#002 : 転生しても恥は残る。──死因:恥ずか死からの再就職。
前回までのあらすじ
→ 恥ずかしさに殉じた女、佐倉 桜。
その魂は、いまも夜の住宅街でファイティングポーズを取っているという。(都市伝説化)
◇◇◇
【現在地】生と死のあいだ(無音の中間地帯)
【視点】サクラ
【状況】死後、魂だけの存在になっている
◇◇◇
ムダ様の声が消えて、静寂が残った。
闇の中で、音が吸い込まれていく。
“恥ずかしい?笑わせるな”──その言葉だけが、胸の奥にこびりついてる。
……変だね。
あんな恥ずかしい最期だったのに、ムダ様の声だけは、ちょっと温かかった。
……ほんと、ずるいよね。
それが、転生のきっかけになるなんて、思ってもみなかった。
──そして今、私は暗い空間に居る。
再度、周囲を見回す。
やっぱり、誰もいない。
もう、ひとりはいやだ──。
(静寂)
……暗い。静か。
でも、自分の存在だけが、ほんのり光ってる気がした。
「……だれか?」
自分の声だけが、やけに響いた。
「……いないのかな」
『恥ずかしくて死にそう』
なんてよく言うけど
本当に死ぬ奴なんて……ここにいました。
はは……まあ、私らしいっちゃ私らしいよね。
まぁ、最期まで推しのために全力だったんだから、それはそれでいいじゃん?
恥ずかしかったけど、後悔はしてない。
……でも、最後まで一人きりってのは──
ちょっと寂しかった。
……ちょっとだけね。
(やりきった良い顔で微笑む)
──静寂。
ふふ……まったくねぇ。やんなっちゃうよねぇ。
すぅ……(大きく息を吸う)
……ぅぅぅ………………(まだ吸う)
……………………………………ッ!!(ピタッ)
喉の奥に熱いものが込み上げる──。
「──う、うう!うううー嘘だよぉおおおおお!!」
(じたばた じたばた)
「後悔しかないよぉおおおーッ!!」
(どたばた どたばた)
「ムダ様ごめんッ!!やっぱり恥ずかしいよぉおおおおお!!」
「港区女子♡ってさぁ! 夜景バックに、飲んで良いのか分からない色のカクテル持ってる写真、SNSに上げてみたかったよぉおおお!!」
(ごろごろごろ)
(深呼吸)
(赤面)
(言うぞ……)
(言っちゃうぞ……!!)
「ボウズヒゲマッチョのカレピッピ欲しかったよぉおおお!!」
(……よし!)
(あ、あと!これも言っちゃうんだから!!)
(……)
「……あと、ち、ち、チュー……」(耳たぶまで真っ赤)
「チュー、してみたかったんだよぉおお!!!」
「きゃー言っちゃったぁああああああ!!!」
(両手で顔を塞ぐ)
「きゃー!!きゃーーー!!」
「恥ずかしいぃぃぃぃぃぃ!!」
(ドタバタ ドタバ──)
《天の声:うるせー!!》
── え?
「……だれ?今の聞いてたの!?忘れろ!!今の全部、即削除!!」
《天の声:サクラ。お前死んだぞ。死因は「恥ずか死」だ。》
(……)
「……知ってる」
「ねぇ?」
《天の声:なんだ?》
(……)
「私……ほんと、恥ずかしかったんだよ……」
《天の声:恥ずかしい? それはお前がまだ死んでない証拠だ。誰かと繋がってる限り、人は死なねぇんだよ。……だからお前はまだ終わってない。》
サクラ「今、死んだって言っただろ!?」
《天の声:お前の脳じゃ理解できんか。まぁいい。世界は二刀流のオータミかお前の話題で持ちきりだ。誇れ。》
「オータミさんと肩並べてるの誇らしいけど!?」
《天の声:それより港区女子?SNS?お前のSNSのフォロワー全員業者だろ。》
(やった!フォロワー増えた!→業者か……の記憶がフラッシュバック。全5回分。)
「……やめろッ!!」(怒号)
(空気が一瞬止まる)
《天の声:……。》
「そういう柔らかいところに触れるのマジでやめろ!!」
《天の声:ホントすまん。》
「そういうとこだぞ!!」
(間)
《天の声:あとお前、県民──》
(ピキッ)「……おいッ!!」(真顔)
(沈黙)
《天の声:……魔王が召喚してる。》
(魔……?)
