#015 : ストレス発散☆クマに八つ当たり
私、サクラ。
今からクマを殴る。4本腕のモンスタークマ。
理由?ストレス発散……じゃなくてレベル上げよ!!
次は神?運命?
どっちでもいいわ!
とにかく私の人生に口出ししたヤツ、まとめてぶっ飛ばす!!
……覚悟しとけよ?
◇◇◇
【3分前】
ダンジョン最深部、鉄の匂いと光のない闇が張り付く。
足元の石畳が湿っている。──冷たい。
エスト『快眠召喚☆』
サクラ「ん?」
私の横で、幼女魔王エストが布団を召喚し、潜りこんだ。
エスト『レベル上げは大事……でも魔力が切れて眠いの……お姉ちゃん、行ってらっしゃい……ムニャ』
サクラ「ちょ!いまレベル上げ中!クマ!クマくる!」
エスト『すぅ……ムニャ……世界征服……いっしょにごはん……お姉ちゃん……ずっと……いっしょ……』
サクラ「おぃいい!」
……って、これ。守れなかったら ── 死ぬじゃん!?
──
\\ ちょっとタイム!!! //
(全身でタイムの T のジェスチャー)
クマ「ガ、ガウ?」(※あ、タイムですか。)
サクラ「そこに座れクマ。言いたいことたくさんあるのよ」
クマ「ガ、ガウ。」(あ、はい。)
──タイム中──
「……。」「……。」
すぅぅ……
\\ 愚痴タイム開始!!! //
サクラ「クマちゃん?私ね、数日前まで東京でOLしてたの」
クマ「ガウ」(はい)
サクラ「毎日、課長のコーヒーに砂糖 19 個入れてた」
クマ、目を見開く。
クマ「ガウ?」(テロですか?)
サクラ「ほぼね」
クマ「ガウウ?」(犯罪では?)
サクラ「なんで?20個じゃないからグレーゾーンよ」
クマ「ガウウ……?」(なるほど……?)
サクラ「でさ? "恥ずか死" という死に方をして、日本一有名になってね?」
クマ「ガウ?」(なんと?)
サクラ「魔王に異世界に召喚されたの」
クマ、クビをかしげる。
クマ「ガウ……」(情報量が多すぎる……)
サクラ「ツノは出たのに、胸は出なかったの」
クマ「ガウ」(上手いこと言いますね)
サクラ「ふざけてないわよ?」
クマ「ガウ?」(一回整理してもらっていいですか?)
サクラ「うん、そうだよね。これ私のステータスね。どう思う?」
私はため息と同時に叫んだ。
サクラ「ステータスーッ!オープンッゥゥゥーーーー!!」
(※結果発表ー!のテンションで)
クマ「ガゥウウウ!」(ビックリした!)
\\ はぁー!!ぺったん!! //
(※ステータス画面が開く効果音)
================
【ステータス】
種 族:鬼
スキル:《怪力》(感情ブースト)*女子力ゼロ
称 号: ぺったん鬼女【呪】(全ステ-20%)
備 考: 妹になった魔王を守る鬼の勇者(意味不明)
================
サクラ「はい、この効果音を考えたやつこっち来い」
クマ「ガウウッ!?」(なんすかこの効果音!?)
クマ、ステータス画面を覗き込む。
クマ「ガウ」(これはひどい)
サクラ「だよね。」
(沈黙)
サクラ「でね?そこでお昼寝してるのが私を召喚した幼女魔王」
クマ「ガウ」(妹って言ってましたね)
サクラ「うん、妹。で、『お姉ちゃん!世界征服しよう!わーい☆』 だってさ。私もこの子もレベル1で。」
クマ「ガウガウガウ」(ピクニックと世界征服を勘違いしてません?)
サクラ「さらに妹に勇者バレすると魔王の血が覚醒して全力で殺しに来るの」
クマ「ガウ」(設定が渋滞してません?)
サクラ「だから勇者のスキルとか魔法とか使えないの。」
クマ「ガウ…」(ストレス凄そうですね…)
サクラ「そう。勇者の無駄遣い。昨日も量子筋肉学とか意味不明なこと言って誤魔化した。」
クマ「ガウウ……?」(誤魔化せたんですか……?)
