#017 : 見た目で選べ☆効果はあとからついてくる
前回までのあらすじ
→ 文系だから相対性理論とか難しかった。
◇◇◇
ズギィィィィィィィン!!!!!
《♪BGM:深淵の序曲(咎の瞳・起動テーマ)》
(重厚なオーケストラ×パイプオルガン×滅亡系コーラス)
小娘の両目が紅く輝き、宙にふわりと浮かび上がる。
足元に広がる巨大な魔紋。空気が振動し、空間が軋む。
ズゴゴゴゴゴゴ……!!
「またこれぇぇぇ!?!?!?」
《勇者敵意反応──検出》
《自動起動──超特攻スキル《奈落穿つ咎の瞳》》
《いや違う。《キューティー☆エリミネーション》 ── 起動》
「前回はプリティー☆エリミネーションだったけど!?」
《対象選定中──》
私は即座にダイブ、小娘の前に飛び込み全力で叫んだ。
「違う違う違う違う違う違う違うのおおおおおおッ!!」
《敵意評価──継続中》
《対象詳細スキャン──》
「さっきの!アレは!筋肉相対性理論!!」
「ほんとに!!時空の歪みと重力場だけ!!」
「敵意ゼロ!ラブ100!!」
一瞬、空間の魔力の色が揺れる。
(……今、自分で言ってて恥ずかしいわ)
《敵意評価:ゼロ》
《対象主張:筋肉重力場説。物理的根拠──不明だが筋肉》
《識別結果──対象分類:≠ 勇者 → 筋肉バカ(重度)》
「誰が筋肉バカじゃい!!!!」
《発動条件未達──スキルキャンセル》
光がすぅっと引いて、エストはふわりと地面に降り立った。
瞳の赤も消え、静寂が戻る。
《天の声補足:
全世界が震撼した。
かつてない”筋肉理論”による”勇者スルー”である。
だが確かに、こいつは勇者じゃない──
ただの、全力の筋肉バカだった。》
── その時である。
《ぺったん ぺったん ずんどこどーん♪》
《サクラのレベルが140に上がりました》
《スキル《神眼》を習得しました》
(……え?)
《説明します。聖剣エクスカリバーには、歴代勇者候補が倒れた際に蓄積された”未使用経験値”が貯蔵されていました》
《条件を満たしたため、それらが一括解放されました》
「ちょっと!?ガチャの天井報酬みたいなもんじゃんそれ!?なんかごめん!!」
──
武器庫を進むと、私は "漆黒の着物" と "漆黒の刀" に目を留めた。
その瞬間──
「……お?」
着物と刀の周囲だけ、空気がやけにピリピリしていた。
見えない風が唸り、周囲の埃すら弾き飛ばされている。
(なんか……この辺だけ空間が違う気が……)
刀からは、ぼんやり青白いオーラが立ち上り、着物の刺繍部分がほんの一瞬だけ妖しく光った。
「──まあ、カッコいいし。黒は正義」
私は一切気にせず、着物を手に取り、刀を“修学旅行の日光で買ったお土産の木刀”感覚で腰に刺した。
(……やっぱり、いいなコレ。うん、決まり)
背後では鎧や盾たちがガタガタ震え、壁にかかった武器がひとりでにずり落ちる。
“ゴゴゴゴゴゴゴゴ……”
圧倒的な威圧感に気付くことなく、私はにっこり微笑んだ。
「よし!これにします。エスト様、覚えてください。」
「見た目で選べ。効果はあとからついてくる」
『またムダ様!?』
エスト様が笑顔で言った。
『でも、最近ちょっとわかる気がする☆』
「でしょ?ムダ様は全てを見通してるんですよ」
「……これにします。」
「ふふ……鬼と言えば日本。日本と言えば刀と着物。」
「ビジュアルは正義。見た目大事。中身は知らん。」
『かっこいー☆』
「小娘が!美しいと言いなさいッ!」
『怒りの沸点が分からないよ……』
……
そして、エスト様も武器庫の奥をきょろきょろと見回し始めた。
『えっと……私も装備、選んでいい?』
「当然です。我が配下たる者、身だしなみは大事です」
『……うん!……うん?うん?』
エスト様は一瞬首をかしげたが、すぐに忘れたように物色開始。
エスト様はショーケースの前で、星の刺繍の入ったドレスと
先端が光る細身の杖を手に取った。
杖の宝石が虹色に輝き、空間に淡い星屑が舞う。
武器庫の空気が微かに震え、周囲の装備が“サァァ……”と小さく風にしなるような音を立てる。
ドレスを持ち上げた瞬間、なぜか天井から“神秘的なオルゴールのBGM”が流れてきた気がした。
(なんか聞こえた?)
私は周囲をキョロキョロ。
エスト様はただドレスのふわふわ感に夢中でぐるぐる回っている。
『これ、ふわふわで可愛い~!』
杖の宝石がキラッと瞬き、周囲に小さな星の幻影が現れた。
『なんか、ちょっと凄そうな気配あるけど……気のせいかな。』
『うん、見た目が一番大事!』
『えへへ……ちゃんと魔王っぽい感じにしたかったんだ☆』
「うん。魔王らしい。だいぶオシャレですよ。」
『ほんと?』
「ほんとほんと」
エスト様が満面の笑みで、くるりと回ってみせた。
◇◇◇
──天の声ナレーション──
さて。ここで少しだけ補足しよう。
サクラとエストが選んだ装備──
実は、いずれもかつて世界を震撼させた”伝説級”の代物である。
だが二人は、その装備が“伝説級”だという事実にも、漂う異様な気配にも、一切気付くことなく、見た目100%のチョイスを完了させた。
── 歴代魔王の肖像画が涙を流していたのを二人は知らない。
↓
《*伝説装備を本話の最後で解説します》
……が。
この伝説装備の超性能に、彼女たちは一切気づいていない。
そう──バカだからである。
説明すれば? と思うかもしれないが、それすら無意味だ。
理解する脳みそがない。
私は判断した。
「まぁ、バカだからいっか」
こうして、世界最強級の装備は──
ノリと見た目だけで選ばれ、知識ゼロの主従によって使われることとなった。
今後、この先、どんな奇跡が起きようとも──
それは “偶然” で済まされるのだ。
……選ばれたか。
いや──選ばされたのか。
……巡りは既に、動き始めている。
◇◇◇
── ここからサクラ視点に戻ります ──
こうして私は装備を得た。
これで手荒れとはおさらばである。
「さて。エスト様。本格的に世界征服の開始です。
まずは私の配下を集めるためにも!
