#126 : 記録結界☆パパ、魔神族ってマジ?
── 第二層・中央神殿。
サクラ「……近づくだけで、魔力で頭がクラクラするわ」
巨大な水晶球の前に立った私は、思わず額を押さえた。
球体の表面では、青白い光がゆらゆらと波打っている。
まるで水面のような動きだが、触れられない透明な壁に覆われている。
エスト『お姉ちゃん、この中に何かいる……』
水晶球を見上げて、エスト様は小さく震えている。
確かに、球体の奥で何かが蠢いているような気がする。
辰夫「これは……記録魔法の痕跡ですね」
そう言うと辰夫は真面目に分析をしはじめた。
サクラ「……辰夫」
辰夫「はい?」
サクラ「今回は黙らなくていいわ。解説して」
辰夫「……え、本当ですか?」
サクラ「この状況、あなたの知識が必要そうだから」
辰夫の顔がぱぁっと明るくなった。
辰夫「はい!これは《記録結界》と呼ばれる古代魔法です!強力な魔力を持つ者が、意図的に記録を残すことができます!」
サクラ「つまり?」
辰夫「過去にここで起きた出来事を、見ることができます。ただし、記録者が意図的に残したもののみです!」
その時だった。
水晶球が突然、激しく光り始めた。
ビカッ!!!!!
サクラ「うわっ!?」
私たちは反射的に目を閉じる。
強烈な光が辺り一面を包み込み──
── 次の瞬間。
景色が、変わっていた。
サクラ「……え?」
同じ第二層の神殿の同じ場所。
でも、雰囲気が違う。
空気がもっと澄んでいて、魔法陣の光ももっと安定している。
そして──
エストの父「記録魔法……発動」
声と同時に、水晶球の前に一人の男性が立っていた。
長い黒髪、エスト様によく似た顔立ち。
深い紫色のローブを纏い、手には複雑な魔法陣が刻まれた杖を持っている。
エスト『パパ……!』
サクラ「待って。これは過去の出来事よ。触れることはできない」
男性に向かって駆け出そうとしたエスト様の腕を掴んだ。
男性──エストパパは私たちをまったく見ていない。
まるで私たちが透明人間になったかのようだ。
青白い光が杖から放たれ、水晶球の表面に複雑な魔法陣を描いていく。
そして、深いため息をついた。
エストの父「……各地で魔力の異常が報告されていた。発生源を辿ると、この奈落の縫い目に行き着いた」
彼の声が、神殿に響く。
重々しく、疲れ切った声だった。
エストの父「古い封印施設だとは知っていたが、まさかこれほどの規模とは……」
エストの父「封印の補強を試みたが、予想外の事態に直面した」
エストの父「この封印は……まさか、魔神族のものだったとは」
辰夫&辰美「なッ!?」「えッ!?」
辰夫と辰美が声を上げた。
エストの父「魔王の血では、魔神族の封印には対処できない。術式が根本的に違う」
彼は一度振り返り、こちらを見つめた。
いや──正確には、水晶球を見つめている。
エストの父「もし、将来エストがここまで来ることがあったら……」
エストパパの表情が少し優しくなった。
エストの父「この記録魔法は血縁にしか反応しないようにしている。」
エストの父「エスト、この記録を見ているということは、お前が成長したということだな…野菜食べてるか…いや。今はそれどころでは無いな。」
エストの父「すまない。お前に寂しい想いをさせてしまったのだろうな…」
エストの父「父は、この場所を離れる。魔神族を封印する別の方法を探すために」
彼の表情が厳しくなる。
エストの父「古代の文献を調べ直し、失われた封印術を探す。時間はかかるだろうが……」
エストの父「だから、エスト。もしここに来てしまったら、無理をしてはいけない」
エストの父「魔神族は、我々の想像を超えた存在だ。お前一人で立ち向かえる相手ではない」
エストの父「必ず、解決策を見つけて戻る。それまで……どうか無事でいてくれ」
── そして、彼の姿が消えた。
(……“戻る”──それ、聞き覚えがある。帰ると言って、帰らなかった人たち。その痛みが、また胸を抉る)
(つづく)




