#149 : ゴミスキル女子☆地獄で無双開始
──しばらく経ち、辰夫の傷が落ち着いた頃、私たちは真剣に作戦を練り始めた。
サクラ「この奈落の底を抜けるには魔神族と、さっきの気配のヤツ?魔神王?と戦わなければならないってことよね」
辰夫「可能性は高いですな……」
辰夫がうなずく。
サクラ「はい、無理!撤退よ!」
私は親指グッ!笑顔にぱぁ!とさわやかに決めた。
辰夫「さわやか!……まぁ正面からぶつかるのは得策ではありません。特に今の我では……」
私は鋭い瞳で前方を睨みつけた。
サクラ「何とか奴らに見つからないように抜け出して、私の魔王軍で一掃したいな。私は高みから見物したい。笑いながら。」
私は苛立ちを抑えられず、ポテチ感覚で傍らの小石を拾ってパリポリと食べ始めた。
サクラ「魔神族……私をこんな目に合わせやがって……」
サクラ「絶対に許さん……封印?生ぬるいわ……」
サクラ「この世から存在を抹消してやる……」
イライライラ……カリカリカリ……と爪も噛んだ。
辰夫は私の静かな怒りに背筋が冷える思いをしながら、苦笑した。
辰夫「……その石、美味しいんですか?と言うか、なんで石を食べれるんですか?」
サクラ「知らん、怒りで味がわからん!」
サクラ「レベル上がったら胃袋のレベルも上がったんだよ……」
(どんどん謎の生物になってる……?)
辰夫が戦慄していた。
サクラ「糸の活用法は前世のアメリカってところに糸を武器にするスーパーヒーローが居たから参考に出来るんだよね。」
辰夫「前世ってどんな世界だったんですか……」
サクラ「だから魔神族を倒すにはやっぱり連携技を鍛える必要があるな」
辰夫の表情が曇った。
辰夫「嫌です」
私は辰夫を無視して真剣に説明を始める。
サクラ「まず、『辰夫スイング』ね。」
サクラ「お前の尻尾に糸を巻いて敵を一掃する」
辰夫「ほら予想通り!この人は我を困らせることにかけては天才!」
サクラ「待って!黙って!閃いた!」
サクラ「……スイング中にブレスを吐く……?」
サクラ「これ……『辰夫スイング・スパイラル』の完成よ」
私は震え声で言った。
辰夫「話聞けよ!」
サクラ「次、『辰夫スリングショット』ね。」
サクラ「糸で巨大パチンコを作り、お前を射出する」
辰夫「相変わらず人の話聞かないな!この人!」
辰夫「糸を使いたいだけ!」
辰夫「辰夫ロケットととの違いが分かりません!」
辰夫「なんなら辰夫ロケットのが精度高いまである!」
サクラ「最後は、『辰夫ロケット☆ジャイロ』だ。右肩壊しても左肩で投げてやるからな?」
私はさらに重々しく続ける。
辰夫「すんごい無視してくる!?我はここに居ますが見えてますか!?」
サクラ「横回転を加えて命中率と貫通力を上げる究極技だ」
辰夫「究極死ぬ。」
私は天井を見上げ、どこか遠い目をした。
サクラ「天国のおとさんも喜ぶよ?」
辰夫は混乱のあまり絶叫した。
辰夫「その『おとさん』って誰ですか……!?」
洞窟に辰夫の悲痛な叫びが虚しく響き渡った──。
その時だった。
ザザザザザ──
私たちの前に、一体の魔神族が現れた。
しかし、先ほど感じた魔神王の瘴気とは比べ物にならない。これは下級の偵察兵レベルだ。
黒い鎧に身を包み、赤い瞳を光らせながら、巨大な斧を振りかざしている。
魔神族「奈落の底に迷い込んだネズミが二匹……」
その低い声が洞窟に響く。
魔神族「我らが王の復活を前に、良い生贄となってもらおう」
地面を踏みしめるたびに小石が跳ね、湖面に波紋が広がる。
声の重低音が石壁に反響し、まるで地鳴りのように私たちの身体を震わせた。
魔神族の赤い瞳が私たちを値踏みするように見据える。
その視線だけで、背筋に冷たい汗が流れた。
サクラ「辰夫、来るぞ!」
辰夫「仕方ありませんな」
私と辰夫は戦闘体制をとった。
【スキル:《怪力》──免許証の写真写りが前科者だったモード】発動!!(筋力+500%)
《天の声 : 運転免許証の更新後、自分の写真を見た瞬間、その凶悪な写りに愕然とする。怒り、絶望、そして哀しみが爆発的に筋力に変換される。なんでだろうな?》
私の全身に力がみなぎる。
筋肉が膨れ上がり、血管が浮き出た。
サクラ「誰だよこの前科者顔ォォォォォォ!!」
サクラ「5年だぞ……5年ずっと鬱確定だとぉおおおおお!!」
辰夫「ええ!?」
ビクっとする辰夫。
サクラ「辰夫!私が行く!怪我人は後ろから援護しろ!」
辰夫「はい!」
魔神族が巨大な斧を振り下ろす。
風を切る音が「ヒュオオオオン」と響き、斧の軌道上に火花が散った。
私は左に跳び、辰夫は右に転がった。
斧が地面に叩きつけられると、「ガッシャアアアン!」という爆音と共に岩盤が砕け散った。
サクラ「その斧、うるせーな!」
私は魔神族に向かって一直線に駆け出した。
足音が洞窟に響く。
サクラ「武器は卑怯ですよっと!」
糸を斧に向かって吐く。
\\ ピュッピュッピュッ //
魔神族の首と斧を固定する。
魔神族「何だこれは!?糸か!?」
サクラ「糸じゃねーよ!犠牲にした女子力だよッ!!」
【スキル:《鉱物化》──ダイヤモンド】発動!!
