#167 : かくれんぼ☆オブ・ザ・デッド
前回までのあらすじ
→ サクラたち、岩の隙間で隠れ続ける。ノーマルレア辰夫、泣く。
◇◇◇
──時間の感覚が、壊れていた。
一分が一時間、一時間が永遠。
永遠の中で、呼吸の音だけが世界の全てになっていく。
サクラ「…………」(硬質化したまま動かない)
ユズリハ『…………』(籠手モード、完全無音)
辰夫「…………」(人型で正座中)
沈黙。
ただ沈黙。
岩が泣く音すらない。
サクラ(ムダ様が言ってた──)
サクラ(『何もしてない時間ほど、敵が勝手に疲れてく。だから俺は働かない。働かない奴が一番仕事してる。』)
サクラ(我慢、我慢……)
魔神王テラ=ワロスは、ゆっくりと歩いていた。
ワロス様「……鬼の娘……どこだ……」
足音が響く。
ズズン……ズズン……
ワロス様「気配が消えた……」
立ち止まる。
ワロス様「隠れているのか……賢いな……」
瘴気が渦を巻く。
ワロス様「だが……」
ワロス様「いつまで隠れていられるか……」
歩き出す。
ズズン……ズズン……
ワロス様「かくれんぼか……」
ワロス様「久しぶりだな……」
ワロス様「……楽しい……」(小声)
巨大な影が、奈落を這う。
──そして。
グゥゥゥゥゥ……。
ユズリハ『…………』(目を見開く)
辰夫「いまのは……?」(超小声)
サクラ「雷……」(無表情)
ユズリハ『いや雷じゃない!絶対お腹の音だよね!?』
サクラ「……私じゃない……」
辰夫「我でもないですぞ……?」(手で腹を押さえる)
サクラ「……ごめん、私だった。」
ユズリハ『サクちゃん、そういうしょうもない嘘つくのやめよう?』
──ピタ。
奈落の空気が、止まった。
瘴気が流れる方向が、変わる。
辰夫「サ、サクラ殿……今の……!」
サクラ「静かに……聞こえる……」
ユズリハ『ひぃ!』
──ズズン……ズズン……。
足音。
ゆっくり、こちらへ。
ユズリハ『ま、まずい!ワロス様が反応してる!』
サクラ「腹の虫を狩りに来た……」
辰夫「上手いこと言ってる場合ですか!?」
サクラ「……硬質化維持……動くな……」
──ギュゥンッ(さらに固まる)
ユズリハ『私も籠手に徹する……!』
辰夫「我も……石のように……」(正座のまま固まる)
──ズズン……ズズン……
足音が近づく。
そして──。
巨大な影が、岩の隙間の前に立った。
ワロス様「……この辺りから……音が……」
サクラ(……!!)
ワロス様の巨大な顔が、隙間を覗き込む。
ワロス様「……岩……」
サクラ(私は岩……)
辰夫(我は石……)(正座で固まってる、目の前にワロス様)
ワロス様「……む……」(辰夫と目が合う。)
辰夫(見つかった……?)
サクラ(呼吸するな……心臓止めろ……)
ワロス様「……鬼の娘と……同じ形の岩……」(サクラを見る)
辰夫(目が合ったのにスルー……)
サクラ(辰夫、完全スルーされてる……)
──グゥゥゥゥゥ……
サクラ(!?!?!?)
ワロス様「……?」
サクラ(やばい……お腹が……)
ワロス様「……岩が……鳴いた……?」
辰夫「……グッ……キッ……」(笑いを堪える)
ユズリハ『……ブフッ』(同じく)
──グゥゥゥゥゥ……
ワロス様「……確かに鳴っている……」
サクラ(止まれ……私のお腹……!)
サクラ(てかなんで辰夫見つからないの?ノーマルレアじゃ説明つかなくない!?)
──グゥゥゥゥゥ……
ワロス様「……面白い岩だ……」
サクラ(……は?)
ワロス様「……鳴く岩……初めて見た……」
サクラ(鳴く岩……?)
ワロス様「……持って帰るか……」
サクラ(……んんんんん?)
辰夫「サクラ殿が連れ去られる!?」(超小声で慌てる)
ユズリハ『どうする!?』(同じく超小声)
──ズイッ
ワロス様の巨大な手が正座☆辰夫の頭上を通過し──
辰夫「ひぃッ……」
──ガシッ
私を掴んだ。
サクラ(え!? ちょ? マジで!?)
