#123 : 作戦?知らん☆投げろ
ズガァァァァァァ!!!
ヴァエルの影から、無数の拘束糸が一斉に放たれる。
辰美「ッ、こんなのッ──よ!避けて避けてッ!!」
辰美が叫ぶと、身を翻し、最前線へ躍り出る。
ヴァエルの影が襲いかかる!
ズバババババッ!!
無数の黒い糸が空間を裂いて降り注ぐ。
サクラ「ッ、来る!! エスト様!下がっ──」
パァン!!
糸が触れる寸前、エスト様の足元に漆黒の魔法陣が咲いた。
そして──
エスト『闇結界!』
バシュッ!
漆黒の半球が瞬時に展開され、迫る糸の群れをすべて弾き返す。
サクラ「な……!」
私も思わず目を見開いた。
エスト『……ッ!……びっくりした……勝手に出た……けど、ちょっとカッコよかったかも?』
サクラ「勝手に?……あの子……天才かよ?」
辰夫「はは!頼もしいですな!」
辰美「エストちゃんすごいすごい!」
サクラ「小娘は大丈夫そうね!じゃあ気を取り直して……辰美!まずは牽制!」
辰美「了解っ!爆炎──」
辰美が技名を言いかけて止まる。
前回の件を思い出したらしい。
辰美「……辰美ふぁいやーぼーん!」
サクラ「素晴らしい!」(拍手)
素晴らしい技名ね!即座に賞賛!!
辰美の炎がヴァエルの右腕に直撃する。
しかし、皮膚を少し焦がしただけで大きなダメージは与えられない。
辰夫「硬いですね。魔力による攻撃が有効でしょう」
辰夫が前に出て、爪に竜の魔力を纏わせる。
辰夫「穿つ爪……じゃなくて辰夫ぱーんち!ぼこーん!」
今度は短めの技名だった。
辰夫の攻撃はヴァエルの胸部を貫いた。
サクラ「そうそうそれよ!」(拍手)
辰夫の背中をバンバン叩いて喜ぶ。気持ちいい。
ヴァエル「ぐ……ぐぐ……」
ヴァエルの青白い血管から魔力?血液?が漏れている。
そして──。
エスト『私の番だよ☆……闇の矢、いっけぇ……っ!』
エスト様が右手を高く掲げ──
足元に闇の魔法陣がキィィンと広がる。
エスト『ダークアロー・トリプルショット!!』
きゅいんきゅいん!って音とともに矢が三本、鋭く放たれる。
一直線にヴァエルを貫き──
──がちいいいん!って金属音──
そのままヴァエルを壁に串刺しにした。
黒き影がバチバチと痙攣し、瘴気が散る。
エスト『えへっ……当たったっ☆』
── その瞬間、頭にムダ様の言葉がよぎった。
『作戦は大事。だが投げる方が速い』
……あら?そういえば、ここに投げるのにちょうどいい辰夫が。
辰夫「投げる……?……ちょっ、待たれよ!?」
サクラ「決めた!辰夫ロケット作戦よ!……いっとけぇーッ!!!」
ビュン!!
辰夫ロケット発射!
辰夫「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」
私はダッシュ。
サクラ「乗るッ!!」
助走 → 跳躍 → 空中の辰夫に飛び乗る!
ストッ…。
辰夫「ぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!??」
私は辰夫の背中でドヤ顔で腕を組む。
サクラ「これが魔王軍式・桃白白ロケットよッ!!」
辰夫「どどんぱぁああああああああああああ!!」
サクラ「辰美、炎っ!!」
辰美「炎?いやだよー!ブレス行っちゃうよー!!見てろ見てろー!!うおーっ!!」
辰美は一瞬ドラゴンの姿に戻った。
その場でくるんっと一回転して翼を広げ──大きく息を吸い込む。
辰美「全開モード、いっくよーっ!!」
次の瞬間──
ゴォォォォォォォッ!!!
轟音とともに、灼熱のブレスが一直線にヴァエルを薙ぎ払った。
黒き影を包み込むように炎が巻き上がる。
ヴァエル「ぐ……ぐぅ……っ!!」
ヴァエルの影がのたうつ。
黒い瘴気が逃げ場を求めるように四散する。
サクラ「ナイス、辰美!!」
──その隙、辰夫ロケット+私が騎乗のまま、一直線にヴァエルの核心へ。
サクラ「辰夫、パンチの構え!」
辰夫「は!はいっ!!」
サクラ「タイミング合わせるわよ──いっせーのっ!!」
私は辰夫の背中でドヤ顔のままカウントを取った。
辰夫「……辰夫ぱーんち!」 サクラ「ドロップキィィィックッ!!」
どっがああああん!
辰夫の拳と、私の踵が──同時にヴァエルの核心へ叩き込まれた。
ヴァエル「ッが……が……が……!!」
ヴァエルの影がぐしゃりと歪み、黒き瘴気が一気に噴き上がる。
衝撃でヴァエルの身体は壁へ吹き飛び──バキィィンッ!!
壁に深々とめり込み、激しく痙攣をはじめた。
崩れゆくヴァエルの中から、影の気配が一瞬漏れ出す。
ヴァエル(瀕死)『“封印”は──まだ、保たれている。だが、次は──』
── その声は、かすれた呻きに変わる。
ヴァエル(瀕死)『……わたしは……本来は……守る……ための、存在……だったのに……』
影の声が途切れ、悪魔は完全に崩壊した。
── 戦闘終了。
すっきりした顔で着地。
振り返ると、ボロボロの辰夫がプルプル震えていた。
辰夫「……サクラ殿……突然掴んで投げるのは……やめてください……」
サクラ「いやよ。便利なんだもの。」
辰夫「……私は……ロケットでは……ないのですが……」
辰夫の呟きを背に立ち上がる。よっこらしょ。
◇◇◇
辰夫が静かに言った。
辰夫「……層の異常は収まっていません。悪魔が倒れたことで、むしろ”奥”への道が開きつつあります」
辰美が呟いた。
辰美「……なんか、奥が……変な音してる……」
歯を食いしばった。くそ、まだ終わりじゃない。
── まだ、これは序の口。
── この層の”核心”は、もっと先にある。
サクラ「……行くわよ。奥に──二層へ。」
── 奈落の縫い目、第一層。
歪みは、止まらない。
奈落の奥で、見えない何かが軋む音がする。
……アフロが、静かに逆立った。
(つづく)
──今週のムダ様語録──
『作戦は大事。だが投げる方が速い。』
解説
結果が出れば正義は後からついてくる──ムダ様、力技文化論より。




