#021 : 暴食発動☆ドラゴンのスキル奪ってやったぜ!
前回までのあらすじ
→ サクラがドラゴンに負けそうだけど家系ラーメンのスープは完飲出来ない。美味しいけどな!
◇◇◇
サクラ「……そうか……まだ……手がある……」
私は震える手で、刀で削ったドラゴンの鱗を拾い上げる。
体中が痛むが、これが最後のチャンスだ。
サクラ「この世界のルールを使って……逆転してやる!」
エスト『お姉ちゃん?』
サクラ「ふふふ……エスト様。戦術は閃きから生まれます。相手の力を──力で奪う!!」
エスト『まさかその鱗を……?』
サクラ「そうよ!勝つために必要な行動にためらいは不要!!」
ドラゴン「ふん。その我の鱗がなんだと言うのだ?敗北を認めろ。このままだと死ぬぞ?鬼の娘よ。」
ドラゴンは大きく翼を広げ、地面を尾で叩きながら言った。
サクラ「ふふふ。お黙りなさい。ト・カ・ゲさん。いいこと? よく聞きなさい? 私はね……あッははッ! なんと!食べた相手のスキルを得る事が出来るのよーッ!」
削った鱗をヒラヒラさせてドラゴンに見せた。
ドラゴン「な、なんだと!」
鱗を舐め回すように見つめながら話を続ける。
サクラ「うーん?これを食べたらどんなスキルが私のものになるのかしらー?……咆哮かしら?……それともブレスかしらー? おーっと?……エクストラスキルかもねぇ……?」
ペロリと鱗を舐めた。
サクラ「ふふっ。さあ、これを食べたらどんなスキルが私のものになるのかしらぁ!?」
ドラゴン「ま、待て! お前、本気で ── !?」
鱗を舐めた瞬間、ドラゴンの目が見開かれる。
エスト『お姉ちゃん!? それ、本当に食べるの!?』
サクラ「ムダ様はこう言った……『勝ちたきゃ食え。食えば解決する。昔からそうだ。』」
(ドラゴンのスキル……伝説の生物のスキル……レベル300のスキル……つまり、当たりに決まってるじゃん!うっわ!天才かも私!!)
ドラゴン「や、やめ──!」
── 私は、迷わず鱗を口に運んだ。
ゴクン……ッ!
サクラ「あはははははは! もう遅いわよ! げぁーッはッはッはははーッ!!」
エスト『お姉ちゃんその笑い方やめて?』
ドラゴン「鬼の娘……お前……ヒロインじゃないのか?」
サクラ「伝説の旨味、いただき──……不味ぅううううう!?」
ドラゴン「我、不味いのか……」(傷ついた)
──静寂。
そして、天の声が聞こえる。
《天の声:サクラはスキル《体温調節 (変温性)》を習得しました。》
サクラ「スキル獲得したわよ!あはは!……は……ッ?……あれ?……えっと……」
(静寂)
……ちょっと待って。今、なんと?
サクラ「聞き間違えかな……? あの……天の声さん? 申し訳ないのですが、もう一度お願いできますか?」
《天の声:チッ!……サクラはスキル《体温調節 (変温性)》を習得しましたぁッ!》
《天の声:スキル《体温調節 (変温性)》:爬虫類系モンスターにありがちな“外気温に応じた省エネモード”を、習得者側でも再現可能にします。》
《天の声:要するに──寒いと、動けません。》
(長い沈黙)(魔界ナメクジが通り過ぎる)
《天の声:ワロタ》
サクラ「あぁ!!やっぱり聞き間違えじゃ無かったみたい!!良かった!!天の声さん、ありがとうございました……もうテメーは黙ってろ!!……うん。ちょっと整理しよう。」
《天の声:ひどい。傷ついた。》
サクラ「うっさい!!」
ドラゴン「な、なんだ?」
ドラゴンはソワソワしている。どうやら気にしている様子だ。
エスト『お姉ちゃん?どうしたの?』
サクラ「二人ともちょっと黙ってて!それどころじゃないの!」
エスト&ドラゴン「はい」
(脳内で整理中)
サクラ「……って!デバフじゃねぇかああああああああッッ!!」
(三者、同じ角度で首だけ15°傾けて静止)
三者「『「……………………………?」』」
サクラ「……いやいやいやいやいや!! 私が欲しいのは火炎ブレスとか、咆哮とかそういうやつ!!」
エスト『お姉ちゃん!状況説明して!ドラゴンさんが困ってる!』
ドラゴン「え、えっと……我がなにか不味いことを……?」
サクラ「あの……ドラゴンさん?……お忙しいところ申し訳ありません…えっと……あのー……やっぱり見た目からすると爬虫類……に該当しますかね……?」
ドラゴン「う、うむ……まぁそうなるな。」
サクラ「で、ですよねーw えへへw」
\\ ちょっとタイム!!! //
