#018 : 見た目で選べ☆効果はあとからついてくる
前回までのあらすじ
→ 文系だから相対性理論とか難しかった。
◇◇◇
【現在地】パンジャ大陸南東部・常闇のダンジョン100層(魔王の間・武器庫)
【視点】サクラ/天の声(一部)
【状況】異世界生活10日目。筋肉相対性理論を熱く語ったあと。
◇◇◇
ズギィィィィィィィン!!!!!
《♪BGM:深淵の序曲(咎の瞳・起動テーマ)》
(重厚なオーケストラ×パイプオルガン×滅亡系コーラス)
小娘の両目が紅く輝き、宙にふわりと浮かび上がる。
足元に広がる巨大な魔紋。空気が振動し、空間が軋む。
……鼓動だけが聞こえる。
ズゴゴゴゴゴゴ……!!
サクラ「またこれぇぇぇ!?!?!?」
《勇者敵意反応──検出》《自動起動:超特攻《奈落穿つ咎の瞳》》
《却下:かわちい優先》《《キューティー☆エリミネーション》起動》
サクラ「前回はプリティー☆エリミネーションだったけど!?」
《……!?》
《黙れ。仕様変更:名前かわいい方が強い理論》
サクラ「こわッ!?」
《対象選定中──》
(考えるより先にダッシュ)
私は即座にダイブ──小娘の前に飛び込み全力で叫んだ。
サクラ「違う! 違う! 違う!──違うのおおおおおッ!!」
《敵意評価──継続中》《対象詳細スキャン──》
サクラ「さっきの! アレは! 筋肉相対性理論!」
サクラ「【定義】極限筋は"重力を歪ませる"。」
サクラ「【現象】歪んだ重力が"勇者圧"に誤認識される!」
サクラ「【結果】剣のAIが"勇者キター!"って勘違い! 敵意ゼロ! ラブ100!!」
一瞬、空間の魔力の色が揺れる。
(……今、自分で言ってて恥ずかしいわ)
《敵意評価:ゼロ》
《主張:筋肉重力場説──物理的根拠:不明(筋肉)》
《識別:≠勇者 → 筋肉バカ(重度)》
《付記:ナニイッテンダコイツ》
サクラ「誰が筋肉バカじゃい!!!!」
《発動条件未達──スキルキャンセル》
光がすぅっと引いて、エストはふわりと地面に降り立った。
瞳の赤も消え──静寂。
《天の声補足:
全世界が震撼した。前代未聞、“筋肉理論”による勇者スルー。
たしかに、こいつは勇者じゃない──ただの、全力の筋肉バカだ。》
── その時である。
《ぺったん ぺったん ずんどこどーん♪》
《サクラのレベルが140に上がりました》《新スキル《神眼》を習得》
(……え?)
《解説:聖剣エクスカリバーには“未使用経験値”が蓄積されていました》
《条件達成につき──一括解放》
サクラ「ガチャの天井報酬じゃんそれ!? ごめん!!」
──
武器庫を進むと、私は "漆黒の着物" と "漆黒の刀" に目を留めた。
その瞬間──
サクラ「……お?」
着物と刀の周囲だけ、空気がやけにピリピリしていた。
見えない風が唸り、周囲の埃すら弾き飛ばされている。
(なんか……この辺だけ空間が違う気が……)
刀からは、ぼんやり青白いオーラが立ち上り、着物の刺繍部分がほんの一瞬だけ妖しく光った。
サクラ「──まあ、カッコいいし。黒は正義」
私は一切気にせず、着物を手に取り、刀を“修学旅行の日光で買ったお土産の木刀”感覚で腰に刺した。
(……やっぱり、いいなコレ。うん、決まり)
サクラ「よし!これにします。エスト様、覚えてください。」
(ニヤリ)
サクラ「見た目で選べ。効果は、あとからついてくる」
エスト『またムダ様!?』
笑顔で答えるエスト様。
エスト『でも、最近ちょっとわかる気がする☆』
サクラ「でしょ?ムダ様は全てを見通してるんですよ」
サクラ「……これにします。」
サクラ「ふふ……鬼と言えば日本。日本と言えば刀と着物。」
サクラ「ビジュアルは正義。見た目大事。中身は知らん。」
エスト『かっこいー☆』
サクラ「小娘が!美しいと言いなさいッ!」
エスト『怒りの沸点が分からないよ……』
……
そして、エスト様も武器庫の奥をきょろきょろと見回し始めた。
エスト『えっと……私も装備、選んでいい?』
サクラ「当然です。我が配下たる者、身だしなみは大事です」
エスト『……うん!……うん?うん?』
一瞬首をかしげたが、すぐに忘れたように物色開始。
エスト様はショーケースの前で、星の刺繍の入ったドレスと
先端が光る細身の杖を手に取った。
杖の宝石が虹色に輝き、空間に淡い星屑が舞う。
武器庫の空気が微かに震え、周囲の装備が“サァァ……”と小さく風にしなるような音を立てる。
ドレスを持ち上げた瞬間、なぜか天井から“神秘的なオルゴールのBGM”が流れてきた気がした。
(なんか聞こえた?)