「は?」
《天の声:お前の転職先は「魔王軍」な。》
「魔王軍に転職?何それ!?令和のOLに何言ってんの?」
《天の声:あ、あと種族は「鬼」だ。召喚時に魔王が血の代わりにココアを使ってる。それが関係あるかは知らん。》
「……鬼?ココア???」
《天の声:とりあえず魔王のところに行ってこい》
「いやに決まってるでしょ!?」
《天の声:転職活動だと思え。》
「人生の!?やだよ!!」
《天の声:はぁ……じゃあ本来の転生ルートにするか?》
「え?他にも選択肢あるの?」
まさかの転職メニュー方式。
それなら条件の良い方を選ばせて欲しいよね。
《天の声:本来の転生ルートは異世界に赤子で放り出されて【今度は異世界!ズンドコ!サクラさん☆異世界サバイバル 〜ドス恋♡相撲編 〜 】だな》
(ん?)
(……ドス恋?……相撲?……赤子で?……金太郎かな?)
(脳内で行司が「はっけよい!」)
《天の声:あとはそうだな。次の転生先に小籠包ってのもあるぞ》
(んん?)
「点心!?」
(脳内で肉汁を想像中)
「……もはや生命体じゃない!?」
《天の声:熱い想いは生きている》
(……爆発した。脳内で肉汁が)
(脳の処理速度が……ぜんぜん追いついてない)
(魔王?ズンドコ相撲?点心?どれが正解?)
(……)
「まままっ!魔王ーーーッ!!早くぅ!! 私を召喚しろぉおおお!!」
《天の声:仕方ないから魔王のとこで頑張ってこい》
(────異世界転生、開始。)
(……おいぃ?決定?)
「待て待て!──待って!!」
《天の声:……なんだ。》
「まだカレピッピチューの件がぁぁあ!?」
《天の声:……そこ?》
「未練は叫べ。ずっとフラバするんだよ。あの焼肉が。だから叫べ。それが供養だ。──ってムダ様も言ってたのよ!」
《天の声:……誰だよムダ様。》
「推しだよ!!」(キリッ)
《天の声:うるせー!!ズンドコするか?》
(!?)
「……魔王様!今行きます!魔王様万歳!」(最高に良い姿勢)
《天の声:さぁ異世界だ。四股を踏んで頑張れ!餃子に負けるなよ》
(四股?ドスコイ?ズンドコ!!餃子がライバル!?点心!?)
「ちょっと待て!!ズンドコはやだよ!?点心やだよ!?!?」
《天の声:……。》
── 返事はない。
「おぃい!既読スルーすんなよ!!なんか言えよぉおお!?点心は食べるものぉおおおおお!?」
その瞬間、世界が──ズレた。
「おいぃぃぃぃ!?」
視界がぐにゃり。
「ふざけんな!小籠包食べたくなったじゃねーかぁあああ!?
新しい未練だコレぇえええ!!」(現世最期の言葉)
── 笑いながら、涙がこぼれた。
(……あぁ、バカみたい)
やがて、世界が光に包まれた。
光の中で、ココアの香りがした。
(ココア……?正直、今は酢醤油の口だけど……)
甘い。寂しい。
──それでも、温かい。
(ムダ様……やっぱ、私……笑ってるよ)
静寂の中で、微かに息が溶けた。
──その香りは、まだ少しだけ甘かった。
◇◇◇
(……なんか、ココアの匂いがする……私から?)
(よかった……とりあえず点心ではなさそう?)
(頭に……硬い。ツノ?)
(体が……軽い?)
(胸元に手を当てる)
胸……相変わらず軽い。
繰り返す。ツノ出た。胸軽い。
(間)
(……転生しても、AはAか。)
\\なんでぇ!?ツノは出たのに、胸が出てない!?//
《天の声:うるさい。落ち着け。》
\\死んでツノ生えて!?胸は!?どういう転生ルート!?//
《天の声:それは”進化”じゃなく”淘汰”だ。》
\\なにぉお!?こいつぅううう!!!//
《天の声:詳細は魔王に聞け。》
\\ふざけんなよ!消費者庁!国民生活センターさぁぁん!?//
《天の声:異世界にそんなものは無い。》
◇◇◇
── そして。
???『 ……お姉ちゃん!起きてよ? 』
目を開けると、赤い瞳の幼女がちょこんと座っていた。
この子、ツノ……?
……魔王?
