#020 : 暴食発動☆ドラゴンのスキル奪ってやったぜ!(デバフ)
「……そうか……まだ……手がある……」
私は震える手で、刀で削ったドラゴンの鱗を拾い上げる。
体中が痛むが、これが最後のチャンスだ。
「この世界のルールを使って……逆転してやる!」
「ふふふ……エスト様。戦術は閃きから生まれます。相手の力を、力で奪う──これぞ格闘家の理!」
『お姉ちゃん!?……まさかその鱗を……?』
「当然です。勝つために必要な行動にためらいは不要!!」
「ふん。こんな傷……ただのかすり傷だが?敗北を認めろ。このままだと死ぬぞ?鬼の娘よ。」
ドラゴンは大きく翼を広げ、地面を尾で叩きながら言った。
「ふふふ。お黙りなさい。ト・カ・ゲさん。……いいこと? よく聞きなさい? 私はね……あッははッ! なんと!食べた相手のスキルを得る事が出来るのよーッ!」
削った鱗をヒラヒラさせてドラゴンに見せた。
「な、なんだと!」
鱗を舐め回すように見つめながら話を続ける。
「うーん?これを食べたらどんなスキルが私のものになるのかしらー?……咆哮かしら?……それともブレスかしらー? おーっと?……エクストラスキルかもねぇ……?」
── ペロリと鱗を舐めた。
「ふふっ。さあ、これを食べたらどんなスキルが私のものになるのかしらぁ!?」
「ま、待て! お前、本気で ── !?」
鱗を舐めた瞬間、ドラゴンの目が見開かれる。
『お姉ちゃん!? それ、本当に食べるの!?』
「ムダ様はこう言った……『勝ちたきゃ食え。食えば解決する。昔からそうだ。』」
── 私は、迷わず鱗を口に運んだ。
ゴクン……ッ!
「あはははははは! もう遅いわよ! げぁーッはッはッはははーッ!!」
『お姉ちゃんその笑い方やめて。』
「鬼の娘……お前……ヒロインじゃないのか?」
(ドラゴンのスキル……伝説の生物のスキル……レベル300のスキル……つまり、当たりに決まってるじゃん!うっわ!天才かも私!!)
……
天の声が聞こえる。
《サクラはスキル《体温調節 (変温性)》を習得しました。》
「あはは……?……は………ッ?……あれ……?……えっと……」
……ちょっと待って。今、なんと?
「聞き間違えかな……? あの……天の声さん? 申し訳ないのですが、もう一度お願いできますか?」
《チッ!……サクラはスキル《体温調節 (変温性)》を習得しましたぁッ!》
《スキル《体温調節 (変温性)》:爬虫類系モンスターにありがちな“外気温に応じた省エネモード”を、習得者側でも再現可能にします。》
《……つまり、寒いと動けなくなります。ワロタ》
「あ、やっぱり聞き間違えじゃ無かった。ありがとうございました……うん。ちょっと整理しよう。」
「な、なんだ?」
ドラゴンはソワソワしている。
どうやら気にしている様子だ。
(整理中)
「デバフじゃねぇかああああああああああッッ!!」
(3人でクビを傾げて静寂)
「『「……………………………?」』」
(沈黙)
「……いやいやいやいやいや!! 私が欲しいのは火炎ブレスとか、咆哮とかそういうやつ!!」
『お姉ちゃん!状況説明して!ドラゴンさんが困ってる!』
「え、えっと……我がなにか不味いことを……?」
「あの……ドラゴンさん?……お忙しいところ申し訳ありません…えっと……あのー……やっぱり見た目からすると爬虫類……に該当しますかね……?」
「う、うむ……まぁそうなるな。」
「で、ですよねーw えへへw」
\\ ちょっとタイム!!! //
(全身でタイムの T のジェスチャー)
「む……なんだ。タイムか。」
タイムの合図を見たドラゴンさんはすごすごと後ろに下がって行く。
『お、お姉ちゃん?』
エスト様が不安そうに私を見つめる。
「エスト様……私は鬼となり、人間ではなくなりましたが、さらには哺乳類ですらなくなりました……。」
『い、いったい何を習得したの!?』
エスト様が心配そうに私を見つめている。
「む……我がなにか申し訳ないことをしたのか……?」
ドラゴンさんが気にしているようだ。
「エスト様…今日はもう…」
(普通ならさ、適当に頭下げて、ヘラヘラして、油断させてぶん殴るんだけど……)
(あいつ相手にそれやったら、こっちが即死する……無理だ……)
(はぁ……くっそ、逃げんのかよ私……)
(逃げる……? いや、これは撤退じゃない……生きるためだ…“守る”ためだ…)
「グレート・ムダ様はこうも仰っていた……『逃げることは背を向けることではない。未来に進むための旋回だ』!」
私は深呼吸し、強がって笑う。
「ふ……ふふ……エスト様。今は引く時です。これも戦術のうち!」
『え……?』
「お願い…帰って…ちょっと……横になりたい……。」
── 私は、この世界に来てから初めて泣いた。
……
その後、ドラゴンさんにめっちゃ謝ったら許してくれた。
「そうか……我の “休眠スキル” を取り込んだか……なんかすまなかったな……我のスキル、ちとショボかったな……」
「……それにしても……体温調節か……」
「うん……」
「……それ、我も冬になると洞窟から出られなくなるんだ……辛いよな……」
「共感いらねぇよ!!」
「ふ……鬼の娘よ。冬はちゃんと暖かくして寝ろよ?」
「……い、いや!アドバイスいらねぇよ!!」
やはり倒さないと通してくれないとの事なので、今はトボトボと2人でスタート地点(魔王の間)に戻っているところである。
『お姉ちゃん!ドラゴンさん!大きかったねー?』
「……そっすね……。」
── 地上への道のりは果てしなく遠い。
この作品は心優しいドラゴンさんとのハートフルファンタジーコメディとなります。
その晩、私は毛布に包まりながらエスト様を抱きしめながら寝た。
「エスト様。私が得たのは火力じゃない……“成長のきっかけ”です……(震え声)」
──天の声──
《……その“成長”が何の役にも立たないことに気づくのは、もう少し後の話である。》
(つづく)
※次回!エスト様の身に危険が!?
◇◇◇
《征服ログ》
【征服度】 :0.3%(一時増加→精神的撤退)
【支配地域】:スキル欄の片隅(※しょぼい)
【主な進捗】:レベル300のドラゴンに挑み、スキルを得たが敗北。撤退判断により生存。
【特記事項】:体温調節では火炎ブレスに勝てない。ムダ様語録だけが心の支えだった。
◇◇◇
──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──
『逃げることは背を向けることではない。未来に進むための旋回だ。』
解説:
戦士の価値は「勝ったか負けたか」で決まらない。
勝利とは、その場に踏みとどまることではなく、最終的に笑っていることだ。
逃げは敗北ではない。
勝つまでの準備運動であり、愚者には理解できぬ高度な戦術行動である。
立ち去る背中は、撤退ではなく──勝利のための勇敢なる旋回だ。