#016 : マッスル☆相対性理論(自由選択1単位)
サクラ「どっせーーーーーいッ!」
エスト『ヒロインとは☆』
私のドラゴン・スクリューがベヒーモス型モンスターを地面に叩きつけると、モンスターは動かなくなった。
サクラ「ふぅ。もうこの辺のモンスターも余裕ですね。」
エスト『お姉ちゃん……強すぎない……?』
レベル上げを開始してから数日、エスト様と私は順調にレベルが上がっていた。
(この力、本当に私の……とか考えても仕方ない!ムダ様も言ってた!「悩むヒマあったら筋トレしろ」ってな!!はい筋肉!!)
…
となりを歩くエスト様が、ずっとニコニコしているのに気づいた。
サクラ「……なに?気持ち悪いくらいニヤけてるけど、どうしました?」
そう聞くと、エスト様はちょっと恥ずかしそうに笑って、でもちゃんと答えた。
エスト『えへへ……こうしてお姉ちゃんと一緒に歩くの、なんだかすごく楽しくて……』
エスト『……ずっとひとりだったから、こういうのって、初めてなんだ☆』
……その言葉を聞いて、私は少しだけ足を止めた。
そうか。
この子は、何年間もひとりぼっちだったんだっけ。
一緒に歩く。
それだけのことが、こんなに嬉しいのか。
サクラ「……ふーん。そうなんですね。」
私の返しはぶっきらぼうで、しかもちょっと投げやりだったけど──
心の中じゃ、なぜか悪くなかった。
いや、むしろ……ちょっとだけ、嬉しかった。
誰かと一緒にいるのが楽しいなんて、言われたのなんて初めてだし。
(……やめやめ。感傷は太るわ)
そう思いながら、私はわざと早足になってエスト様を引き離す。
エスト『待ってよー!』って後ろから走ってくる足音に、つい口元が緩んだ。
ほんと、しょうがない魔王様だわ。
好きなだけ一緒に居てあげるっつーの。
(……この子が嬉しそうだと…なんか私まで調子狂うわね)
…
……
………
翌日。
今日も、レベル上げに出発しようとしたとき。
私はずっと抱えていた疑問を、思い切ってエスト様にぶつけた。
サクラ「エスト様、質問宜しいでしょうか?」
エスト『うん☆ いいよー☆』
エスト様は紅茶を口に含む。
サクラ「あの…私…モンスターを全て素手で倒してますが…その…武器とかないんか?手荒れが酷いんだわ。ここはブラック企業なんか?……おぉ?」
私は地団駄を踏みながら問い詰めた。
エスト『…ファッ!?』
エスト様の表情から『た、たしかに!』という無言の声が聞こえた。
サクラ「まさか、忘れてたとかその発想は無かったとか言いませんよね?」
満面の笑みで詰め寄る。
エスト『……。』
ティーカップが小刻みに震えている。
エスト『ごめーんね☆ 忘れてた☆てへぺろ☆』
サクラ「あ"?」
私の怒髪が天を突いた。
今まで素手で戦わされていたのである。
エスト『こ、こっちに武器庫があるから、好きなの選ぶと良いよ☆』
サクラ「ほーん……」
…
……
………
◆魔王の間・武器庫
エスト様に案内され、私たちは魔王の間の奥、武器庫へと入った。
高級そうな武器や防具がズラリ。まるでRPGのラスダン前。
その奥。
ひときわ目立つ台座に──光り輝く剣。
エスト『あ、それ? 勇者にしか抜けないって言われてる、超レアな──』
スポッ。
サクラ「あッ……?」
エスト『あッ……?』
──抜けた。
なぜかは知らん。勢い。反射。ノリと筋肉の勝利。
聖剣が眩い光を放ち、私の手に納まった瞬間、世界が止まった──
\\ペカーーーーーッ☆//
── …………は?
荘厳なBGM。キラキラ演出。
見たことないUIが目の前にチラつく。
一瞬だけ、空気が静まる。
エスト『えっ……えっ!?お姉ちゃん!?それって!?』
サクラ「えっ……えっ!?」
ドン!!
私は地面を踏み鳴らした。全力の"逆ギレフェイズ"に突入。
サクラ「聞いてますか!?私、ただの一般的な鬼ですよ!?健康的な一般の鬼!!!」
エスト『じゃ、じゃあなんで抜け──』
サクラ「これは筋肉相対性理論よ!!」
エスト『筋肉相対性理論……?』
サクラ「そうよ!私の筋肉が極限まで鍛えられると、筋肉の周りの時空が歪むの!」
必死にポーズを決めながら説明!