「え、ここ異世界? てか妹ポジションって何!?」
こうして、恥ずか死した女の異世界生活が始まった。
最悪の転生が、最高の冒険になる──かもしれない。
……多分、ならない。
第二の人生。
今度は恥ずかしい思いはしたくない。
……どうせなら笑って死にたい。
そして──今度は、一人じゃなきゃ……いいな。
(つづく)
◇◇◇
──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──
『未練は叫べ。ずっとフラバするんだよ。
あの焼肉が──。
だから叫べ。それが供養だ。』
解説:
未練を我慢するな。
吐き出さなかった後悔は、一生フラッシュバックする。
カレピッピ? 叫べ。
チュー? 叫べ。
黙ってたら、50年後も夢に出る。
ちなみに俺は18の時、焼肉食べ放題で遠慮した。
今でも夢に出る。カルビが。
呼んでるんだよ。カルビが。
未練は消えない。だから最初から叫べ。
恥? 知るか。フラバの方が地獄だ。
俺はまだ供養が足りてない。フラバ消えん。
以上だ。叫べ。後悔するな。寝る。
──
──あとがき(読み飛ばし可)──
★超おまけ★
サクラの見てる夢(*本編とは無関係)
──
《天の声》
“恥ずか死” の初ケースとして、特別に女子限定ガチャ許可!
さぁ引け!そして生まれ変われ!
════════════════════
▼転生対象の超・異種族祭り限定種族
☆UR:ヴァンパイア Hカップ (4.999%) ← 確率UP!!
SSR:人魚 / Gカップ (10%)
KS:鬼 / Aカップ(0.001%) ← NEW!!
*KS=KUSA。引いたら草。以上。
もちろん!人魚/アラクネ/ラミア等の人気種族も多数排出!
[#鬼だけ異物感MAX #やべーの居る #右www]
《免責:転生後の苦情はAIが既読無視します》
《注意:読者の皆様も、ガチャは計画的に》
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ガチャのバナー画像を見ると、優雅な美人種族たちの横で、ひときわ異質なマッスルな鬼が仁王立ちしている。
「……。」(一度見)
「は?」(二度見)
「女子キャラ限定……?」(三度見)
「マッスル鬼の存在感が異常!!」(四度見)
《天の声》
では、ガチャを回そう。
「待て!鬼がフラグにしか見えない!!」
《天の声》
レッツ!異世界ライフッ!!
\\ ♪ ぐるるるーん!どん ♪ //(*ガチャ開始)
「おい!私、引いてないぞ!?」
《ガチャ演出中……》
\\ドガァン!//【★★★★★確定演出★★★★★】
『天空に舞い踊る女神たち、黄金に輝く竜にまたがるヴァンパイア──!』
『選ばれし魂よ、新たなる運命の扉が今、開かれる!』(虹テロップ)
[#確定演出 #こんにちは巨乳]
「なんか凄い演出きたー!憧れの巨乳ライフ確定ィ!!」
(大当たりと見るや即ノリノリ。これが汚れた大人。)
──しかし。
パッ!
突然、背景が草原に変化
「あれ……草原?」
[#唐突な草原 #嫌な予感]
↓
スゥ……(神々しいSE)
“段ボール箱” が神々しく降りてくる。
「神々しい段ボール!?」
[#神々しい段ボールというパワーワード]
↓
“段ボール箱” が草原に静かに着地。
(……沈黙)
私は草原に佇む段ボール箱を見つめる。
「……。」(ゴクリ)
[#落ち着け #ここまではURある #諦めるな]
↓
段ボール箱から──
……ツノが出た。
\\ ニュッ。 //
[#ツノ出てんぞ #URはない #諦めろ]
…… 一瞬の静寂。
心臓が嫌なほど早く打つ。
↓
段ボールから、マッスル鬼が生えた。
\\マッスルッ!//
[#鬼引き #さようなら巨乳 #こんにちは筋肉]
「…………。」
視界の端で、さっきまでの虹色がゆっくり色を失っていく。
終わったの?
私の人生、二周目が始まる前に終わったの?
《天の声》
おめでとう!KS 鬼(Aカップ)0.001% を見事に引いたな!
「……へぇ?あの身体がどうやって段ボール箱に?」(天井の蜘蛛を見つめる私)
「…………」(震える手で髪の毛を一本つまみ、枝毛を発見)
「四つ葉の枝毛発見……ふふ……幸せの予感?」(現実逃避)
(深呼吸)
「……って鬼かよぉ!?私、あのマッスル鬼みたいになるの?」
《天の声》
文字通り “鬼引き” ワロタwww
「笑ってんじゃねぇぇぇ!!」
《天の声》
クスッとでもしたなら──評価と★評価だ。
「もうしてるよ!!」




