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魔王がポンコツだから私がやる。──Max Beat Edition  作者: さくらんぼん
第11章 : 魔王軍、喪失。そして──再結成へ。
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#135 : 世界に、息を。【後編】

焚き火の炎が、すこし静かになった。


やがて──


ぽつりと、炎を見つめながらカエデが口を開いた。


カエデ「……こういう時、サクラがいてくれたらなって思うんだよね……サクラならこんな状況でもなんとかしてくれそう。ふふ」


同じく炎を見つめながら、ツバキが応じる。


ツバキ「あーそうね。口は悪いけど、頼りになるやつだったわね。バカサクラは」



エスト『……“サクラ”って……! 黒髪で、寝坊助で、プロレス技で人ぶん投げて、文句ばっか言うけど、優しくて、最強で──!』


目を輝かせながらエストが言った。


エスト『……ねぇ。あのとき、お姉ちゃんが言ってたの』


エスト『“お前の事情? 興味ねぇな。私は私の都合でぶん殴る”──って』


エスト『わたし、それ聞いたとき、カッコいいなーって?』


カエデとツバキが同時に立ち上がり、叫ぶ。


カエデ&ツバキ「そのサクラ!!!!!!」


感慨深そうに辰美が深くうなずく。


辰美「間違いありません。我らが魔王軍の”サクラさん”ですね……」



カエデ「……サクラが、この世界に……? 魔王と…?」


ツバキ「魔王軍…?まさか……あいつ、自分で”魔王側が性に合ってた”とか言ったんじゃ……?」


カエデが呆然と手を震わせ、ツバキが震える声で拳を握りしめる。


カエデ「めっちゃ言いそう!?」


手をポンと叩いたカエデ。



エスト『私、ずっとひとりだったの…それで…寂しくて、“家族がほしい”って思って──”召喚”したのがサクラお姉ちゃんなの……』


エスト『でも……』


ローザ「転生魔法……それは魂に大きな負担を……」


苦しそうに静かに目を伏せるローザ。


エストが声を震わせながら続ける。


エスト『お姉ちゃんは私を”妹”って言ってくれて……!』


エスト『一緒に世界征服することになって、“お前は魔王向いてない”って言われたけど……でも、ずっと一緒にいてくれた……嬉しかった…楽しかった…』



カエデ「サクラがこの世界に……?世界征服?そんな……」


驚愕の表情を見せるカエデ。


ツバキ「アイツ……」


複雑な表情で拳を握りしめるツバキ。


カエデ「それでサクラは今どこに!? エストちゃん! 会える? まだ一緒にいるの?」


カエデがエストの肩を掴む。


──わずかな間、沈黙。


火の粉が空へ弾ける。砂漠の風が、彼女たちの髪を揺らした。


エスト『……サクラお姉ちゃん……“奈落”で復活した魔神族から私たちを逃がすために……魔神族と戦って……そのまま……戻って来ないの……』


涙声で答えるエスト。


エスト『もう……一年も……』


カエデ「……一年も……戻ってきてないの……?」


目を見開き呟くカエデ。


ツバキ「……そんな長い間、一体どこで何してんのよ、あのバカ……」


拳を握りしめ、うつむくツバキ。


ローザ「……魔神族……?」


眉をひそめるローザ。


エスト『うん。みんな石になってるのも魔神の瘴気のせい……サクラお姉ちゃんがいなくなってから、世界がどんどん死んでいくの……』


頷くエスト。


カエデ「……大丈夫よ。絶対に生きてる。だって、サクラだし」


カエデ「諦めるなんて言葉、サクラの辞書にないもん」


拳を握りしめ、決意を込めて言うカエデ。


ツバキ「……ひとりで全部背負って、勝手にヒーロー気取りとか。そんなの、サクラらしくない。アイツはどこまでもワガママで…まぁだから背負い込んだのか…サクラっぽいか…それがサクラだな…バカだよ…」


涙を拭って苦笑いを浮かべるツバキ。


エスト『……うんっ! サクラお姉ちゃん、きっと頑張ってる!』


涙目で笑うエスト。希望の光を宿して。


ローザ「その再会を、神も望まれているでしょう」


穏やかに微笑むローザ。


辰美「お二人が無事なのは異世界から使命を持って転移したから……? 私やエストちゃん、ローザさんが無事なのはその異世界の人とずっと居たから……?」


辰美「サクラさんの存在が、この世界を守ってくれていたのかもしれませんね」


しみじみと語る辰美。



焚き火の火が、ぱちりと小さくはぜた。


エストがぐしょぐしょの顔のまま、ふらりと立ち上がる。

マントが絡まって、また転びかけたけど──踏ん張った。


エスト『よし! へっぽこでも! ポンコツでも! 泣き虫でも!』


エスト『それでも私は、魔王なんだもんっ! 新生☆魔王軍、ここにけっせーいっ!!』


カエデ「おー! がんばろー!」(カレー→牛丼→ラーメンのこと考えてて何もわかってない)


ツバキ「いや、勝手に決めんな!?」


辰美「ははは……」


ローザ「ふふふ……」


──サクラがいない世界で、止まっていたものが、少しだけ動いた。


焚き火の上空に、一筋の風が吹く。


風は、誰かの名前を探すように──

まだ咲かない桜を、そっと揺らした。


◇◇◇


──そして、別の場所。


荒れ果てた廃墟。崩れた梁の影に、人影が立つ。


ぼろぼろのマントは砂に擦れて端が裂け、指先はひび割れ、乾いた血で固まっていた。


喉は砂で焼け、息を吸うたび胸が軋む。

それでも──瞳だけは、まだ濁っていない。


???「……また、朝が来るか……まだ、生きるか」


石にならなかった。

死ななかった。

忘れられていなかった。


この世界で──たったひとりでも、生き抜いてきた者がいる。


影は空を見上げる。


その視線の先に、“ほんのわずかに動き始めた世界”があった。


(つづく)


◇◇◇


【征服ログ】


・サクラは召喚によってこの世界に来ていたと判明

・サクラが鬼になった理由、魔王軍にいる理由が明かされる

・エスト×カエデ×ツバキ、“サクラを探す”目的で仮同盟を結ぶ

・世界が、ほんの少しだけ”息をした”

・石化した世界にも、わずかな変化の兆し


◇◇◇


──今週のサクラ語録──

『お前の事情? 興味ねぇな。私は私の都合でぶん殴る』


解説 :

正論をぶつけてくる敵にも、事情を語る味方にも、サクラの基準はいつだってひとつ。


「私がそうしたいかどうか」


それがたとえ自己中でも、無茶でも、彼女の拳にはいつも”本気”がこもっている。

だからこそ仲間は信じられるし、背中を預けたくなる。

そして──その拳に救われた者は、きっと今日も、明日も、彼女を待ち続けている。

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