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魔王がポンコツだから私がやる。──Max Beat Edition  作者: さくらんぼん
第14章 : 第一回チキチキ!奈落の底から脱出しようー!
171/173

#170 : 反省とは摩擦である

前回までのあらすじ

→ サクラとリツ、壁破壊で脱出開始。

 リツの超加速で逃走中、「靴って生きてるのかな?」と哲学に目覚める。


◇◇◇


【現在地】奈落の底・ワロス城の外

【視点】サクラ

【状況】ワロス城から逃走中に魔神族管理参謀のエクセル=テンプレートと遭遇


◇◇◇


エクセル「私は管理参謀エクセル=テンプレート。ワロス様の混沌を秩序に戻す者」


冷たい声。感情がどっかに置き忘れられてるみたいだった。


エクセル「……こんなところに侵入者……いや、脱走者か」


サクラ「うわ、名前からしてめんどくさそう!?」


リツ「……サクちゃん……幹部だよ……自爆する?」


サクラ「(リツの自爆無視)知り合いに”ワードさん”とか”パワポさん”とか居ない?」


リツ「……無視された……消えたい……」


エクセル「……?」


サクラ「え?いるの?いないの?」


エクセル「む?そいつら居ますが……なぜ貴様がその名を?」


間。


サクラ「マジで!?やっぱいるんだ!!」


エクセル「ワードは文書管理、パワポはプレゼン資料の作成を担当しております」


サクラ「他には?」


エクセル「アウトルックが予定管理、ワンノートが議事録を」


サクラ「関わりたくない一家!!」


リツ「……怖い……」


サクラ「ねぇ、残業代出るの?」


エクセル「出ません」


サクラ「やっぱり!!」


エクセル「ワロス様の為に働くのが報酬です」


サクラ「ブラック企業の王道じゃん!!」


サクラ(職場でこの家系に囲まれたら、心がショートする……)


エクセル「そんなことはどうでもいい。おとなしく捕まっていただきます」


サクラ「いやです、捕まりません」


エクセルが一歩踏み出すと同時にスーツの裾が揺れる。


エクセル「逃がしません。展示品は展示室に戻していただきます」


サクラ「逃げません、殴ります」


(間)


エクセル「……抵抗とみなします」


サクラ「ち、違うの! 通してください! 謝りますから!!」


リツ「……急な態度変更!?」


サクラ「誠意の見せどころ!!」


──ドンッ!!

地面に手をつく。


リツ「……それ、土下座?」


サクラ「反省モード全開!!」


エクセル「……謝罪?」


リツ「……サクちゃん……?」


私は床に頭を下げた。ためらい?なんだそれ。

こっちは勢いで生きてんだ。


サクラ「すいませぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」


リツ「……サクちゃん?……わかった、自爆しようね……」


エクセル「……何だ?土下座……?」


サクラ「リツ!!自爆しない!前方に出力全開!!」


リツ「……?……わかった」


足元のブーツが激しく光り始める。


青白い光が、赤く変わる。


サクラ(熱い!? 足の裏が焼ける!?)


床が爆ぜる。


──ドガァン!


リツの加速力が私の体を押し出す。


土下座の体制のまま、滑走開始──!!


硬質化した手のひらと膝が床を削りながら進む。


火花が散る──バチバチバチ!!

石が砕ける──ガリガリガリ!!


サクラ(……反省とは、摩擦だ……)


床に轟音と共に溝ができる。


サクラ(ムダ様が言ってた──"名前が長い技はだいたい強い!英単語の頭文字をドットで略すやつはだいたい伝説!つまりッ──長くして略せば無敵!!!")


サクラ「発動ッ!!!」


リツ「!?!?!?」


サクラ「発動──!《スライディング土下座かかと落とし・誠意一式(Sliding Gomen Kick Overdrive)》!」


(沈黙)


サクラ「略して──S・G・K・Oォォォォ!!!」


床を削りながら、猛スピードでエクセルに接近。


エクセル「謝罪しながら突っ込んでくる!?」


私はエクセルの目前で前転。


──くるり


サクラ「見ろリツ!!私は今、反省と暴力を両立している!!」


リツ「……倫理、限界突破……!」


勢いのまま、ブーツのかかとをエクセルの脳天に叩き込む。


エクセルが慌てて防御しようとするが、間に合わない。


エクセル「なに!?」


サクラ「申し訳ありませんでしたぁ!!」


リツ「……え……ちょ!?私の"かかと"で──ギャアアアアア!?!?」


──ズドム!!


エクセル「ぶへッ」


衝撃が腹の底から突き上げる。

空気が一瞬で爆ぜた。


世界が震える。いや、揺さぶられる。


蜘蛛の巣状のヒビが一瞬で広がり、亀裂の線が壁を走り抜ける。

床が悲鳴を上げて陥没し、石が波打つようにめくれ上がる。


──ドガガガガガガァァン!!


天井が泣き出した。破片が雨みたいに降ってくる。


謝罪の衝撃波が廊下の奥まで吹き抜けた。


──ガラガラガラ……


エクセル「謝罪……の衝撃波……こんな……技が……」


──パタリ。


倒れるエクセル。

眼鏡が割れて、床に落ちる。


サクラ「勝ったのかな?ふッ……謝罪完了」


リツ「……フリーズした……?」


サクラ「Excelだけに!!」


リツ「……サクちゃん……今のは……ダメ……消される……」


サクラ「ごめん」


リツ「……サクちゃん……私、床に……埋まってる……」


サクラ「あ、ごめん」


(かかとが床に刺さってる)


リツ「……抜けない……このまま土に還りたい……」


サクラ「引っこ抜くぞ!!」


──ズボッ

リツ「……痛い……存在が痛い……」


後ろを振り返る。

崩れた床の向こう、煙の中にエクセルが転がっている。


サクラ「……上に行こう。光、探すんだ」


リツ「……また、誰か殴る?」


サクラ「うん、たぶん」


リツ「……また私で……?」


サクラ「うん、たぶん」


リツ「……理解した。怖い……自爆したい……」


サクラ「すな!!」


階段を登る。闇の奥へ、息が続く限り。


瘴気が濃くて、肺が焼ける。

膝も腕も痛いのに、止まる気はしない。


(……絶対に、脱出する……!)


一段上がるたび、世界が少しだけ重くなる。

下から“ズズン”と響く音。魔神王の気配。

それでも、まだ遠い。


(……エスト様……辰美……待ってて……)

(……絶対に帰る。次は、笑って……)


サクラ「まずは辰夫とユズリハと合流しないとね」

リツ「……ユズ姉……会いたい……」


息が詰まる。汗が冷たい。

でも、私は上を見ていた。


そこに何があろうと、前しか見えなかった。



(つづく)



◇◇◇


──【グレート・ムダ様語録:技名の法則】──


『名前が長い技はだいたい強い!

英単語の頭文字をドットで略すやつはだいたい伝説!

つまりッ──長くして略せば無敵!!』


解説:

戦いとは情報量の殴り合いである。

相手が理解する前に勝て。

そして謝れ。


長い名前は、それだけで威圧する。

略称は、それだけで伝説になる。

そして謝罪は、それだけで誠意になる。


理解できないうちに勝て。

その姿勢が一番強い。


……けどな、謝ってるヤツを殴らねぇ奴は、もっとムダだ。

戦意のない敵?絶好のチャンスだろ。今日は鴨鍋だ。

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