私は周囲をキョロキョロ。
エスト様はただドレスのふわふわ感に夢中でぐるぐる回っている。
エスト『これ、ふわふわで可愛い~!』
杖の宝石がキラッと瞬き、周囲に小さな星の幻影が現れた。
エスト『なんか、ちょっと凄そうな気配あるけど……気のせいかな。』
エスト『うん、見た目が一番大事!』
サクラ「お!ムダ様イズム!」
エスト『えへへ……ちゃんと魔王っぽい感じにしたかったんだ☆』
サクラ「うん。魔王らしい。だいぶオシャレですよ。」
エスト『ほんと?』
サクラ「ほんとほんと」
エスト様が満面の笑みで、くるりと回ってみせた。
ふふ。可愛いじゃん?
◇◇◇
──天の声ナレーション──
さて。ここで少しだけ補足しよう。
サクラとエストが選んだ装備──
実は、いずれもかつて世界を震撼させた”伝説級”の代物である。
だが二人は、その装備が“伝説級”だという事実にも、漂う異様な気配にも、一切気付くことなく、見た目100%のチョイスを完了させた。
── 歴代魔王の肖像画が涙を流していたのを二人は知らない。
↓
《*伝説装備を本話の最後で解説します》
……が。
この伝説装備の超性能に、彼女たちは一切気づいていない。
そう──バカだからである。
説明すれば? と思うかもしれないが、それすら無意味だ。
理解する脳みそがない。
私は判断した。
「まぁ、バカだからいっか」
こうして、世界最強級の装備は──
ノリと見た目だけで選ばれ、知識ゼロの主従によって使われることとなった。
今後、この先、どんな奇跡が起きようとも──
それは “偶然” で済まされるのだ。
……選ばれたか。
いや──選ばされたのか。
……巡りは既に、動き始めている。
◇◇◇
── ここからサクラ視点に戻ります ──
こうして私たちは装備を得た。
サクラ「さて。エスト様。本格的に世界征服の開始です。」
刀を掲げる。
サクラ「まずは私の配下を集めるためにも、ダンジョンの外に出ませんか?」
エスト『……ぇ?……え?私の配下……だよね?』
サクラ「……。」(無視)
(返事を待つエスト)
エスト『(聞こえてないのかな?)……えっと!うん、そうだね!レベル上げも兼ねて外に行ってみようか☆』
サクラ「愚かな人間どもの街を襲撃しましょう。高らかに笑いながら。」
(固まるエスト)
エスト『お姉ちゃん……?』
サクラ「冗談。」
……
サクラ「そうだ!エスト様、転移魔法とか使えないのですか?」
エスト『使えないのよねー☆』
サクラ「ちっ……」
(二度見するエスト)
エスト『えっ?』
サクラ「えっ?」
……
サクラ「まずはこのダンジョンのモンスターを完全制圧し、死兵にして汚い人間どもの街を襲わせましょう。私たちはベヒーモスの背中で、フルーツでもつまみながらそれを見物しましょう。」
(杖を落とすエスト)
エスト『お姉ちゃん……?』
サクラ「冗談。」
……
──ここはダンジョン最深部である。
こうして私たちはダンジョンを逆に攻略することになった。
エスト『あ、あのッ!お姉ちゃん!?集めるのは私の配下だよね……?』
(まっすぐに見つめてくるエスト)
サクラ「……。」(無視)
(目で訴えてくるエスト)
エスト『なんで黙ってるのお姉ちゃん……?』
サクラ「……。」(無視)
(抱きついてくるエスト)
エスト『お姉ちゃん!!』
サクラ「……。」(無視)
(泣きそうになるエスト)
エスト『……グスッ』
サクラ「ダンジョンから出て世界征服すっぞっラァアアア!!!」
(ピョンピョン跳ねるエスト)
エスト『わーい!! いくぞー!!おー☆』
私が拳を突き上げると、エスト様もその小さな手を上げた。
