#023 : 異世界初☆ドラゴンにドラゴンスクリュー
前回までのあらすじ
→ 妹のオヤツ食べた。
◇◇◇
サクラ「はぁはぁ……はぁ……やっと……やっと着いた……。」
大怪我をしたエスト様を背負った私はドラゴンの居る広間に到着した。
エスト様を広間の端にそっと寝かせ、広間の中心に向かって歩く。
エスト様の寝息が静かな広間に響く。
ふと、かすかな声が漏れる。
エスト『……お姉ちゃん……』
振り返る私。
サクラ「ちょっと待っててね。お姉ちゃんは、今から……大きなトカゲを片付けて、怪我の治し方を聞いてくるからさ?」
震える手を握り、拳を固めた。
(……怖い。でも、止まれない。)
拳を握った手が、まだ少し震えている。
でも ── この震えごと、“力”に変えてやる。
──そして。
……すぅ
大きく息を吸い込み──
サクラ「ドラゴンッ!ドラゴンッ!聞こえる?ドラゴンッ!」
精一杯の声を張り上げて叫んだ。
……静寂。
どこかで、風が石をなでた。
── 遠くから声が聞こえる。
ドラゴン「……また貴様か!鬼の娘ーッ!またしても命乞いをする事になるぞーーーーーッ!」
ドラゴンが叫びながら飛んできた。
ズシンッ………!!
ドラゴンが私の目の前に着地した。
地面が激しく揺れる。
サクラ「くっ………」
私は揺れる地面に手をついた。
サクラ「……エスト様が!魔王様が……大怪我をしてしまったのです!……助ける方法はありませんか?教えてくれませんか?」
すがるような声でドラゴンに助けを求めた。
声が震えているのは、怖いからではなく、エスト様を失うのが怖いからだと自分に言い聞かせる。
ドラゴン「うん?……ふはははははッ!鬼の娘よ!なぜ我がお前達の手助けをするのだ?」
ドラゴンは失笑した。当然だ。
それでも私は話しを続ける。
サクラ「勝手なことを言っているのは分かっています!でも!でも!私にはこの子が全てなのです!どんなことをしてでも治し方を教えてもらいます!」
ドラゴン「……ふはは!我も長い間のこの生活に飽いていたところだ。」
ドラゴン「……ちょうど刺激が欲しかったところよ!よかろう!鬼の娘よ!教えてやろう!」
(沈黙)
ドラゴン「……我を倒したらなーーーーーッ!」
ドラゴンが大きな翼を広げると、凄まじい殺気が私を襲った。
サクラ「ッ……!!」
私は覚悟を決め、キッとドラゴンを睨みつける。
サクラ「やはりそうなるのね……でもね…?」
サクラ「……今回はエスト様が見ていない……私も本気を出すよ?いきなり光魔法!フラッシュ!」
ピカッ!!!!!
不意をついた攻撃!
手のひらから眩い光が放射された。
(間)
ドラゴン「ぐぁ!?」
激しい閃光がドラゴンの視界を奪う。
広間全体が一瞬にして真っ白に包まれる。
ドラゴン「な!?光魔法?バ!バカな!ゆ、勇者か!?」
ドラゴンは両目を覆い、首を激しく振る。
その巨大な体が不安定に揺れている。
サクラ「奇襲大好き☆ 先手必勝の目くらましよ!」
フラッシュの余韻で、私の周りがキラキラと輝いているように見える。
ドラゴン「しまった!油断した……!」
ドラゴンは完全に不意を突かれ、慌てている。
サクラ「ふははー!……からのー!!!ライトアロー連打!!!」
光魔法での追撃!!
指先から無数の光の矢が放たれる。
それぞれの矢は、まるで意志を持っているかのように、ドラゴンに向かって飛んでいく。
スドドドドド!!!!!
無数の光の矢がドラゴンに襲いかかった!
ドラゴンの鱗に当たるたびに、小さな爆発を起こす。
ドラゴン「ぐッくっ……! だが、それがいい。力に飢え、誇りを忘れぬ者よ、我を退屈から解放してみせろ!」
ドラゴンは怯んでいる。
その巨体が後ずさりし、壁に背中をぶつける。
その瞬間を私は見逃さなかった!
サクラ「ぶぁーかぁーめええええーーーーー!」
(超笑顔でダッシュ!間合いを詰める)
サクラ「怯みおったなあああああーーー!www」
(*この人はヒロインです)
サクラ「いくぜぇえええええええ!!!!!」
【スキル:《怪力──アイスのフタ舐め我慢したモード】発動!
ピキィィィッ……!
《天の声:いや、なんだよこのモード……アイスのフタの恨みは、地割れをも生む。サクラの攻撃力が200%アップする。何故かは知らん。》
──あの時、バニラのフタに残った白い宝石を舐めたかった。
でも、視線を感じた。
(……今やったら終わる)
その一瞬で、私は人生最大級の我慢をした。
世界が静まり返った。
スプーンだけが、私を見ていた。
……だから今はその分、暴れる。
サクラ「私に“我慢”を強いた代償……たっぷり払ってもらうからな?」
ドオォォォン!!
拳が地を砕く!
