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魔王がポンコツだから私がやる。──Max Beat Edition  作者: さくらんぼん
第12章 : またかよ、最下層!人生ハードモード続行中
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#143 : 生存本能☆地獄で輝く最底辺スキル

── 落ちた瞬間、全てが終わったと思った。


重力に引かれ、神経だけが鋭くなり、世界がスローに伸びていく。

それも、都合のいいスローモーションじゃなくて、すごく嫌なやつ。


体はボロボロのはずなのに、こういう時に限って意識だけはやけにハッキリしてる。


風が頬を切り裂き、逆巻く髪が視界を遮る。

胃が浮き、心臓が喉元まで競り上がってくる。


見上げれば、さっきまでいた場所の光がみるみる遠ざかっていく。

点、点、点……はい、消えた。


墜落の途中、走馬灯。

出たよ人生のダイジェスト。



幼馴染のバカ二人との記憶──


おじいちゃん、おばあちゃんの温もり──


ムダ様の試合──

……って、ムダ様?

こんなときまで推しを出してくるのか私?

いや、でも実際あの勇姿に何度も救われたし……。


──そして。


「生きろ」と私を助けた辰夫の声──


エスト様…妹の泣き顔と笑ってる顔──


辰美の元気な声と嬉しそうな顔──



「人生、早送り」ってこういう意味だっけ。



その瞬間、落下の途中で──天の声が響いた。


《レベルアップ。スキル進化が可能になりました》

《「貝殻生成」スキルの進化──「シェルアーマー・フォーム」取得》



(……え?)



生存本能が、私の意識を超えてスキルを進化・起動させる。



── バキバキッ


殻が体を覆う。

背中から腰、胸、腕へと、硬い装甲が走っていく。



《「ミズミズしさアップ」スキルの進化──「リキッド・プロテクション」取得》


同時に、ゼリー状の膜が全身を包み込む。

水分が異常なまでに表面へ引き出され、衝撃吸収材となる。


── そして。


ドオンッ!!!


「ぐはッ…」


重い着地音と同時に私の呻き声が響く──。


骨も皮膚も、臓器も、何もかもがバラバラに砕けてしまったような感覚。

体の中で何かが壊れていく音が聞こえる。

ミシミシと、木の枝が折れるような音。


だが、想像したような激痛は来ない。

鈍く、重い痛み。

体の奥底から湧き上がってくるもの。


目も、声も、思考も、奈落の底の闇に呑み込まれていく。

視界がぼやけ、世界が歪む。

耳鳴りが激しく、自分の心臓の音だけが異様に大きく響く。


「……あれ……私……死んだ?」


その疑問が浮かんだ時、私はまだ考えていることに気づいた。


(……助かったのか……?)


信じられない思いで体を確認する。

致命的な損傷はない。

魔神族に折られた右手以外、骨も折れていない。

血もそれほど流れていない。

意識は失いかける。

でも、死の恐怖は薄れていた。


……底なしの闇。空気は凍りつくほど冷たい。


体は冷たく、まったく力が入らない。

指先から始まった冷たさが、じわじわと体の中心に侵食していく。


さらに「ミズミズしさアップ」の副作用で喉の奥が焼ける。

潤いの代償に、中身はどんどん渇いていく。


唾液も出ない。舌が腫れ上がったように感じる。


肺が、砂になったみたいにバサバサだ。

息を吸おうとしても、空気が入らない。

胸が締め付けられ、呼吸をするたびに痛みが走る。


──なのに。


その絶望の淵で、私は気づいた。


ほんの僅か、私はまだ ”ここ” にいる。

完全に死んでいない。

何かが私を現世に繋ぎ止めている。


恐怖とも安堵とも言えない複雑な感情が湧き上がった。


死んだ方が楽かもしれない。それでも──


(生きたい)


