#127 : 閉ざされた出口☆アフロは潤いを求める
私たちは、元の第二層に戻っていた。
エスト『お姉ちゃん……パパ……』
涙をぽろぽろと流しながらエスト様はつぶやく。
エスト『パパは、わたしを心配してくれてた……』
サクラ「……そうね。あの人は、あなたのことを大切に思ってる」
私は無意識に、エスト様の頭を撫でていた。
サクラ「だから、解決策を探しに行ったのよ。きっと今も、どこかで──」
辰夫「ま……魔神族……!?魔神族と言ったか……!?まさか……」
真っ青な顔で辰夫が言った。その声は震えていた。
辰美「うん…そうみたいだね…」
目を伏せながら辰美が言った。
辰美「1000年前、我はユズリハ様という主に仕えておりました……。あのお方は──魔神族との戦いの最中、その命を落とされたのです。」
辰夫「それが……ここに……?」
サクラ「あなた達、知っているのか?」
辰夫「……魔神族……あれは……勝てる相手ではない……」
その瞳が大きく見開かれた。
辰美「……そんなの……どうやっても……」
── その時だった。
ゴゴゴゴゴ……。
神殿全体が震え始めた。
サクラ「……え?」
私たちは慌てて辺りを見回す。
水晶球も振動に合わせて揺れ、天井から細かい石の欠片がパラパラと落ちてくる。
辰夫「魔力の乱れです!大きい!」
── 辰夫が叫んだその瞬間。
バキバキバキ……ッ!!
天井の一部が崩れ始めた。
ドンッ!!
巨大な岩の塊が、入り口を完全に塞いでしまった。
辰美「うわっ!入り口が…塞がれた!?」
…
コンコン…
私は岩の塊を叩く。びくともしない。
サクラ「はぁ……これって封印?…がヤバいから建物も崩れてるってこと?」
辰夫「……記録魔法の時よりも、状況が悪化してる」
辰美「えっ、これ閉じ込められたってことっ!?!?」
胸の奥がじわりと冷たくなる。
(このまま崩れたら──誰も助けに来ない)
だからこそ、強がってでも笑わなきゃ。
サクラ「落ち着きなさい」
私は深呼吸をして、奥への通路を見つめた。
サクラ「……出口は塞がれた。でも、奥への道はまだ開いてる」
エスト『お姉ちゃん……』
サクラ「つまり、進むしかないってことよ」
私はアフロをかき上げて、ため息をついた。
サクラ「最悪ね……エストパパは『無理するな』って言ったのに、無理するしかない状況になってるじゃない」
辰夫「サクラ殿……」
サクラ「でも、やるしかないでしょ?『俺も知らんが相手も俺を知らん、だから五分!』って、ムダ様も言ってたしね。」
私は振り返って、みんなを見つめた。
エスト『あはは!さすがムダ様☆』
辰夫「気持ち悪い納得感が…」
辰美「なるほど!って一瞬思ったよw」
みんなに笑顔が戻った。
サクラ「ここで立ち止まっていても、何も解決しない。奥に進んで、出口を探すか──あるいは、この建物の崩壊を止める方法を見つけるか」
辰夫が頷く。
辰夫「承知いたしました。我々も、サクラ殿についていきます」
辰美「わたしもっ、行くっ!」
エスト『わたしも、お姉ちゃんと一緒!』
サクラ「……ありがと」
辰夫&辰美&エスト『「「…!?…あの人が 《ありがと》 って言った…?ヤバいのでは…?」」』
(……うん、全員、心の声が漏れてるわね。「帰りたい」って。)
…
私は奥への階段を見上げた。
サクラ「……さあ、行きましょう。この先へ」
── 閉ざされた道の先に、新たな試練が待っている。
その時──ふと、私は思った。
このままじゃヤバい。ヤバさより、もっとヤバいのは──
── アフロ。
アフロのまま死んだら死にきれない。
サクラ「……くっ、こうなったら……っ」
走りながら、私はスキル欄を叩き込む。
《ミズミズしさアップ》 発動!!
にゅるん♪ぷるるん♪
アフロが、しっとり。
ボリュームダウン。つやっとまとまった。
(──ヨシ!!帰ったら美容院行くわ!!)
エスト『お姉ちゃん!?髪がなんかつやつやしてる!!』
サクラ「女ってね?どんな時も美は大事よ?覚えときなさい。」
── 一息。
(……って、やば。これ使うと喉が……カラッカラ……)
サクラ「……ふぅ……辰夫!水ちょうだい!!今すぐ!!」
辰夫「……は、はい。」
── 空気は戻らぬまま、私たちは更なる深部へと向かった──。
(つづく)
◇◇◇
── 今週のムダ様語録 ──
『俺も知らんが相手も俺を知らん、だから五分!』
解説
相手がどんなにヤバかろうと、こちらが知らんフリを決め込めば心理的優位はこっちのもの。
ムダ様は知っている──知ってるフリより知らんフリの方が強い時もあるのだ。