サクラ「“フタを舐められなかった女”の怒り……ナメるなよッ!!」
全身の筋肉が膨れ、気合が空を揺らす。
ズズズッ……
構えは低く、気配は殺気だけを残す。
サクラ「あのフタの裏のアイスを、私は一生忘れねぇ……これは供養だッ!!!」
(髪の毛が逆立つ)
サクラ「今の私は理性を超えた存在……そう、未練の塊ッ!!」
(岩盤が裂け、広場全体に重低音の衝撃波が広がる)
サクラ「社会が私に求めたのは理性だったが──今ここでぶち壊すッ!!!」
ドラゴン「鬼の娘……お前の怒りで世界が震えている……!?」(たじろぎながら)
(沈黙)
《天の声:お前ら正気か?》
ドンッ!!!
私は地面を思い切り蹴り、ドラゴンに向かって猛ダッシュする!
ドラゴンの片脚を掴んだ。
サクラ「いくぞ!トカゲぇ?今の私は“最高に理不尽”だぜ?」
── 重い!
いや、この重さがいい。この抵抗が、「挑戦」の証だ。
……ムダ様……あの日、深夜のテレビであなたの言葉を聞いてから──
『ドラゴン・スクリューってな?倒す技じゃない。証明する技だ。
マイナンバーカードのパスワードは回転数だ。忘れたら体で思い出せ。』
私もずっと、この技で「ここにいる」って証明させて欲しい。
……ちなみに私のパスワードは1234。
(間)
《天の声:ダメだろそれ》
サクラ「うっさい!!」
(間)
そして、私は心の中で、かつての自分に問いかける。
ねぇ、教えてあげたい。東京の頃の私。
満員電車に潰されて、上司の顔色ばっかり見てたあの頃。
“力のあるものが得をする世界”なんて、壊れてるって思ってたよね。
……でも今なら分かる。
この世界だって壊れてる。
でも──私が本気を出せる壊れ方だ。
壊れてるからこそ、笑えるんだよ。
今の私はね?巨大なドラゴンに、ドラゴン・スクリューをかけようとしてるの。全力で。
息切れして、汗だくで、膝もガクガクで、怖くてたまらない……
だけど──びっくりするくらい────生きてるッ!!!!!
サクラ「……せーーーのッ!!……ドラゴンスクリュぅうううあああああッーーー!!!」
ドラゴンの足を掴んだまま倒れ込むように回転──そのまま体ごと振り抜く!
ッぐるんッ!!! ドガァッッッ!!!!!!!!!!
ドラゴンの巨体が地面にめり込む。
……衝撃が広がる。
この異世界が、確かに揺れた。
ドラゴン「ぐはぁッ……!まさか……この我が……!?」
サクラ「っは!!どうよ!!」
ドラゴン「鬼の娘よ……貴様、一体何者だ……?」
サクラ「通りすがりのお姉ちゃんだよ!!」
ドラゴン「……な、長いこと生きてきたが……鬼の娘よ、貴様ほど暴力的で──いや、理不尽な挑戦者は初めてだ……!!」
ドラゴンスクリュー炸裂。
私は立ち上がり、拳を振り下ろすように叫んだ。
サクラ「これが私の宣戦布告だァーッ!! 」
「……受け取ったかよッ!?クソ世界ぃぃぃッァーーー!!!」
その瞬間、脳裏に心の師匠 ── ムダ様の言葉が蘇った。
《俺の夢はな……いつか本物のドラゴンにドラゴン・スクリューをキメることだ。勝ち負けじゃねぇ。ロマンってやつだ──》
サクラ「ふふふ……ムダ様……ついにやったわよ。あなたの夢、私が叶えた!」
……静寂。
広間に残るのは、埃と熱気だけ。
私は周囲を見回し、拳を高々と突き上げた。
サクラ「……どやぁッ!!」
まさに、世界に向けた勝利宣言だった。
私は勝者の誇りを噛みしめた。
サクラ「本物のドラゴンにドラゴン・スクリューをキメたったわー!」
(ピョンピョンしてダブルピース)
サクラ「異世界広しと言えども私が世界初なんじゃないのー!?」
(倒れてるドラゴンの元に駆け寄る)
サクラ「ふはーはー!これがホントのドラゴン・スクリューだぜぇーーーーー?」
(戦意を失ったドラゴンの肩に手を回してドヤ顔)
(沈黙)
エスト(寝言)『……うるさい……』
(つづく)
\\ 次回予告 //
暴れ狂う鬼、眠れる魔王、そして──地を揺るがす竜の影。
三つ巴か、共闘か、それともただの地獄の寄せ鍋か!?
次回──
『最強魔王軍爆誕☆魔王・勇者・竜王=地獄の闇鍋パーティー』
「理不尽とロマンが入り乱れる、未曾有のカオス。」
\\ お楽しみに。 //
◇◇◇
──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──
『ドラゴン・スクリューってな?倒す技じゃない。証明する技だ。
マイナンバーカードのパスワードは回転数だ。忘れたら体で思い出せ。』
解説:
ムダ様にとって「証明」とは、書類でもデータでもなく“回転”である。
彼の世界では、個人情報とは筋肉の記憶、つまり肉体が刻むIDだ。
ゆえに彼は言う──「マイナンバーカードのパスワードは回転数だ」と。
それは精神論ではない。
彼は本当に覚えていない。
暗証番号を忘れたとき、彼は肉体に頼る。
記憶装置としての脳ではなく、身体そのものを叩き起こすのだ。
結果、毎回なぜかリング上で回転している。
行政的には不正解だが、哲学的には正解。
ムダ様にとって、“思い出す”とは、文字通り「再び回ること」だからだ。
たった4桁の数字なのにな。




