆』
サクラ「当たり前です!私の夢(巨乳)のためにも!」
──そのとき、エスト様の目が一瞬だけ泳いだ。
サクラ「……エスト様?」
エスト『な、なにかな☆お姉ちゃん☆』
サクラ「胸、大きくなるんですよね?」
エスト『もっ、もちろん☆たぶん☆きっと☆』
……笑っていたけれど、その目だけは笑っていなかった。
私は無言で指をポキッと鳴らした。
エスト様の背中に、ぶわっと冷や汗が浮いた。
エスト『な!なるから!するから!安心して!』
サクラ「はいな♪」
私は最高の笑顔で応えた。
辰夫「それにしてもエスト殿のその魔力……魔王……久しいな……して、その魔王は今どこにいる?」
辰夫(サクラ殿からも魔王の魔力を感じるが……どこか違う……これは……)
辰夫が遠い目で尋ねた。
まるで数百年前の記憶を掘り返すような声音だ。
エスト『わからないの……3年前に急に出て行って……それきり……』
エスト様は急に視線を落とし、膝を抱え込んだ。
その小さな背中が、ほんの一瞬だけ震えて見えた。
……その場の音が、ふっと消えた気がした。
辰夫「……なんと……」
口を閉じたまま、辰夫は複雑な表情でうつむいた。
辰夫「……我は魔王とは付き合いが長いのです。彼奴がエスト殿を残してどこかに行くとは考えにくい。」
辰夫「エスト殿、魔王という存在には理由がある。この世界には大きな脅威が眠っていると言われている。その脅威を抑えるために、魔王が必要とされてきたのです。」
エスト『脅威……?』
辰夫「はい。我も詳しくは分かりませんが、……近頃、魔力の異変を感じる。魔王はその異変を察知し、行動を起こしたのかもしれませぬな。」
エスト『パパ……』
辰夫は頷いた。
辰夫「ええ。魔王というのは、ただ恐怖や支配の象徴というわけではありません。むしろ世界を守護するために、その力を振るうべき存在なのです。」
エスト『そうなんだ……』
……なんか空気が一気に重くなった。
サクラ(……は?なんで急にしんみりしてんの?)
サクラ「ハイハイハイハイ!! センチメンタル終了ッッ!!」
私はその場に大の字で寝転びながら、天井を指差して叫んだ。
サクラ「そんなことより未来を見ろッ!私のFカップの未来をォォォ!!」
エスト『……うん!未来だよね☆』
エスト様が顔を上げ、いつもの笑顔に戻っていた。
辰夫「……うむ……(あの最強と言われた魔王が行方不明?)」
黙ったまま辰夫は考え込んでいた。
………
私たちはドラゴンの広間で少し休むことにした。
サクラ「辰夫!まずはこのダンジョンの構造を教えなさい。」
辰夫はゆっくりと眼を開け、説明する。
辰夫「ふむ。ここは常闇のダンジョンと呼ばれている。この場所はその地下100階になるな。」
サクラ「ひ、ひゃ…く…」
エスト『うんうん☆ 10階ごとにこういう広いところがあってね!』
エスト『それぞれボスモンスターが居るみたいだよ☆』
楽しそうに頷きながらエスト様は言った。
サクラ「えぇ……めんどくさすぎる……とは言え……ここからは辰夫の背中に乗っていけば良いから移動は楽になりますね。」
エスト『おぉー!お姉ちゃん!あったまいいー☆』
サクラ「あっはっは!……小娘ッ!もっと……もっとよ!もっと褒めなさい!」
辰夫「え………?そうなのか?」(めんどくさそう)
サクラ「いいこと?辰夫。私はね…妹が入ってる箱を背負って鬼と戦った少年を知ってるけど?」
サクラ「その少年はね?家族をみんな鬼に殺されて、それでも折れなかったの。」
サクラ「やり遂げたの。そんな子も居るというのに……あまったれんな!全集中しろ!」
エスト『その人カッコいい!』
辰夫「……はい。」
そして私達はダンジョンの出口を目指す事にした。
(つづく)
……常闇の彼方に、別の眼が開かれていた。
──「……“鍵”は予想外の方向へ転がるものだな……ふ、面白い。」
声だけが、遠く響き、やがて闇に溶けていった。
◇◇◇
《征服ログ》
【征服度】:0.7%(配下の信頼回収+征服方針の再共有)
【支配地域】:常闇のダンジョン(地下100階・完全掌握中)
【主な進捗】:ドラゴン辰夫の正式配下化とエスト様の復活。
“世界征服”が3人の行動原理となる。
【特記事項】:エストの父親を探すという目標も増え、今日も指がポキッと鳴る。