サクラ「ふふ……なんとかね……。」
……ゆっくり目を閉じる。
……もういい。
……知らん。
サクラ「もうどうでもいい!どうなってもいい!いや、よくない……」
……ギュッ
……静かに拳を握り、溢れる涙を見せないように静かに天を仰ぐ。
(……天国のおじいちゃん、おばあちゃん、ごめん、孫は異世界でクマ殴ってます……)
泣くな、私……泣いたら──壊れる。
なのに、涙が頬を伝い拳に落ちた。
(沈黙)
(心配したクマが背中をさすってくれてる)
サクラ(──優しいな、クマ。)
サクラ「……こんなことで泣いてる場合じゃねぇ!」
袖で涙を拭き、拳を握りしめる。
サクラ「神か?運命か?……絶対に私で遊んでるだろぉおおお!?」
サクラ「ぐぉあお"◎殴%殺¥@↑↑↓↓←→←→BA絶£許ッ!!」(白目で頭を掻きむしる)
クマ「ガ……ガウウ……」(あ…壊れた…)
サクラ「カミウンメイめぇええええええ!!!」
クマ「ガウウ…」(神か運命か迷いながら怒ってる…)
ズドム! ……ガラガラ!(壁に頭を打ちつけ壁が崩れる)
(崩れた壁の向こうにキングベヒーモスが居て、目が合う)
サクラ&ベヒーモス「「……。」」
サクラ&ベヒーモス「「……。」」(ぺこり)
(お互いに会釈)
ズシシシーッ!(キングベヒーモス緊急避難)
(沈黙)
静まり返った中、クマを睨む。
サクラ「待たせたなクマ。殺り合おうか?」
クマ「ガ?ガウガ、ウガウ……」(あれ?自分たち、友達になれたかと!?)
クマは潤んだ瞳で首を傾げた。
クマ「ガ、ガガウ……?」(友達、やめるんですか……?)
サクラ「ごめん、クマ……これも運命なの……ムダ様も言ってたの。『友達だからこそ、全力で殴れる──それが信頼ってもんだろ?』って。」
クマ「ガ……?ガウ……?」(ムダ様……危険人物ですか……?)
サクラ「次に生まれ変わったら絶対友達になろ?」
クマ「ガガウ!」(絶対嫌です!)
クマ、涙目で否定。
──
サクラ「"スキル" 使うよ……クマぁ……私に与えられた唯一のスキル……《怪力》をねぇ?」
【スキル:《怪力》── 責任者出てこいモード】発動!!
(筋力+1000%)
スキル《怪力》は感情で倍率が変動するらしい。理由は知らん。
└例:唐揚げにレモンテロ(筋力+250%)
└例:たけのこの里派を煽りモード(筋力+500%)
└例:ジェイソン・ステ○サム様の結婚報道(+9999%)※殿堂入り
ピキィィィ……ッ!!
バキバキッ!!
地面にひび割れが走り、床石が浮き上がる。
サクラ「行くぞ……クマぁ!」
──
私は一歩踏み出す。
サクラ「数日前まで普通のOLだったのに!今や異世界でクマとタイマンって!!!」
叫び、地面を蹴った。
クマ「ガガウッ!ガウウーッ!」(クマさん、圧で硬直中)
石畳が砕け散り、風を切り、一直線にクマへ。
サクラ「クマよ?お前は悪くない。でもな!私の糧になれやぁあああああ!!」(光る目、口から蒸気)
右拳を大きく引いて──
サクラ「んんッ!どっせぇええーい!!」(*残念ですが、これはヒロインの掛け声です)
全体重を乗せた怒りの一撃が、クマの顔面に炸裂した!
ドグシャッ!!!!!
巨大なクマが壁ごと吹き飛ぶ。
クマ「ガゥウウウウウウーッ!!」
……ゴガァアアアアアアアッン!!!!!!
サクラ「……クマに人生相談って、もう末期だな」
クマの向こうに見える、崩れた石壁の先。
そこに私の新しい人生が待ってる。
クマを殴り飛ばした先の壁が崩れ、その向こうからキングベヒーモスがひょっこり顔を出した。
サクラ&ベヒーモス「「……。」」
(無言で再び深くぺこり。互いに気まずそうに目を逸らす)
ズシシシーッ!(キングベヒーモス全力で緊急避難)
(沈黙)
サクラ「……次はアイツやるか……。」
──
サクラ「ふん。この怪力、この世界を生きるのには悪くない」
サクラ「……うん、悪くない……悪くない……よね?」
(震え声で必死に自分に言い聞かせる)
(……怪力女子ってお嫁に行けなくね……?)
