#158 : 焔と光☆共鳴の先に
*前回同様、辰美視点。
……このままじゃ、ツバキさんが自分を焼き尽くしてしまう。
(=地面に顔面を強打して痛い。とても痛い。)
なんとかしないと!?
その時──胸の奥で、サクラさんの声が蘇った。
《諦めるのは負けだ!負けるのは嫌だ!嫌なことはやらない!やらないなら勝つしかない!勝つためには戦う!戦うなら諦めない!諦めないから負けない!つまり最初から勝ってる!とりま今は眠いから寝る!おやすみ!》
辰美(理屈は回る、私は進む。──行こう。)
辰美「サクラさん……私はぁ!!!サクラさんを探しに行く!」
その時、胸の奥で何かが弾けた。
私の足元の石畳がじわじわと赤く光り始める。
ゴウ……ゴウ……
空気が重く、熱く、まるで息をするたびに肺が焼けるようだ。
カエデ「……あれ? 辰美さん、目が怖い……」
ユリ「いや、これは……進化の予兆……!」
エスト『モンスター図鑑的には次のページに行く瞬間☆』
《SYSTEM:辰美、アークドラゴン〈紅蓮神竜〉に進化》
私の足元から炎が駆け上がる。
皮膚に紅蓮の鱗模様が浮かび上がり、背中から炎の竜翼が大きく広がり──
辰美「──ゴォォォォォオオオオッ!ヴァァァァァァァアアアアアアアッ!!」
喉の奥から迸ったのは、私自身の咆哮。
咆哮は炎の唸りを伴い、竜脈を駆け抜けて空を裂き、大地を軋ませた。
その重低音は遠く山々にまで響き渡る。
熱波が辺りを包み、石畳がミシミシとひび割れる。
──私の咆哮に応えるように、ツバキさんの周囲を赤い光が渦を巻き始める。
炎と風が絡み合い、回転する光の輪が形を成す──その輪は輝きを増しながらツバキさんを包み込んだ。
暴走が鎮まったわけじゃない。
ただ、炎と同調し新しい軌道を描き始めた──
──ツバキさんの暴走エネルギーを私の炎の渦が押し返していく。
ツバキ「……体が勝手に回ってるのに、この熱が心地いい……これは何?」
辰美(これって……なんだか特別な感じがする……これ、竜王の力に近い……いや)
私はすぐに首を振った。
辰美(違う。これは私の力だ。サクラさんのために掴んだ、私自身の力だ)
炎と風が絡み合い、赤い光の渦が爆ぜる。
キッとツバキさんと向き合う。
辰美(呼気が重なり、鼓動が揃う――)
辰美&ツバキ「これは《共鳴》」
辰美「ツバキさん!止まれぇッ!」
ツバキ「ふんぬぅううううう!!」
──炎で包み、聖女の力を安定させる。
ツバキさんの体がゆっくりと失速し──最後は私の両腕の中に、温かく落ちてきた。
ツバキ「……辰美……大丈夫。もう止まった」
その瞬間、ツバキさんの瞳に金色の光が宿った。
──聖女の覚醒。
でも、暴走じゃない。私の炎に包まれた、穏やかな覚醒。
ツバキ「辰美…ありがとう。でも次は私が守る番」
私は微笑んだ。
辰美「うん、一緒に戦おう」
魔法陣のカウントダウンの表示が『00:00』で停止。
《SYSTEM:創世事象=回避/聖女覚醒=安定》
──表示は一瞬の残像を残し、スッと溶けた。
ローザ「ツバキ様……これは……私の故郷キューシューに古くから伝わる言い伝えそのものです……『紅蓮の神竜の咆哮とともに聖女が降臨する』……まさにその通りに」
感動で震えた声を漏らすローザさん。
私とツバキさんは顔を見合わせた。
ローザ「“卒業の光に包まれし邪眼、今や聖女の瞳として世界を見守りたまう”──記録に残します」
ツバキ「記録すな!」
カエデ「ほら、卒アルを燃やした甲斐あったじゃん。立派に聖女さんになったよ」
ツバキ「っさい!!」
そうか──私たちの出会いも、この力の共鳴も、きっと偶然じゃない。
ツバキ「カエデ……あとで話がある」(怒)
カエデ「え?うん!なんだろう?」(素)
ユリ「正義が勝ったな!」(違)
エスト『あれ?私たち……魔神族が来たわけじゃないのにピンチだったの?』(驚)
ローザ「聖典に書くことがたくさんですわ!」(喜)
辰美「はぁ……とりあえず寝たい……」(疲)
◇◇◇
南西の方角にサクラさんの気配を感じる気がする。
力が解放されたから?
……いや、違う。あれは絶対にサクラさんだ。
私は静かに拳を握った。
辰美「絶対に見つけ出す。たとえこの命を燃やし尽くしても」
ツバキ「……あとでカエデは殴るけどね」
(間)
カエデ「あれ!?え、なんで!?」
風が頬を撫でていく。今度こそ、必ず辿り着く。
そして今なら分かる──ツバキさんと私、聖女と火竜。
この《共鳴》があれば、サクラさんを救うのも、世界を守るのも、二人なら……ここにいるみんなとなら絶対にできる。
そして、ツバキさんはカエデさんを正座させて説教してた。
カエデ「でもさ、あの時の魔王さんスタイル、似合ってたよ?」
ツバキ「褒めてないからそれ!」
カエデ「私たち、ズッ友だよ?…だから全部覚えてるし、忘れないよ?」
ツバキ「いやぁ……忘れてぇ!」
(つづく)
《天の声 : ローザの言ってたキューシューの伝承は #032 を参照》
◇◇◇
──【今週のサクラさん語録】──
『諦めるのは負けだ!負けるのは嫌だ!嫌なことはやらない!やらないなら勝つしかない!勝つためには戦う!戦うなら諦めない!諦めないから負けない!つまり最初から勝ってる!とりま今は眠いから寝る!おやすみ!』
解説:
これはサクラさんの理屈に見せかけた強引な勝利哲学。
「諦めない=負けない」という単純理論を、無理やり「最初から勝ってる」に飛躍させるあたりがポイント。さらに最後の「眠いから寝る」で、戦意も論理も全部ベッドに持ち込む型破りなスタイル。
常識的には破綻してるが、サクラさんの前では誰も反論できない──なぜなら、反論する前に試合が始まって終わっているからである。
ユリ「つまり…最初から私たちは勝ってたんだな!(違)」
エスト『サクラお姉ちゃんの狂気には逆らうな☆』




