#021 : 鬼ころし☆ツンデレ手紙と全力ダッシュ
サクラ「エスト様!エスト様!しっかりしてください!」
私は瀕死のエスト様を背負い、ダンジョンを走っていた。
どれくらい走っただろう——。
もう時間も方向も分からない。
足を動かしているのは焦りだけ。
暗闇をさまよう夢の中のように、ただ走っていた。
サクラ「ああ……私のせいだ……エスト様!」
サクラ「もう少し……もう少しですよ!どうか、頑張って……!」
…
—— 話は少し遡る。
…
……
………
サクラ「チクセウ……チクセウ……あのトカゲめ……チクセウ……」
ドラゴンに敗北し、ホームのエスト様の部屋に戻った私は、お酒に逃げていた。
エスト『お姉ちゃん!?……そのお酒!……鬼ころし (日本酒)!?』
二度見するエスト様。
エスト『ど、どこにあったの!?……鬼が鬼ころしを飲んでる…』
【異世界居酒屋 勝手にコラボ:鬼が鬼ころしでノックアウト】
サクラ「黙りゃッ! 小娘がッ!」
テーブルに空き瓶をガンッ!と叩きつける。中身はもう空
サクラ「……私は……悲しいんだよ……」
椅子から半分ずり落ちながら、涙と鼻水で顔ぐしゃぐしゃ。
サクラ「異世界に転生して鬼になってるわ……」
角を指差して「見ろよこれぇ!」と叫んで、グラグラ揺れて倒れかける。
サクラ「貧乳のままだわ……」
胸をペタペタ押さえて、目をそらす
サクラ「ドラゴンに負けるわ……」
机に突っ伏してバンバン叩きながら泣き叫ぶ。
サクラ「哺乳類ですらなくなるわ……」
床に転がってジタバタ、靴が片方すっ飛ぶ。
サクラ「はっ!? あはは……! あははははは!」
いきなり起き上がり、ピースサインを振り回す。
サクラ「あーっはははー……んー……」
最後は盛大にゲラ笑いしながら、そのまま机に顔面ダイブ。
スーッと寝息を立てた。
エスト『情緒が仕事してない!』
突然ガバーーーッ!
サクラ「……ん……あぁッ!!!」
私は突然起き上がり、エスト様の紅の瞳を真正面から見据えた。
エスト『ひぃッ』
サクラ「エスト様……私はとんでもない事に気付きました!」
エスト『酒くさッ!』
サクラ「これは大発見です! いいですか?」
エスト『来るな!酒くさッ!』
サクラ「私の《スキル:暴食》……これで様々な生物のスキルを食べて習得していけば…」
エスト『う、うん…』
サクラ「……ん?スキルというか特性だよね……スキルって言うな。イライラする…クソがぁーーーーーッ!!!」
エスト『情緒がんばれ!』
サクラ「……あれ何の話だっけ?……あぁ。そうそう!」
エスト『情緒!!』
サクラ「このまま行けば!憧れの【究極生命体】になれる可能性があるのです!!!」
エスト『アル……な、何を言ってるの?』
サクラ「具体的に言うと、溶岩の中でも生きてられます。」
私は最高のドヤ顔をした。
エスト『なんか凄いこと言ってるけど頭に入って来ない! 』
私は驚くエスト様の目を見つめた。
サクラ「……」(見つめながら最高のドヤ顔)
エスト『(ひぃッ)』 (怯えるエスト様)
サクラ「あはははははッ!もっとよ! もっと称えなさい! 小娘ッ!」(泥酔)
エスト『じ、情緒が良い感じ!』
サクラ「……でもね……宇宙空間だけは無理なの……ぅぅぅ……凍るの……宇宙では凍るのよ……考えるのをやめたくなるの……よぅ……」
エスト『情緒ーーーッ!?』
なかなか良いツッコミをするようになったなーと、エスト様の成長を心から喜んだ。
サクラ「なんかさ……"お姉ちゃん"って、ちょっとだけ……あったかいんだよね……」
サクラ「……名前じゃなくても……誰かに呼ばれるのって……」
サクラ「いいな……私は…ここに居るんだな……家族……って……うーん……Zzz……」
ここで私の記憶が飛んでいる。
…
*ここから天の声ナレーション
サクラは机に顔面ダイブしたまま、すぅすぅと寝息を立てていた。
頬に少し涙の跡、口元には泡……全力で笑って泣いたあとの、ぐちゃぐちゃな寝顔。
エスト『もう……』
エストは苦笑しながら、棚の奥からそっと布団を取り出すと、静かにサクラの背中へとかけた。
エスト『お姉ちゃんは……強いのに、弱いとこもいっぱいあるね』
その寝顔を、エストはしばらくじっと見つめる。
エスト『……これじゃ魔王失格だよ。守られてばっかりで……』
唇を噛みしめて、視線を決意に変えた。
エスト『……お姉ちゃんは、私のために必死に頑張ってくれてる。』
小さな拳をぎゅっと握る。
エスト『……私だって、守られてばかりじゃいけない。』
エスト『お姉ちゃんに頼ってばかりじゃ、魔王になれない!』
小さな肩を震わせながら、それでも前を見据えるように。
