#014 : 姉の誓い☆失わせないための世界征服
ダンジョンの最下層。
血の匂いが立ち込める中、巨大なクマの肉塊を前に、私は息を整えながら呟いた。
(まだ手が震えてる……でも、やれるじゃないか、私)
◇◇◇
(さてと……エスト様を守るって決めたはいいけど、これからどうしようか?)
(まずはこのダンジョンから脱出して、外の様子を見て……拠点と情報の確保)
(で、このポンコツ魔王を”世界を支配できる器”に育てあげるってとこ?)
松明の明かりに照らされた石段が、遥か上へと続いている。
「……まぁ、いざとなったら私が大魔王やってもいいけどね?」
焚き火の向こうから、エスト様が小さな声で呼びかけてきた。
『ねぇ、お姉ちゃん……わたし、ほんとは……もっと強くて、かっこいい魔王になりたかったんだ』
彼女は俯いて続けた。
『……私に召喚されたの嫌だと思ってたら……やだな……って』
私は肉を一切れ口に放り込みながら答えた。
「……そんなの、最初から分かってましたよ」
『えっ……?』
「エスト様がポンコツで泣き虫なのなんて、見たら分かる。でも──」
私は立ち上がって、焚き火を挟んでエスト様に向き合った。
「勝手に喚んで”お姉ちゃん”なんて言われたら……もう引き受けるしかないでしょ。誰が妹を置いてくもんですか」
『お姉……ちゃ……』
「……あーもう!また涙ぐんで……湿っぽいのは禁止!」
そのとき、エスト様がもっと小さな声で呟いた。
『……もし……お父様が戻ってきたら、わたし……また捨てられるのかな……』
私の中で何かがプツンと切れた。
「……はぁ???小娘!自分が何を言ってるか分かってんの?」
「親に捨てられたとか、そういう話は小娘のせいじゃないから!!ちっちゃくて、バカで、ポンコツで──」
「──笑うとアホみたいに可愛い魔王の、何が悪いっていうんだ!」
「家族を失うのがどんなに辛いかも、残された者がどんな気持ちになるかも、全部知ってる。」
「誰にも『おかえり』って言われない夜が、いちばん冷えるんだよ」
「だからこそ言える。」
「残された家族を放っておく親なんて、魔王だろうが何だろうが、ぶん殴ってやる。」
「それに──忘れられない言葉──ムダ様が言ってた『親は選べないが、殴るかどうかは選べる』ってね。」
「エスト様を泣かせた責任、きっちり取らせてやるから」
私は深く息を吸った。
──守るって決めたんだ。あの日も、今も。
「──それが、私の世界征服。“大切な人を失う世界”なんて、私がぶっ壊してやる」
ドゴォン!
右拳を力強く前に突き出した。空気が震えて重い音を響かせる。
焚き火の炎がその風圧で大きく揺らめいた。
エスト様は驚いたように目を見開き、しばらく私を見つめていた。
やがて、彼女はそっと息を吸い、視線を一度落とすと──小さな手が、私の腕にそっと触れた。
『……それって、すっごく……わがままで、でも、あったかい』
「……っ、な、なにそれ……は?……知らないし……」
『──ありがとう、お姉ちゃん』
私は一拍遅れて、小さな頭をぽんと軽く押さえた。
「……ったく、ほんとチョロいんだから」
(……これが、“家族”ってやつかね?)
(悪くない……いや、悪くないどころじゃない)
(むしろ──少しでも長く、この手を離したくない)
(つづく)
──あれから一晩。
泣き虫な妹は、今日はやけに穏やかな寝顔をしている。
(……守るって言ったからには、強くならなきゃな)
(このままじゃ、私もエスト様も地上に出る前に、モンスターのエサだ)
そうだ。まずは戦って、鍛えて、レベルを上げる。
戦える力は、いくらあっても困らない。
……この世界来る前と来てからの理不尽さに、かなりストレスも溜まってるし──
「よし、ついでに全部まとめて拳で解消だぁあああああッ!!」
◇◇◇
《征服ログ》
【征服度】 :0.2%
【支配地域】:クマ肉と魔王(胃袋と方針の両面制圧)
【主な進捗】:「育てて征服する」計画が始動。
魔王を妹として守ると決意。
【特記事項】:最悪、自分が大魔王やるらしい。(やめろ)
◇◇◇
──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──
『親は選べないが、殴るかどうかは選べる。』
解説:
血は水より濃いが、拳はそれより早い。叩け。