#129 : 家族と別れ☆オデコとプライド
私は振り返らずに、背後の光だけを見て叫んだ。
サクラ「辰美、作戦変更よ!私たちが時間を稼ぐ間に、あなたはドラゴン化の準備をして。タイミングを見て、小娘と脱出!」
辰美「でも……サクラさんたちが危険すぎる……」
エスト『え!いやだよお姉ちゃん!』
サクラ「大丈夫。なんとかする」
──嘘だった。でも、他に方法がない。
エスト様の頬を撫でる。
サクラ「エスト様…顔を見せて?…ふふ。あなたはそのままで良いんだからね?そのまま…生きて行けば…きっと大丈夫。」
頬の手を髪に滑らせる。
サクラ「あんたと過ごした日々……意外と、悪くなかったわよ?ありがとね」
私は精一杯の作り笑いをした。
エスト『お姉ちゃん…?』
震えながらエスト様が言った。
── そして、私はゆっくりと魔神の方を向き、大きく息を吸い叫ぶ。
すぅ……
サクラ「辰美ぃッ!今すぐに小娘を連れて逃げろッ!」
声がダンジョンに響く。
辰美「!?……でも、でも!サクラさんは──!」
動揺した辰美が振り返る。
──私は振り向かず、背中で叫んだ。
サクラ「いけぇ!!今しかない!!……命令よ!!!……お前が……私の……代わり……代わりに!!……その子を……」
……
辰美「……ぅ…ッ……は!はいっ!!任せて!!」
歯を食いしばった辰美の目から涙が溢れた。
辰美「絶対、絶対に!生きて帰ってきて!! サクラさんっ!!」
そして一歩踏み出しながら、背中越しに叫んだ。
エスト『お姉ちゃん……お姉ちゃんっ!!……嫌だよ!私も……家族!お姉ちゃん!?家族なんだよ!!!』
辰美の腕でエスト様が泣き叫ぶ。
サクラ「うるさい!家族なんだから!あんたは私の大事な…妹……なんだから!……だから!黙って姉の言うことを聞けぇッ!」
エスト『……ッ!!』
── 辰美はエスト様を抱えて走り去った。
……辰美の音が遠ざかっていった。
サクラ「よし…行ったか……でもさ?……あの子への最後の言葉くらい……優しく……さ……はぁ……ふふっ……まぁ……しゃーないか……」
かすかに肩が震えている。息を整える。
私は辰夫の肩に縋り付き、俯いたまま声を絞った。
サクラ「ねぇ……?……辰夫 ──……ごめん……私と一緒に……死んで……」
声が掠れていた。
辰夫は微笑んでからそっと私の手の甲に手を重ねる。
辰夫「ははっ……今までで一番最悪の命令ですが………なぜか悪い気はしませんなぁーーーッ!!!」
辰夫が叫びながらドラゴンの姿に戻る。
サクラ「あと……辰夫……今まで……ごめん…ホントにありがとう。感謝してる。」
私は辰夫を見上げて微笑んだ。
辰夫「ふはは……サクラ殿。いや、“我が主”よ。らしくないですが──これもまたよし!……さて。ヤツらをぶっ飛ばしてエスト殿と辰美に合流しませんとな。」
サクラ「うん……うん……あの2人だけだと心配だしね!」
私と辰夫の目線が合った。
どちらからともなく、ニッと微笑んだ。
サクラ「……ふぅ、切り替えるわよ。辰夫ぉ──私より先に死ぬなよ?」
私は手足をプラプラ揺らして、軽く体をほぐした。
辰夫「ははは。ですが──配下とは、主より先に死ぬものですぞ?」
口を大きく開けて辰夫が笑う。同時にコキンと首を鳴らす。
── そして、同時に魔神に向かい構えた。
── 静寂 ──
── 天井の石が剥げて落ちた。
コツン……
サクラ「よし!行くわよぉおおおおおお!!辰夫ぉぉぉぉぉッらぁああああああああああああ!!!」
辰夫「応ッ!雄雄雄雄雄ーーーーーッ!!!」
タ……タ……タタタタタッ!
ズ……ズ……ドドドドドッ!
私たちは魔神に向かって駆け出した──。
魔神たちは、一歩も動かない。
トップスピードに乗った私は大きく地面を蹴る!
そして──
ズザザザザザァッ!!!!!
スライディング土下座ぁッ!!!
サクラ「これが私の最終奥義──スライディング土下座じゃあああ!!すんませんしたあーッ!申し訳ありません!申し訳ありませんでしたぁああああああーッ!ほら!辰夫も早く土下座ぁッぉッ!?」(超早口)
(……ムダ様はこう仰っていた……『全力で謝れ。滑れ。叫べ。叩きつけろ。オデコとプライドを。』……!)
\\ ガンガンガン! //(オデコとプライドを地面に打ち付ける音)
……空気が、止まった。
魔神族(人型)「……何をしている?」
\\ ガンガンガン! //
サクラ「あやまっております!!」
辰夫はそのままダッシュして魔神に突撃する!
辰夫「ん……サクラ殿ッ!?」(振り返って私を見ながらダッシュ継続)
タタタ……ぺん☆\\我が竜王拳──ぎゃふん!//
辰夫は魔神のワンパンで吹っ飛ばされた。
ガン! \\ ぎゃふん! // (壁にぶつかった)
……ドン! \\ ぎゃふん! // (床に落ちた)
………
辰夫「……。」(放心)
ゆっくりと立ち上がった辰夫は泣いてなどいないと後に言った。
\\ サーセンシター!!!ガンガンガン! //
──天の声──
《この一戦は、“世界初・全力スライディング撤退作戦”として後の世の教科書に載る。》
辰夫は竜王だ。確かに強い。
だが──力の格が違いすぎた。
“強者ですらワンパンされる”という現実が、逆に魔神族の異常さを証明していた。
(つづく)
──今週のムダ様語録──
『全力で謝れ。滑れ。叫べ。叩きつけろ。オデコとプライドを。』
解説 :
命大事。
サクラ「笑われたか?結構。生きてるからだ。死んだらもう、笑われることすらできん。」
スライディング土下座、それは”戦略”であり、“哲学”であり、
そして、生き残るための最終奥義である。
──
【あとがき】*本編とは関係ありません。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
この話、書きながら何度も笑った。
でも、書き終わった時は、笑えなかった。
ギャグって、本当は強さじゃなくて、弱さの裏返しなのかな?
だから「最終奥義」として“笑い”を投げつけたサクラたちは、
笑わせるためじゃなくて、生き延びるためにふざけてた。
サクラも、エストも、辰夫も、辰美も、みんな笑いながら泣いてるような状態で、
最後には誰も笑ってなかった。
この回で、物語はもう戻れなくなりました。
だからこそ、読者として“最後まで見届けてやる”って思ってくれたなら、
それが彼らにとっての“救い”になります。
本当に、読んでくれてありがとうございます。
ここから先は、もっと静かで、もっと優しい物語になるのかな?
だけど、それでも“笑い”は、最後まで連れていきます。
──さくらんぼん