エスト『私が、もっと強くならなきゃ……』
エスト『お姉ちゃんを、守れるくらいには……』
ほんの少し震えた指で、テーブルに突っ伏したままのサクラの髪をそっと払う。
エスト『……いてくれて、ありがとうね。』
エスト『名前を呼んでくれて……ありがとね。』
ぽつりと、誰にも聞こえないように呟いた。
──サクラは「ぐごぉ……」と寝返りを打ち、机から転げ落ちる。
エスト『!? お姉ちゃん!?……寝てるだけかぁ……』
慌てて抱き起こす。ちょっと安堵の笑み。
そして、机に置き手紙を残すと、音を立てないように部屋を後にした。
◇◇◇
*ここからサクラ視点
サクラ「はッ!?……エスト様?……うぅ……頭痛い……」
翌朝、目を覚ますとエスト様の姿がなかった。
酷い二日酔いの頭で部屋を見渡すと、机の上に書き置きが残されていた。
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【お姉ちゃんがポンコツになってるので、1人でレベル上げをしてきます。
私も早く魔王らしく強くならないと!心配しないでね☆
追伸 :
オヤツは棚にあります。
私の分は食べちゃダメよ?残しといてね☆】
それから——
お姉ちゃんのこと、べべ別に特別だとか思ってないんだからねっ!?
……でも、ありがとう。いつも。エストより】
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サクラ「バカか……ツンデレ属性まで会得したのか…?」
サクラ「……でも、ありがと。"お姉ちゃん"……呼んでくれて、ありがとな……」
── 涙が出そうだった。
私は棚のオヤツ2人分を口に含んだ。
そして、すぐにハッと我に返る。
サクラ「エスト様!?」
た、たた大変だ!
あの子……バカなのに!?ポンコツなのに!?
すぐさまエスト様を探しに走り出した。
心臓が壊れそうなくらい早鐘を打つ。
息が苦しい。
それでも私は走るのをやめなかった。
(……また失うのは嫌だ。あの朝みたいに、もう二度と冷たい手は握りたくない!)
(お願い……お願いだから無事でいて……!エスト様……!)
──
しばらく走ると、エスト様とモンスターが対峙しているのが見えた。
どうやらエスト様が優勢のようだった。
サクラ「あぁ! エスト様! 良かった……勝てそうね……」
……だが、そのとき。
サクラ「あっ! 危ない!」
エスト様の横から、別のモンスターが不意打ちで襲いかかってきた。
ガッ!……ガラガラ……
エスト「きゃ!」
エスト様は熊型モンスターに弾かれて壁に衝突し、そのまま地面に崩れた。
サクラ「エスト様ーーーーーッ!!!!!」
私は駆け寄り、モンスター達をドラゴン・スクリューで瞬殺。
サクラ「エスト様!エスト様!」
サクラ「……良かった。生きてる!!でも……傷が深い……どうすれば……?」
サクラ「わからない!わからない!ダメだ!諦めるな!考えろ!考えるんだ!」
気を失っているエスト様を強く抱きかかえ、考えを巡らせた。
サクラ「ムダ様……いや、今はムダ様どころじゃない!」
(守るって言ったのに。私が全部やるって言ったのに──)
(私のせいで……傷ついた──)
(誰か……誰か、助けてくれる人は……)
サクラ「そうだ……アイツなら、分かるかもしれない…!」
サクラ「エスト様を助けてくれるかもしれない…!」
サクラ「行くしかない!」
噛みしめた唇から、血の味がした。
迷っている暇なんてない——守るべきものがいるのだから。
(誰もいない世界でも……この子だけは、"お姉ちゃん"って呼んでくれる。)
(それだけで、私は──もう一度、走れる。戦える。)
──私はエスト様を背負い、ドラゴンの広間へと走り出した。
心臓が壊れそうなくらい早鐘を打つ。
息が苦しい。それでも足は止まらない。
今度こそ守るんだ——あの子が笑える未来を。
もう一度、この足で掴むんだ。
(つづく)
※次回!サクラが再びドラゴンと対峙する。
◇◇◇
《征服ログ》
【征服度】 :0.35%(情緒崩壊から再起動)
【支配地域】:感情(ツンデレ含む)と使命感
【主な進捗】:エスト重傷。
サクラが"守るための征服"を再確認し、
ドラゴンの元へ向かう決意を固める。
【特記事項】:鬼ころし(酒)を飲み、
ツンデレ手紙に泣かされ、
全力ダッシュで地獄へ向かった。
感情が忙しい。
◇◇◇
──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──
※今回はシリアスな内容だったため(?)、ムダ様語録はお休みです。