#012: 死闘☆令和のOL vs. クマ
前回までのあらすじ
→ 何言ってるか分からんかった。文系だし。
◇◇◇
サクラ「食料も尽きそうだし?そろそろ本格的に “魔王軍っぽい” アクションを起こさないとですね…」
エスト『うんっ☆じゃあ今日から “世界征服” 開始っ☆』
というわけで、世界征服 ≒ 食糧調達のため、私たちはダンジョン最深部の探索に乗り出した。
今いるのは、仮に名付けるなら【魔王の間】──そんな雰囲気の場所だ。
この魔王の間の「ものものしい扉」を押し開け、外に出てみた。
ギギギギギ……
──扉の外は延々と通路が広がっていた。
壁から生えている石の結晶が照明の役割をしており、とても壮大な雰囲気である。
まるで地下宮殿のようだ。
青白い光が暗がりを照らし、幻想的な雰囲気が漂う。
◇◇◇
ダンジョンを進んでいるとエスト様が声をかけてきた。
エスト『……ねえ、お姉ちゃん?』
サクラ「はい?」
エスト『……なんで私が前で、お姉ちゃんが後ろなの?』
(コウモリが飛ぶ音)
サクラ「え?こないだまで令和のOLですよ?舗装されてない道なんて歩けるわけないでしょ?」
魔王の背中に隠れながら歩く私。
だって主従関係を考えると、エスト様がモンスターの前に立つべきじゃん?
そう思いませんか?ねぇ?
エスト『いや……私を守る……感じで……この異世界に喚んだんだけど……』
サクラ「……はぁ……仕方ないですね。」
私は笑顔のまま目が死んだ顔をしたが、暗いし見えていなかったはずだ。
さらにダンジョンを進んでいくと、クマ型のモンスターがウロウロしているのが目に入った。
足音を殺しながら観察すると、腕が4本はある大型のクマ。
その毛並みは黒く、赤い目が暗闇で光っている。
(……いやベヒーモス → クマって、敵のチョイスどうなってんのこの世界……?)
…
サクラ「エスト様、クマ型のモンスターが居ます!モンスターはまだこちらには気付いていないようです!これはチャンスです!奇襲を仕掛けましょう!!」
私は最高の笑顔でグッと親指を立てた。
エスト『奇襲好きだね☆』
サクラ「エスト様は飛び道具的な魔法は撃てますか?」
エスト『撃てるよ?』
サクラ「では、お願いします!撃っていただいた後に、私は死んだフリをしますね!」(キリッ)
私は無茶しやがって敬礼をエスト様に送った。
ビシッ☆(良い敬礼の音)
エスト『それ一撃で仕留めないと私に襲いかかってくるよね?』
サクラ「私のいた世界ではクマを見たら死んだフリなのです。子供でも知ってる常識です。」
エスト『レベル上げしに来てるんでしょ!?』
エスト様の表情からイラッとした感が読み取れた。
サクラ「……ちっ」
…
エスト『じゃあ気を取り直して!……行くよ☆ ダークアロー!』
サクラ「了解!」
エスト様の掌から放たれた黒い矢が、闇の中を一直線に走った。
ギィン!と空気が裂ける音。
矢はクマ型モンスターの肩で爆発した。
ボボボボボンッ!!!!!
クマ「ガウウウウウウウーッ!!」
クマモンスターは叫ぶと同時に消えていた。
床に魔方陣が焼き付き、亀裂が走っている。
サクラ「は?え?」
エスト『あ、あれ?あれぇ?また……爆発しちゃった……爆発する魔法じゃないのに…教科書の通りに魔法撃ったのに、失敗かぁ…』
サクラ「ん……ん?……また?」
もしかして、エスト様 ── 天才肌なのか……!?
いつもアホの子だと思ってた。
サクラ「こ、これは……ちょっと優しくしとくか……」
エスト『ん?お姉ちゃんなぁに?☆』
サクラ「い、いえ。ナイス魔法でした!」
──
そうこうしてると今の爆音でクマ型モンスターが更に一頭顔を出した。
ウロウロしている。こちらに気付いていないようだ。
サクラ「チャンス!」
【スキル:《怪力》発動】
私は地面を蹴った。自分でも驚くほどの速さだ。
地面を蹴る感触が心地よい。
空気を置き去りにしていく。
これが鬼の身体か……。
クマは悲鳴を上げて振り向いた。だが、遅い。
サクラ「まずは──挨拶代わりに!」
私は全体重を乗せて、クマの胸元に跳びかかった。
サクラ「ドロップキィィィィック!!」
[タグ]#ヒロインです #筋肉は裏切らない
ズドォォン!!
クマ「ガウウー!?」
クマの身体が後方に吹き飛ぶ。
地響きを立てながら転がった。
サクラ「すまん!クマ!こっちは食糧事情がかかってんだ……!」
私はすかさずダッシュで間合いを詰める!
