#019 : スキル《怪力》☆OL時代残業モード
【スキル:《怪力》】発動
バキバキバキッ——!
骨と筋肉が音を立てて悲鳴を上げ、すぐにそれは歓喜の咆哮に変わった。
全身に力がみなぎる。
血が沸騰するような感覚。
地面が、空気が、私の気配に押されて震えた。
「ふぅ……いくぞ! トカゲッ!」
気合一閃、地を蹴った私はまるで弾丸のように飛び出した。
目標はただ一つ——目前にそびえ立つ巨大なドラゴン。
「…特攻か?だがそれがどうした」
ドラゴンは鋭い爪を振りかぶる。
だがその一瞬、横合いから黒い閃光が飛来した。
ドンッ!
「お姉ちゃん!今だよっ!」
エスト様の声とともに、放たれた《ダークアロー》がドラゴンの肩に命中!
「む!?」
ドラゴンの視線が逸れた。
その隙、私は加速を緩めず——
「おらあああああッッ!!」
振り上げた拳が、全身の怪力を纏って炸裂。
狙いは顔面だ!
「よそ見してんじゃぁ!ねーーーーーぇよッ!」
ドゴォッ!!!!
乾いた破裂音とともに、拳が鱗を砕き、骨に届く。
ドラゴンの首がのけぞり、全身が大きくよろめいた。
「ぐぅ…?」
「ふぅ。やっと調子出てきたわー……」
地面に着地し、手をぷらぷら。
そして、もう一度拳を握りしめる。
「第二ラウンド、いくぞ?トカゲぇ?覚悟しとけよ?」
ドラゴンは低く唸りを漏らしながら、なおも鋭い眼光でこちらを睨み返してくる。
顔面の鱗は割れ、鼻先から血が流れ、それでもプライドだけは折れていない。
むしろ、“次こそは”という構えすら見せていた。
「行くぞぉあッ!!」
──私はスイッチを入れた!
「残業……だと……?」
ピキィィィ………ッ!!
私の中で何かが弾けた。
脳内に地獄がぶち上がる。
チャット通知、Excel地獄、午前0時の「軽く修正して」メール。
何人の同僚が泣きながら退職届を打ち込んだか。
そして私も、あの夜を超えてきた一人——。
全身の筋肉が音を立ててうねり、肩に“責任”という名の重みがのしかかる。
空気が変わった。周囲の温度すら数度下がったように感じた。
「なるほどね……これは“完徹コース”ってやつか……!」
【スキル:《怪力》──OL時代残業モード】発動!!!
──天の声──
《社畜時代を思い出すことによる怒りのバフ。要するに八つ当たりするのだ。サクラの攻撃力が120%アップする。理由?知らん。》
背中から湯気が立ち、目の奥に殺意じみた光が宿る。
「いいよ。出勤してやるよ。ブラックな戦場にさァ!!」
私はニヤリと笑い、口角を吊り上げる。
「なぁ、トカゲ……アゴだけ守っとけ?“報連相”の順番、間違えんなよ?」
ザッ!!
地を蹴った瞬間!音を置き去りにした。
【サクラさん奥義:《報・連・相》発動──!】
「報告ッ!!」
ズドンッ!!
両足を揃えたドロップキックがドラゴンの胸板に炸裂ッ!!
「まずは現状報告ゥーッ! “お前はすでに死にかけている”ってなァ!!」
⸻
「連絡ッッ!!」
バシュッ!!!
着地からすぐ踏み込み、右ストレートをドラゴンのアゴにぶち込む!
「アゴ守っとけって言ったよねぇ!!次の予定?“お前の敗北”だよッ!!」
⸻
「相談ッッッ!!!!」
ぶんッ!ピタッ…!
拳を振りかぶるが、止まる。
視線が宙にさまよう。
そして——
「相手いねぇえええええええええッ!!」
「……えぇぇぇぇぇッ!! 」
洞窟に反響する咆哮!!
「いつもそうなのよ!!
相談したくても誰も残ってない!!
全員帰宅済!!上司も部長も既読スルー!!
だから全部一人で回してんのよォォォ!!」
⸻
ズズズッ……!
ドラゴンの巨体がグラつき、ついに片膝をついた。
「ぐっ……な、なんだ今のは……三段構えの連撃……まさか、それが“報連相”…?」
「そうよ!! 社会の荒波を生き抜いた拳だよ!!」
私はくるりとバク転で着地し、口元をぬぐってニッと笑う。
(笑っとけ…ふざけとけ…そうしないと…また、動けなくなる…)
「残念でしたー! 私はね、正々堂々って柄じゃないのよ。
“誰かがやらなきゃいけない仕事”を、全力でブン殴ってるだけよ!!」
壁にめり込んだドラゴンが、呻きながらこっちを見つめてくる。
その目に浮かんでるのは──完全に戦慄。
(ふふん、今さら気づいた?私の一番ヤバいところって、性格だからね。)
『お姉ちゃん……凄い……』
後ろで、エスト様がぽかーんと口を開けていた。
尊敬とちょっとした恐怖が混じった、ありがたいリアクション。
「ありがとエスト様。あてくし?テンションで回る社畜型バトルスタイルなんで!」
私は肩を軽く回して、静かに言った。
「さて、“案件処理”を続けま……」
── その時だった。
「甘いな、鬼の娘よ。」
ズドンッッ!!!
目にも止まらぬ速度で、ドラゴンが突進してきた!
「は——!?」
ガシィッ!!!
反応する暇もなく、ドラゴンの左手が私の胴体をがっちり掴む。
「くっ……この巨体で、なんでそんな速さ出んのよ……!」
巨大な爪が食い込み、肋骨がミシリと悲鳴を上げた。
「ぐあぁぁぁ!」
そのまま私は地面に叩きつけられる。
ドガァァァン!!!
「ぐぅッ!!」
石床が粉々に砕け、クレーターができた。
私の体は完全に動かなくなる。
「はぁ……はぁ……」
息も絶え絶えで、もう立ち上がる力も残っていない。
視界が暗くなっていく。
『お姉ちゃーん!』
エスト様が駆け寄ろうとするが、ドラゴンが威嚇の咆哮を上げる。
「下がっていろッ!!!……やはり我には敵わなかったか。だが、よく健闘した。」
ドラゴンは私を見下ろしながら言った。
(くそ……こんなところで……)
私の意識が薄れかけたその時──
またムダ様の声が蘇った。
《勝ちたきゃ食え。食えば解決する。昔からそうだ。》
(つづく)
\\ 次回予告 //
瀕死のサクラに、ムダ様の声が再び降り注ぐ!
「勝ちたきゃ食え」──その言葉を胸に、暴食発動!?
伝説ドラゴンのスキルを奪い取る!!
そう、きっと手に入るのは……炎のブレス!覇道の咆哮!
異世界無双への切符!
……の、はずだった。
次回──
#020 : 暴食発動☆ドラゴンのスキル奪ってやったぜ!(デバフ)
「……え? ちょ、待って、今なんて!?」
\\ お楽しみに!! //