(つづく)
※次回!サクラたちの前に最強のドラゴンが!?出落ちかマジ強かは読んで確かめろ☆
◇◇◇
《征服ログ》
【征服度】 :0.3%
【支配地域】:武器庫(外見基準で完全制圧)
【主な進捗】:“勇者の剣”を抜き、見た目で装備を選定。
武器=ビジュアルという思想が確立。
【特記事項】:刀と着物を得た鬼と、夜空ドレスを得た魔王が爆誕。なお性能には一切気付いていない。筋肉相対性理論が確立。
◇◇◇
──グレート・ムダ様語録:今週の心の支え──
『見た目で選べ。効果はあとからついてくる。』
解説:
見た目で選ぶ。それは覚悟の現れ。
派手に飾るのは恐れを隠すためだ。
だがムダ様は恐れない。
なぜならリングの外のムダ様はいつもジャージ姿だからだ。
──ムダ様は独身だ。今日もファスナーが神聖に光る。
◇◇◇
☆おまけ☆
【最新ステータス】
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【名前】:サクラ(鬼・勇者)
【レベル】:140
【称号】 :ぺったん鬼女(呪い:全ステータス−20%)
勇者(成長補正:極/EXスキル解放)
【性格】 :横暴・自己中・勝利至上主義
【特技】:プロレス技
【スキル一覧】(※主に物理で殴りたい系)
・怪力 Lv140
・暴食 Lv10(モンスターのスキルを一定確率で習得)
・冬眠(LvMAX/進化待ち)
【エクストラスキル】(※思いがけず得た副産物)
・神眼(相手のステータスを解析)
・光魔法解放
【魔法】(※珍しく魔法もある)
・ライトアロー(光)
・フラッシュ(光)
【理論】(※謎の学術体系)
・量子筋肉学
・筋肉相対性理論(E=mm²)
・多言語筋肉学
【装備】
《無道・斬》
・攻撃力+500%
・クリティカル時、炎属性追加ダメージ(200%)
・攻撃時、対象の防御力を20%無視
※なお使用者コメント:「拳最高。抜くのめんどい」
《夜叉ノ装》
・全耐性+50%
・被ダメージの30%を自動回復
・魔力増幅+100%
※なお使用者コメント:「黒くてカッコイイから選んだ」
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【名前】:エスト
【種族】:魔族(魔王家)
【称号】:魔王
【レベル】:35
【ステータス】
・HP :100(微増)
・MP :∞(ほぼ無限/制御不能)
・筋力 :7(子供並み)
・魔力制御 :5(バリア張れる程度)
・知力 :10(バカ)
・精神 :2(ガラス・豆腐)
【スキル】
《天与の魔力》〔ユニーク〕
- 本人のレベルに見合わない膨大な魔力
- ※持ってるだけで周囲が困惑
《奈落穿つ咎の瞳》
- 勇者特攻。敵意のある勇者に対し自動で攻撃力数百倍
- 勇者以外には発動しない
- 発動時:空中浮遊+赤目+重低音BGM付き
《純真》(性格スキル)
- すぐ信じる
《単純》(性格スキル)
- 褒めたら泣く
《バカ》(性格スキル)
- バカ
【弱点】
・アゴ(物理的にも精神的にも)
【装備】
《深淵ノ杖》
・闇魔法の効果+300%
・詠唱速度3倍
・近くの味方(主にサクラ)に魔力供給(無制限)
※なお使用者コメント:「軽くて可愛い」
《夜ノ星衣》
・全属性耐性+70%
・被ダメージを確率で無効(50%)
・魔力暴走を防ぐ自動制御
※なお使用者コメント:「大人っぽいから選んだ」
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