表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王がポンコツだから私がやる。──Max Beat Edition  作者: さくらんぼん
第14章 : 第一回チキチキ!奈落の底から脱出しようー!
169/173

#168 : 魔神王☆酸素が痛い

前回までのあらすじ

→ サクラ、岩としてお持ち帰りされる。辰夫とユズリハは帰った。


◇◇◇


私、ワロス様の手の中。


硬質化したまま、ただ運ばれていく。


サクラ(やばい……本当にやばい……)


状況を整理しよう。

私は今、魔神王に岩だと思われている。

珍しいということでお持ち帰りされて、城に飾られる予定。


サクラ(……面白すぎるだろ)


笑いたい。でも笑えない。硬質化を解いたら即バレる。


──その時は死ぬ。


──グゥゥゥゥゥ……


サクラ(黙れ私のお腹!!)


ワロス様「……また鳴いた……癒されるな……」


サクラ(癒すつもりねーよ!!)


魔神王を癒してる。オブジェとして。どうしてこうなった。


ワロス様「……配下に自慢しよう……」


サクラ(自慢すんな!!)


ワロス様が歩みを止めた。


ワロス様「……さて……どこに飾るか……」


真剣に考えている。眉間に皺を寄せて。


ワロス様「……玄関は気の流れが良くない……来客の邪気を受ける……」


サクラ(気の流れ!?邪気!?)


ワロス様「……リビングは日当たりが強い……岩が傷む……」


サクラ(日当たり!?奈落なのに!?)


ワロス様は顎に手を当て、しばらく黙考した。


ワロス様「……飾るなら北壁……湿度が良い……風水的にも良い……」


サクラ(風水!?)


決定したらしい。ワロス様の足音が再び響き始める。


ズズン……ズズン……


サクラ(……逃げないと……でも、どうやって……)


──その時、ワロス様が立ち止まった。


ワロス様「……桜の季節に見つけた岩……サクラと名付けよう……」


サクラ(偶然すぎる!!)


ワロス様「……さあ、行こう……サクラ……」


優しい声だった。


◇◇◇


──夜。


魔神王の城、北壁展示室。


私は「鳴く岩」として、台座の上に鎮座していた。


風水的に完璧な位置。湿度管理された静かな空間。


台座の下には小さなプレート。


『鳴く岩サクラ/触れると鳴く/非売品/ワロス様所蔵』


サクラ(……完全に美術品扱い……)


蝋燭の炎だけが揺れている。


──グゥゥゥゥゥ……


従者A「おや、また鳴きましたね」


ワロス様「……可愛い……」


サクラ(どこが!?)


ワロス様、満足げに退場。


深い静寂が展示室を支配した。


サクラ(……どうしよう……このまま……ずっと……?)


──その時。


……コツ、コツ、コツ……。


天井の通気口から、何かが落ちてきた。


黒く、細長く、左右に分かれた──ブーツ。


サクラ(ブーツが落ちてきた!?)


床に着地して、すくっと立ち上がる。


サクラ(ブーツが立った!?)


ブーツ「……痛い……空気が……痛い……自爆しようかな……」


サクラ(ブーツがしゃべった!?)


ブーツがぺたぺたと歩き始める。


ブーツ「……蝋燭の火が……眩しい……自爆しようかな……」


空気が動くたび、かすかに煙のような霊気をまとう。


ブーツ「……この魂の波……妹の気配……」


サクラ(ブーツが歩いて喋った!?ワロス様コレクション!?怖ッ!!)


ブーツ「……あっ違っ、声に出てた……ごめん……」


サクラ(何が起きてるの今!!)