私は拳を固め、力を込めた瞬間──腕全体が透明なダイヤモンドのように輝き始めた。
サクラ「新スキルの試し撃ちだ!喰らっとけ!」
ガシャアアアン!
拳は魔神族の厚い黒鎧を紙のように突き破り、粉々に砕いた。
魔神族「ぐわぁぁぁぁ!!」
魔神族が驚愕し、よろめく。
サクラ「へぇ?これがダイヤモンドの硬さ?気に入ったわ」
衝撃波が洞窟全体に響き渡り、天井から細かい石が雨のように降り注いだ。
魔神族の黒い鎧にヒビが入り、赤い瞳が驚愕に見開かれる。
魔神族「ぐおおお……まさかこの小娘が……!」
魔神族が大きくよろめく。
その隙に辰夫が後ろから飛び上がり、口を大きく開いた。
辰夫「喰らえ魔神!!『黒炎』!!!」
ゴオオオオオオオオ!
辰夫の口から黒い炎のブレスが噴射される。
炎が魔神族の背中を直撃し、黒い鎧が赤熱化していく。
魔神族「ぐわあああああああ!」
魔神族の悲鳴が洞窟に木霊した。
サクラ「苦しそうだし?楽にしてあげるよ?」
私はにっこりと笑った。
私は苦悶する魔神族に糸を巻きつけ、両手の動きを封じる。
サクラ「受け身をとれないようにしたよ?気をつけてね☆」
私は満足気な笑顔を浮かべた。
サクラ「いよいしょっ!」
そして片足を掴む!
そのまま全身をねじり、回転の勢いを最大まで溜める。
サクラ「ふぅぅ……」
私の身体が竜巻のように回転しながら倒れ込む!
サクラ「よいしょーーーーーッ!!」
【奥義 : ドラゴン・スクリュー】
魔神族も同時に螺旋状に回転!
ズドォォォォォン!
魔神族「ごぼはああああああ!」
魔神族の巨体が頭から地面に激突し、岩盤を砕きながらめり込んでいく。
土煙が舞い上がり、しばらく何も見えなくなった。
やがて煙が晴れると——
魔神族「くそ……くそおおお!」
魔神族が巨大な斧を振り上げようと最後の力を振り絞る。
魔神族「まだ……戦える……!」
サクラ「うっさい!死んどけ!」
ドスン。
私は鉱物化したまま魔神族の上に座る。
魔神族「ぐぼっ」
斧がガランと落ちた。
サクラ「はい終了」
完全に動かなくなった。
辰夫「……斬新ですね」
サクラ「でしょ?」
私と辰夫は勝利のハイタッチを交わした。
パシィン!という乾いた音が響く。
サクラ「私たち強くなってるな」
辰夫「かなりレベル上がりましたからね」
辰夫は苦笑いを浮かべた。
サクラ「よし、次の魔神族が来る前に、ここから脱出しよう」
辰夫「ですね」
私たちは地下湖のほとりを後にし、奈落の底の奥深くへと向かった。
暗闇の中に、かすかな光が見えている。
それが出口への希望の光でありますように。
魔神王の瘴気は、まだ奈落の底に漂っている。
(つづく)