(全身でタイムの T のジェスチャー)ピッ。
ドラゴン「む、なんだ。タイムか。了解。休戦だ。」
ドラゴンの動きが止まる。
そしてすごすごと後ろに下がって行く。
エスト『お、お姉ちゃん?』
不安そうに私を見つめるエスト様。
サクラ「エスト様……私は鬼となり、人間ではなくなりましたが、本日をもって哺乳類を引退しました……。」
エスト『い、いったい何を習得したの!?』
心配そうに私を見つめている。
ドラゴン「む……我がなにか申し訳ないことをしたのか……?」
ソワソワしてるドラゴンさん。優しいな。
サクラ「エスト様……今日はもう……」
(普通ならさ、適当に頭下げて、ヘラヘラして、油断させてぶん殴るんだけど……)
(あいつ相手にそれやったら、こっちが即死する……無理だ……)
(はぁ……くっそ、逃げんのかよ私……)
(逃げる……? いや、これは撤退じゃない……生きるためだ…“守る”ためだ…)
ムダ様はこうも仰っていた……
『逃げることは背を向けることではない。
未来に進むための旋回だ。
俺はいま、新宿駅の構内で旋回している。
未来も出口も見えねぇ。』
(……)
……ん……まぁ、新宿駅は魔境だしね。
(あれ?新宿の話!?)
サクラ「ふ……ふふ……エスト様。今は引く時です。これも戦術のうち!」
私は深呼吸し、強がって笑う。
エスト『え……?』
呼吸が震える。笑いたいのに、笑えなかった。
サクラ「お願い……今日はもう帰って……ちょっと……横になりたい……。」
エスト『お姉ちゃん……?』
── 私は、この世界に来てから初めて泣いた。
◇◇◇
その後、ドラゴンさんにめっちゃ謝ったら許してくれた。
ドラゴン「そうか……我の “休眠スキル” を取り込んだか……なんかすまなかったな……我のスキル、ちとショボかったな……」
サクラ「うん……」
ドラゴン「……それにしても……体温調節か……」
サクラ「うん……」
ドラゴン「……それ、我も冬になると洞窟から出られなくなるんだ……辛いよな……」
(優しさが逆に刺さる)
サクラ「共感いらねぇよ!!」
ドラゴン「……鬼の娘よ。冬はちゃんと暖かくして寝ろよ?」
サクラ「アドバイスもいらねぇよ!!」
◇◇◇
やはり倒さないと通してくれないとの事なので、今はトボトボと2人でスタート地点(魔王の間)に戻っているところである。
エスト『お姉ちゃん!ドラゴンさん!大きかったねー?』
サクラ「……そっすね……。」
── 地上への道のりは果てしなく遠い。
この作品は心優しいドラゴンさんとのハートフルファンタジーコメディとなります。
その晩、私は毛布に包まりながらエスト様を抱きしめながら寝た。
サクラ「エスト様。私が得たのは火力じゃない……“成長のきっかけ”です……(震え声)」
《天の声:……その“成長”が何の役にも立たないことに気づくのは、もう少し後の話である。》
サクラ「うっさい!」
サクラ(心の声)(コタツ……この世界にコタツ、導入する……)
(つづく)
*次回!エスト様の身に危険が!?
◇◇◇
《征服ログ》
【征服度】 :0.3%(一時増加→精神的撤退)
【支配地域】:スキル欄の片隅(*しょぼい)
【主な進捗】:レベル300のドラゴンに挑み、スキルを得たが敗北。撤退判断により生存。
【特記事項】:体温調節では火炎ブレスに勝てない。ムダ様語録だけが心の支えだった。
◇◇◇
──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──
『逃げることは背を向けることではない。
未来に進むための旋回だ。
俺はいま、新宿駅の構内で旋回している。
未来も出口も見えねぇ。』
解説:
ムダ様にとって「逃げる」とは、敗北の動作ではなく方向転換の一種である。
人生とは一本道ではなく、時に“旋回”を強いられる迷宮──つまり新宿駅だ。
彼はそこで立ち止まらない。
出口が分からずとも、回る。
改札を見失いながらも、回る。
それこそが彼にとっての「前進」だ。
「未来が見えない」というのは悲鳴ではない。
人は未来を見失って初めて、本当の前進を始める──という矛盾の悟りである。
新宿駅を彷徨い、全てを諦めかけたムダ様が「虚な目で線路を見つめていたら知らない女子高生に助けられた」と後日談が残っている。
彼は言う。
「俺の未来、新宿駅で終わるかと思った。あの子が俺の未来だった」と。
……なお、ムダ様はこの三日後、また新宿駅で迷子になっている。