その想いが、まるで炎のように胸の奥で燃え上がる。

どんなに辛くても、どんなに苦しくても、私は生きていたい。

まだやり残したことがある。

帰らなければならない場所がある。

まだ私には、果たすべき役目がある。


「生きたい」── ただそれだけを心に繰り返し、必死に脳みそを回転させる。


そのとき、不意に思い出す。

今までバカにしてきた、“ゴミ”スキルたち。

レベルアップの通知が来ても「どうせ使い道なんてない」と、ずっと放置してきた。


けれど、今この窮地で、なぜか ── 頭の中に浮かんでくる。


(……冬眠。馬鹿みたいだけど、眠れば体力も水分もギリギリまで抑えられるかも……)


(体温調節。ああ、凍死はごめんだし──自分で熱を作れたら、それだけで助かる)


(光合成……ここがどんな暗闇でも、何か“エネルギー”を取り込めるはず。どんな微細な希望だろうが、今は喰らいつく)


いまさらだけど、

「進化させときゃよかった」なんて後悔、死んでもしたくない。


(だったら ── 今、やるしかない)


生きるためのプライドなんて捨ててやる。

過去の私がゴミだと笑ったスキル、

今この地獄で、唯一の武器になるなら──


(全部、進化しろ)


私の奥底から、そう叫ぶ声が響く。


保留にしてきた進化を、

今、ぜんぶ「本能」で選び取った。


《「冬眠」スキルの進化──「ハイバネーション・フォーム」取得》

《「体温調節」スキルの進化──「内燃機関インナーファイア」取得》

《「光合成」スキルの進化──「環境同化エコシンク」取得》


(省エネ、発熱、エネルギー変換……生きるための三点セット…!!!)


ゴミだと思ってた私のスキルが、今この地獄で、唯一の希望に変わる。


(ああ、これが……私の生き方だ)


これを馬鹿にしたやつ、今頃どう思ってるかな。

はい。私です。ごめんね?


“最底辺スキル” たちが ── 死に際で命綱へと変わっていく。


ミズミズしさアップが表皮を守り、貝殻生成が衝撃を受け止める。

冬眠で消費を抑え、体温調節で熱を灯し、光合成が命を繋ぐ。


ここでだけ、生きるための“武器”になった。マジかよ。


震える体で、私は闇に手を伸ばした。


指先が、岩の表面に触れる。

ザラザラとした感触。

でも、確かに掴めるもの。


どんなに絶望しても、命がある限り、私は諦めない。

ここで死ぬわけにはいかない。


(絶対に、這い上がってやる)


その決意が、私の体に新たな力を与えてくれる。


そう心に誓ったとき、ほんの少しだけ、奈落の闇が薄くなった気がした。


遥か上方に、針の先ほどの光が見える。

それは希望の光なのか、それとも幻なのか。

でも、それが何であれ、私には目指すべき方向がある。


上へ。光へ。


「…と、その前に……こんな所で寝てたら、そのうち変なモンスターが寄ってくるかもね……今は戦えない」


私は残った力で「 貝殻生成シェルアーマー 」を発動。

強化された貝殻が、ヤドカリみたいに全身を包み込む。


「……奈落の底で貝になる女。これが “サバイバル女子力” ってやつ?」


馬鹿らしい、でも少し笑えてくる。

けれど今は、これしかできない。

まだ歩き出すこともできない。


せめて、死なないように。

まずは、回復 ── 今は…それだけ。


こんな地獄の底で眠る日が来るなんて思わなかった。

ホント私の人生ついてない。


みてろよ?

次に目を覚ます時は……


絶対にぃいいいいいいッ!!!!!


……全部、ぶっ飛ばしてやる。


魔神族も、この地獄も、私を見くびった世界も、運命も。


私の名前、覚えとけよ?



……怒りで頭がいっぱいだったけど、ふとよぎる、アイツらのこと。


辰夫のバカ、勝手に死んだりしないでよね。

エスト様も辰美も……私がいないからって泣いてちゃダメよ?


私が「ただいま」って言うまで、待ってろよ…?


って、いかんいかん。

まずは回復しないと「ただいま」も「復讐」も出来ないってね。


おやすみ!


そして、私は眠りについた。


(つづく)

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