逃げようとしたクマの足をガシィと掴む。
サクラ「筋肉の栄養は筋肉で取る。それが食物連鎖ってやつだ……!」
【スキル:《怪力》── テンション最大モード】
サクラ「さあ次は!必殺・関節破壊コース!」
サクラ「喰らいなさい!私が最も尊敬するプロレスラー!
ザ・グレート・ムダ様の──魂を込めた見よう見真似の──!」
叫びとともに、私は身体ごとクマの足を捻りあげる!
サクラ「──ドラゴン・スクリュー!!」
私はクマの右足を掴んで一気に身体ごと捻った。
グルンッ!!ガギィッ!!
(……手応えあり)
そのままモンスターの勢いを利用して──
サクラ「地獄へ、ダイブ!」
ドグシャッ!!
クマ「ガウ……ッ!」
地鳴りのような衝撃。
土煙があたりに舞う。
エスト『お!おぉぉぉぉーかっこいいッ⭐︎』
サクラ「まだ終わらない!」
私は倒れたクマの上に馬乗りになり、拳を振り上げた。
サクラ「君がッ!泣くまでッ!殴るのをッ!やめないッ!」
ガッ!ガッ!ガッ!
右の拳、左の拳と貴族のパンチ(勇気のパンチ)を繰り返す!
エスト『か!かっこわるッ…』(ドン引きエスト)
拳を止めたとき、モンスターはピクリとも動かなかった。
── 静寂。……オオオォォ…(効果音)
土煙だけが、ゆっくりと立ち上っていた。
……深呼吸。
鼓動が少しずつ落ち着いていく。
拳に残る熱が、まだ冷めない。
私は優雅に立ち上がると、倒れているモンスターを見下ろしながら呟く。
髪を後ろに流し、埃を払う。
サクラ「ふふ……戦う私は美しい……」
エスト『ううん!最高にかっこわるかった☆』
サクラ「……。」(イラッ)
──
さらにダンジョンを進んでいくと、またクマ型のモンスターがウロウロしているのが目に入った。
(……あれ?ついこないだまでファミレスでドリア食べてたのに……なんで、こんな暗いダンジョンで食料調達してんの!?)
(ファミレスと言えばメニュー裏の間違い探し……)
(あれ、毎回最後の1個がどうしても見つからないんだよッ)
ドグシャッ!!
クマ「クマッ!?」(何!?)
気付いたらいきなりクマをぶん殴ってた。
サクラ「……時間返せよッ!!間違い探しの難易度高すぎんだよッ!!」
クマ「ガウッ!?ガウウッ!?」(通り魔!?間違い探しッ!?)
叫ぶと同時にクマは地面にめり込んだ。
……ガ……ガウッ……(*クマさん納得いかないまま撃沈)
(沈黙)
サクラ「でもドリアとサラダは美味しくて好き!!」
エスト『お姉ちゃん!クマさん絶対に納得いってないよ!?』
サクラ「知らん!理不尽を食らうのがダンジョンの定めだッ!」
……深呼吸。
(……うん?今のパンチ、なんかやけに重かった気が……)
(イライラしてた時のほうが威力出てる?)
って、当たり前か。人間、怒ってりゃ力も出るし。
(でも……さっきのは不自然なほど力が出た!!)
普通のサクラ「怒りパワー」のレベルじゃない。
明らかに異常だった。
(怒りが……力に変わる……?いや、違う。鬼の血が私の感情に反応してる……!)
(もしかして……この《怪力》ってスキル……感情でブーストする!?)
サクラ「怒りは毒だ。でも私には、それが燃料になる。」
…
エスト『おっおっおーッ!?お姉ちゃん!レベルが10も上がったよ~☆』
エスト様は嬉しそうにピョンピョン跳ねている。
赤い瞳が星のように輝き、小さな手足を無邪気に動かす姿。
ふふふ……可愛い。
こうして見ると、とても魔王には見えない。
経験値の美味しい小さな女の子だ。
私のレベルは上がらなかった。
このクラスの相手では経験値にならないか。
妹のアゴなら上がるのに…世界って不条理ね…
が、適当に話を合わせておいた。
サクラ「やりましたね!私も似たような感じでした。」
効率的にはエスト様のアゴを狙うのが良いと分かった。
そうだ!エスト様の運命のアゴを狙おう。
その小さな顎には、無限の可能性が詰まっている。
エスト『どしたのお姉ちゃん?私のアゴになにかついてる?』
サクラ「いえいえ。」
(あのアゴ……世界のレベルアップ装置……)
(つづく)
*作者は魔王のアゴの弱点と勇者バレのリスクのバランスめちゃくちゃ良いと、本気で気に入っています。
\\次回予告!//
戦いの後に待つのは、想像を超えた新たな力。
その力は希望か?それとも笑いか?
次回──
#013 : チートスキルDE☆ネタスキル
世界征服は、まだ序章にすぎない──!
\\お楽しみに!//