ワロス様「……む……これはなんだ……」
さらに、ワロス様がユズリハ(籠手)を見つけた。
ユズリハ(いやぁ!?見つかった!?)
ワロス様がユズリハを見つめる。
(沈黙)
ワロス様「……なんだゴミか……」
(沈黙)
ユズリハ(……ゴ!? ち、ちくしょぉおおおおお!!)
辰夫「南無……」(合掌)
サクラ(空気とゴミwww)(笑うの我慢して震える)
そして、硬質化したままの私、ワロス様に持ち上げられる。
ワロス様「……この岩……軽いな……そして、震えるのか」
サクラ(待って待って待って!?)
辰夫(手が頭の上を通過したのに……)
ユズリハ『辰夫……二回連続でスルーされてる……』
ワロス様「……良い岩だ……」
サクラ(私、お持ち帰り!? お持ち帰りされてる!?)
辰夫「サクラ殿ぉぉぉ!」(超小声)
ユズリハ『サクちゃん!!』(超小声)
ワロス様「……城に飾ろう……鳴く岩……」
サクラ(城!? 飾る!? 観賞用!?)
ワロス様、歩き出す。
──ズズン……ズズン……
サクラ(ちょ!? 待って!? ちょっと待って!?)
サクラ(状況が理解できない!!)
サクラ(なんで私、岩として持ち帰られてんの!?)
──その時。
辰夫「待て!サクラ殿を離せ!」
辰夫が、叫びながらワロス様の足元に立った。
サクラ(辰夫!)
ユズリハ(辰夫!)
ワロス様「……」(そのまま歩く)
辰夫「……ッ!!」(踏まれる!?)
──ズズン
ワロス様の巨大な足が、辰夫の横を通り過ぎる。
辰夫(スルー……!?)
その場で立ち尽くす辰夫。
サクラ(三連続!?)
(沈黙)
サクラ(魔王軍隠密部隊長決定!コードネーム「エア」か「ノーマル」って辰夫!笑わせるなwww)
ワロス様「……この岩……また震えてるな……」(手のひらの岩サクラを見つめる)
サクラ(ひぇっ!!)(硬直)
ユズリハ『辰夫、もしかして……ステルススキル持ち……?』(超小声)
辰夫「何もしてませんが……どうします!? 追いかけますか!?」(もう普通に喋ってる)
ユズリハ『でも魔神王に見つかる!』
辰夫「我は見つかりませんでしたがぁッ!?」(フルボリューム)
ユズリハ『いやホントなんでなの!?』
辰夫「しかし!サクラ殿が!」
ユズリハ『待って……サクちゃん、何か考えてるかも……』
辰夫「そうですな……サクラ殿なら……」
(二人、岩の隙間で見守る)
(魔神王の足音が遠のいて行く)
(魔神王の腕の中の泣きそうな私と目が合う)
(魔神王の足音が聞こえなくなった)
(沈黙)
(コツン……と、小石が落ちてくる音)
辰夫&ユズリハ「……いや、面白すぎだろwww」
(つづく)
辰夫「ところで……」
ユズリハ『何?』
辰夫「ワロス様に三回スルーされましたが……」
ユズリハ『私はゴミ扱いされたよ……』
辰夫「……」(キラリと光る涙)
ユズリハ『……』(キラリと光る涙)
(しばらく見つめ合う)
ユズリハ『……帰ろ?』
辰夫「……ですな」
◇◇◇
──【グレート・ムダ様語録:沈黙の効率】──
『何もしてない時間ほど、敵が勝手に疲れてく。
だから俺は働かない。
働かない奴が一番仕事してる。』
解説:
何もしないことは、サボりではない。戦術だ。
敵が動いている間、こちらは何もしない。
敵が探している間、こちらは休んでいる。
敵が焦っている間、こちらは冷静でいる。
時間が経てば経つほど、敵は疲れる。
体力、集中力、判断力──すべてが削られていく。
一方、何もしていないこちらは、何も失っていない。
これが、沈黙の効率だ。
動かないことで、相手だけが消耗する。
働かない奴が、一番効率よく敵を削っている。
ただし──想定外には弱い。
お腹が鳴るとか、珍しい岩として持ち帰られるとか。
そういう時は……まぁ、頑張れ。元気ですかぁー!!