ブーツがゆっくりと近づき、雰囲気的にしゃがむ。


ブーツ「……あなた、名前は……?」


サクラ「……サクラ……」


ブーツ「……サクラ……あぁ、やっぱり……」


沈黙。


ブーツ「……もうダメだよ……自爆しよう……?」


サクラ「なにがやっぱりなんだよぉおお!?」


──ズズン……ズズン……


遠くから足音。魔神王が戻ってきた。


ブーツ「見つかった?……もうダメだよ、自爆しよう……?」


サクラ「まだ早いッ!!」


ブーツ「じゃあ隠れる……!」


そう言うやいなや、私の足元に滑り込む。


──ズボッ


サクラ「履かれた!?」


ブーツ「違う!防御行動!!」


生足に馴染む感触。


ブーツ「……あったかい……酸素より……優しい……」


サクラ「やめて!?くすぐったい!?」


ワロス様が入室。


ワロス様「……サクラ……また震えているな……」


モゾモゾ続けるブーツ。


くすぐったさがピークに。


ブーツ(もうダメだよ、自爆しよう?)


サクラ(笑うな私!!やめろーーーブーツぅうう!!)


笑いをこらえるので精一杯。


ワロス様「……寒いのか……毛布を持ってこよう……」


サクラ(岩に毛布!?)


足音が遠ざかる。


再び静寂。


サクラ「……なんなんだ、お前……」


ブーツ「……知ってる?ユズリハって子……籠手……」


サクラ「……うん……知ってる……」


ブーツ「……あの子……姉……」


ブーツ「……私はリツ……サクちゃんの姉……千年前に死んだら……ブーツになってた……自爆しよう……」


サクラ(私の……?)


(沈黙)


サクラ「血筋にまともなのがいない!!」


リツ「……千年前……守れなかった……だから今度こそ……」


間。


リツ「……でも無理そう……もうダメだよ、自爆しよう……?」


サクラ「ちょ!ちょっと待って!!ムダ様って人が言ってたの聞いて!!」



『頑張れって言葉は、もう擦り切れてる。

 だから俺はこう言う。“回らない寿司屋に行け”。


 ちなみに俺は一回だけ行ったことがある。

 首が回らなくなった。支払いで。』



沈黙。



リツ「……刺さった……支払いって、生きてる証拠だよね……」


サクラ「靴が急に深いこと言うな!!」



間。



このブーツ、泣いてる……?


リツ「……サクラ……生きてるって、痛いね……」


サクラ「……うん……でも、死ぬよりマシ……」


リツ「……そうか……なら、もうちょっとだけ……がんばる……」


サクラ「うん……」


リツ「……でもやっぱ酸素が痛い……もうダメだよ、自爆しよう……?」


サクラ「どういうことなのぉ!!」


──ズズン……ズズン……。


ワロス様「……毛布を持ってきた……」


ワロス様「……む……震えが止まっているな……良かった……」


毛布が台座の横に置かれる。


ワロス様「……寒くなったら使ってくれ……サクラ……」


サクラ(優しすぎる!!)


足音が遠ざかる。


沈黙。


サクラ「……あんた、ここから抜け出すことできるの……?」


リツ「……わかんない……でも、靴って……歩くものだから……」


サクラ「……そっか……」


リツ「……もうダメでも……一歩だけは、出せるかも……」


サクラ「……ちょっとカッコいいなそれ……」


リツ「でしょ……?でももうダメだよ、自爆しよう……?」


サクラ「まともな人来てぇええ!!」


(間)


《天の声:サクラ。お前の血筋にまともなヤツいるわけないだろ。》


サクラ「うっさい!!(でもなんか腑に落ちたわ)」


《天の声(心の声):まぁそれが面白いんだがな。》



(つづく)



◇◇◇


──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──


『頑張れって言葉は、もう擦り切れてる。

 だから俺はこう言う。“回らない寿司屋に行け”。ちなみに俺は一回だけ行ったことがある。首が回らなくなった。支払いで。』

 

解説:

人生ってのは、だいたい回転寿司だ。

流れてくる選択肢を見て、「まぁこれでいいか」って皿を取る。

気づけば皿だけ積み上がって、腹も心も満たされない。


でも、“回らない寿司屋”には流れがない。

自分で選ばなきゃ、何も出てこない。

覚悟がある。静寂がある。値段がある。

怖い。けど、それが生きるってことだ。


流されるな、回転するな。自分を握り直せ。


ムダ様のリボ払いは残り12回だ。ゴールが見えてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