……。
サクラ「いやいや、ステ○サム様捕まえるし!!」(無理です)
……。
(遠くでモンスターの呻き声)
……。
(コオロギの鳴き声)
……。
(カタツムリが歩く音)
……。
エスト『お姉ちゃん……うるさい……』(寝言)
── 涙がポタッ……
ぷつん……。
\\ 轟轟轟轟轟 怒怒怒怒怒 //
[タグ]#ヒロインです #ベヒーモス避難中 #ステ様も逃げて
──現在、ダンジョン内のモンスターに無差別八つ当たり中──
──
サクラ「はぁ、人生インフェルノモードだわ……」
(頭上でレベルアップ⤴︎⤴︎表記がチカチカ。)
サクラ「は!知らんヤツに私の人生決められてたまるかっての!」
「理不尽に奪われた分は、この拳で全部取り返す!!」
「家族も!居場所も!幸せも!全部この拳でなぁ!」
サクラ「逃げる準備しとけよ神ぃいい!?」
「神なんて信じてないけどなぁあッ!」
サクラ「弱肉強食上等!!私が頂点に立ってやる!!」
「運命も神も笑ってろ。私はもっと笑ってやる。」
(拳を見つめる)
サクラ「……まあ、笑えるうちは生きてるってことよね。」
(短く笑い、深く息を吸う)
サクラ「ここからが “私” の物語だ!!」
サクラ「あーあ。ワクワクしてきた。」(棒)
(クルッと振り返り)
サクラ「あとステ○サム様も捕まえる。」(無理に決まってんだろ)
──
その時、“人生” ── そのワードに呼ばれたのか、
一瞬、幸せだった子供の頃の団らんが脳裏を過ぎる。
サクラ「……。」
……ふん。また団らんの記憶か。
異世界にもフラバ持ち越しかよ……。
あの温もりを捨てきれない自分がムカつく。
家族を失った時の後悔は、今も私を縛り続けてる。
あの時、もっと何かできたんじゃないか、って。
そんなふうに過去に囚われてる自分が嫌だ。
だからこそ、止まれない。進むしかない。
それが今の私のすべてだ。
我ながら、めんどくさい性格だよなぁ。
とは言え、基本は自分大好きだけどね。
私は髪をかき上げ、ダンジョンの奥を見つめる。
──
少しすると、エスト様がむくりと起き上がった。
エスト『……お姉ちゃん?なんか……すっごい音がしたような……』
サクラ「あ、エスト様。お疲れ様でした。モンスター退治終了です」
エスト『……あれ?壁が……いっぱい崩れてない?』
辺りを見回すエスト様。
確かに私の八つ当たりでダンジョンの壁があちこち崩れている。
サクラ「あー……それは……地震ですよ。地震。異世界の地震は激しいんです」
エスト『そうなんだ!?でも、お姉ちゃんのおかげで安全だったんだね☆』
エスト様は安心したように微笑んだ。
その無邪気な笑顔を見ていると、昨夜のことを思い出す。
昨夜、泣きながら「捨てられるかも」なんて言っていた子が、今はこんなに明るく笑っている。
エスト『お姉ちゃん?どうしたの?』
サクラ「いえ、何でもないかな。行きましょう」
(……守ってやるよ。絶対にね?)
私は静かに決意を新たにした。
もっと強くなって──
この子が二度と泣かなくて済むように。
……もしまた全部失うくらいなら、走り続けて死んだほうがマシかな?
ま、どうせ止まれない性分だし。あーあ。
(つづく)
◇◇◇
《征服ログ》
【征服度】 :0.25%
【支配地域】:ダンジョン内モンスター(八つ当たりで制圧)
【主な進捗】:ストレス発散完了。
レベル上げ継続への意欲向上。
【特記事項】:クマとの対話で自分の境遇を客観視。
クマとの友情は崩壊。
家族を失う辛さを改めて実感し、
エスト様を守る決意を固める。
◇◇◇
──グレート・ムダ様語録:今週の心の支え──
『友達だからこそ、全力で殴れる──それが信頼ってもんだろ?』
解説:
信頼は壊れるもの。
でも壊してから泣けば、なんとなく感動っぽくなる。
だから今日も、とりあえず全力で殴る。
友情も、運命も、そして自分自身も。