ダンジョンの外に出ませんか?」
『……ぇ?……え?私の配下……だよね?』
「……。」(無視)
『えっと!うん、そうだね!レベル上げも兼ねて外に行ってみようか☆』
「決まりですね!お風呂にも入りたいし!布団でも寝たいので!愚かな人間どもの街を襲撃しましょう。高らかに笑いながら。」
『お姉ちゃん……?』
「冗談です。」
……
「そうだ!エスト様、転移魔法とか使えないのですか?」
『使えないのよねー☆』
「ちっ……」
『えっ?』
「えっ?」
……
「まずはこのダンジョンのモンスターを完全制圧し、死兵にして汚い人間どもの街を襲わせましょう。私たちはベヒーモスの背中で、フルーツでもつまみながらそれを見物しましょう。」
『お姉ちゃん……?』
「冗談です。」
……
——ここはダンジョン最深部である。
こうして私たちはダンジョンを逆に攻略することになった。
『あ、あのッ!お姉ちゃん!?
集めるのは私の配下だよね……?』
「……。」(無視)
『なんで黙ってるのお姉ちゃん……?』
「……。」(無視)
『お姉ちゃん……?』
「……。」(無視)
「ダンジョンから出て世界征服すっぞっラァアアア!!!」
『……おー☆』(単純)
私が拳を突き上げると、エスト様もその小さな手を上げた。
……
(つづく)
※次回!サクラたちの前に最強のドラゴンが!?出落ちかマジ強かは読んで確かめろ☆
◇◇◇
《征服ログ》
【征服度】 :0.3%
【支配地域】:武器庫(外見基準で完全制圧)
【主な進捗】:“勇者の剣”を抜き、見た目で装備を選定。武器=ビジュアルという思想が確立。
【特記事項】:刀と着物を得た鬼と、夜空ドレスを得た魔王が爆誕。なお性能には一切気付いていない。筋肉相対性理論が確立。
◇◇◇
──グレート・ムダ様語録:今週の心の支え──
「見た目で選べ。効果はあとからついてくる。」
解説:
選ばれし者は形を恐れず。性能は意図せず追いついてくる。
◇◇◇
☆おまけ☆
【最新ステータス】
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【名前】:サクラ(鬼・勇者)
【レベル】:140
【称号】 :ぺったん鬼女(呪い:全ステータス−20%)
勇者(成長補正:極/EXスキル解放)
【性格】 :横暴・自己中・勝利至上主義
【特技】:プロレス技
【スキル一覧】(※主に物理で殴りたい系)
・怪力 Lv140
・暴食 Lv10(モンスターのスキルを一定確率で習得)
・冬眠(LvMAX/進化待ち)
【エクストラスキル】(※思いがけず得た副産物)
・神眼(相手のステータスを解析)
・光魔法解放
【魔法】(※珍しく魔法もある)
・ライトアロー(光)
・フラッシュ(光)
【理論】(※謎の学術体系)
・量子筋肉学
・筋肉相対性理論(E=mm²)
・多言語筋肉学
【装備】
《無道・斬》
・攻撃力+500%
・クリティカル時、炎属性追加ダメージ(200%)
・攻撃時、対象の防御力を20%無視
※なお使用者コメント:「拳最高。抜くのめんどい」
《夜叉ノ装》
・全耐性+50%
・被ダメージの30%を自動回復
・魔力増幅+100%
※なお使用者コメント:「黒くてカッコイイから選んだ」
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【名前】:エスト
【種族】:魔族(魔王家)
【称号】:魔王
【レベル】:35
【ステータス】
・HP :100(微増)
・MP :∞(ほぼ無限/制御不能)
・筋力 :7(子供並み)
・魔力制御 :5(バリア張れる程度)
・知力 :10(バカ)
・精神 :2(ガラス・豆腐)
【スキル】
●《天与の魔力》〔ユニーク〕
- 本人のレベルに見合わない膨大な魔力
- ※持ってるだけで周囲が困惑
●《奈落穿つ咎の瞳》
- 勇者特攻。敵意のある勇者に対し自動で攻撃力数百倍
- 勇者以外には発動しない
- 発動時:空中浮遊+赤目+重低音BGM付き
●《純真》(性格スキル)
- すぐ信じる
●《単純》(性格スキル)
- 褒めたら泣く
●《バカ》(性格スキル)
- バカ
【弱点】
・アゴ(物理的にも精神的にも)
【装備】
《深淵ノ杖》
・闇魔法の効果+300%
・詠唱速度3倍
・近くの味方(主にサクラ)に魔力供給(無制限)
※なお使用者コメント:「軽くて可愛い」
《夜ノ星衣》
・全属性耐性+70%
・被ダメージを確率で無効(50%)
・魔力暴走を防ぐ自動制御
※なお使用者コメント:「大人っぽいから選んだ」
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