サクラ「E=mc²のcは光速だけど、筋肉の場合はE=mm²!mはマッスル!!」
エスト『それ意味わからないよ……?』
サクラ「わかるのよ!筋肉が光速に近づくと質量が無限大になって、重力場が発生するの!」
さらに腕をぐるぐる回して!
サクラ「その重力場が聖剣の魔法的ロックシステムを物理的に歪めて、認証をバイパスしたのよ!!」
エスト『重力で魔法が歪むの……?』
サクラ「当然よ!アインシュタインも知らなかった筋肉重力理論よ!!」
サクラ「筋肉は時空を歪める!だから聖剣が『あ、この人すごい筋肉だから抜いていいや』って勘違いしたの!!」
エスト『勘違い……?』
サクラ「そうよ!聖剣のAIが筋肉の重力場を勇者の聖なる力と誤認識したのよ!!」
サクラ「つまり、これは物理現象!科学的事故!筋肉による時空の歪み!!」
エスト『でも光ってるよ!?』
サクラ「それは筋肉が光速に近づいた時に発生するマッスル放射よ!!」
サクラ「光の速度で筋肉が振動すると、可視光線が放出されるの!これもアインシュタインの理論の応用よ!!」
エスト『そんな筋肉の理論なんて──』
サクラ「作ったのよ!隠れた研究よ!『筋肉が宇宙を支配する』って論文があるの!!」
エスト『そんな論文あるの……?』
サクラ「あるのよ!マッスル物理学会の秘密資料よ!!」
サクラ「E=mm²、これが筋肉相対性理論の基本公式!!」
サクラ「質量とエネルギーの等価性じゃなくて、筋肉とマッスルの等価性よ!!」
エスト『筋肉とマッスル同じじゃない……?』
サクラ「違うのよ!筋肉は日本語、マッスルは英語!言語が違うとエネルギーも違うの!!」
エスト『それはもう理論じゃないよ……?』
サクラ「理論よ!多言語筋肉学の基礎よ!!」
── その時、私はさらに深い理論を展開!
サクラ「だから聖剣も筋肉に共鳴して抜けちゃったのよ!!」
エスト『もう何が何だかわからないよ……?』
サクラ「わからなくていいの!筋肉は宇宙の真理だから!!」
── そして最後の決めゼリフ!
サクラ「とにかく!これは筋肉による物理現象!勇者とか関係ないの!!」
サクラ「筋肉相対性理論では、十分に発達した筋肉は魔法と区別がつかないのよ!!」
エスト『さっきから何を言ってるの……?』
サクラ「マッスルクラークの第一法則よ!!」
エスト『誰よマッスルクラークって!?』
サクラ「筋肉物理学の父よ!当然でしょ!?」
──私は静かに剣を掲げた。
サクラ「エスト様。"勇者"ってのはな……称号じゃない。生き様なんだよォ!!」
(……うん。今、自分が一番勇者みたいな顔してんな。笑える。)
\\ペカーーーーーッ☆//
エスト『また光ったァァァ!?』
サクラ「だまらっしゃい!!筋肉の重力場がまた歪んだだけよ!!」
サクラ「時空の歪みで光が屈折してるの!!筋肉相対性理論の基本よ!!」
──私は震える手で剣をそっと台座に戻した。光はスッと消えた。
サクラ「……はい、次の武器選びましょうか☆」
エスト『う、うん……?』
(よし、筋肉相対性理論で逃げ切った)
── 私が安堵したその時!
ズギィィィィィィィン!!!!!
《♪BGM:深淵の序曲(咎の瞳・起動テーマ)》
(重厚なオーケストラ×パイプオルガン×滅亡系コーラス)
小娘の両目が紅く輝き、宙にふわりと浮かび上がる。
足元に広がる巨大な魔紋。空気が振動し、空間が軋む。
ズゴゴゴゴゴゴ……!!
サクラ「またこれぇぇぇ!?!?!?」
(つづく)
\\次回予告!//
ズギィィィィィィィン!! 再び謎スキルが暴走!
浮かぶエスト!鳴り響く滅亡BGM!
──だがサクラは叫ぶ!「全部筋肉で説明できるから安心しろぉ!」
そして舞台は武器庫へ!
「見た目で選べ、効果はあとからついてくる!」
そんな軽率なノリで、なぜか伝説装備を入手してしまう二人。
次回──
#017 : 伝説装備☆見た目で選べ、効果はあとからついてくる
「筋肉は真理!装備はビジュアル!勇者?知らん!」
\\お楽しみに!//