#011 : 靴紐を結べ 文明人は待つ
前回までのあらすじ
→ 魔王の弱点はアゴ
◇◇◇
【現在地】パンジャ大陸南東部・常闇のダンジョン最深部(魔王の間)
【視点】サクラ
【状況】異世界生活4日目。レベル上げ、まだ始まらん。
◇◇◇
勇者になった私はドキドキしながらエスト様に質問してみた。
サクラ「ちなみにエスト様? 勇者が現れたら、どうします?」
エスト『ちょっと待ってね……アゴの調子が……』(ポキポキ、開閉運動)
(なにこの面白可愛い生き物……)
エスト『お待たせ☆ 勇者だよね!? 勇者には全魔力を使うけどアルティメットスキルで地獄にバカンス送り☆』
──にぱっ。
アゴ、外れる。
エスト『あごごごごご……』
(なにこの面白可愛い生き物……)
(沈黙)
サクラ「なるほど。大変参考になりました」(ヒィィ……)
(アルティメットスキル?……そんなのあるの?)
サクラ「エスト様のステータスを見せてもらってもいい?」
エスト『いいよ!ステータスオープン☆』
\\ ぴろぴろぴろ〜ん☆ ポンコッツ♪ //(*ステータス画面展開音)
(静寂)
エスト『変だよね?私、ポンコツじゃないし』(確信)
サクラ「うん、ポンコツって知ってた。」(確信)
エスト『……え、今“確信”って言った?』(動揺)
サクラ「……」
エスト『……』
(遠くからモンスターの笑い声)
==========
【エスト・ラピス・ネフィル】
魔王/レベル2
HP:68
*怒られると3減る
MP:∞(制御不能)
*空間が勝手にねじれる。本人は気づいてない
筋力:5
*ペットボトル開けられない
知力:8(バカ)
*会話のテンポはいいが、話の内容は全部まちがってる
精神:1(豆腐)
*お姉ちゃんに怒られると泣く。でも反省・学習しない
スキル:
・天与の魔力(持ってるだけで迷惑)
*魔力だけ最強
・奈落穿つ咎の瞳(勇者にだけ超特攻)
*全魔力を消費し、勇者を魔界に封じ込める事が出来る
*正式名はダサくないもん!と言い張っている
・その他、性格:純真・単純・バカ
*本人は「天才」だと思ってる
==========
エスト『ふふん☆ すごいでしょ!』
私はマジマジと画面を見た。
サクラ(……ポンコツじゃん……でも、勇者バレ即死トリガー付き……)
── その時だった!
エスト様の足元に、するりと蛇が現れた。
サクラ「危な ── ライトアローッ!!」
シャパッ!!!
光の矢で蛇を一刀両断。
《天の声:レアモンスター《殺意のコブラたん》を討伐》
《ぺったん ぺったん ずんどこどーん♪》
【サクラのレベル130に上がりました】
サクラ「はああ!?今の蛇、レアだったの!?」
《殺意のコブラたん:眠くなるという猛毒持ち。10年に一度しか出ない。》
サクラ「レアなのに毒の効果弱ッッ!!!」
エスト『……?』
(沈黙)
──その瞬間、エスト様の顔色が変わった。
エスト『あれ……お姉ちゃん!?今の、ライトアロー!?』
サクラ「えっ?うん。……え?」
エスト『えええっ!?それって勇者しか使えない魔法じゃなかったっけ!?』
(沈黙)
サクラ「……は???」
エスト『光魔法って、勇者専用だよ!?だから私びっくりしちゃって!』
(沈黙)
(キュルルルル!!!!! *胃の音)
サクラ「えっ……マジで……?」
キィィィィィン……!(金属音+思考停止エフェクト)
──そして頭が真っ白になる音がした。
あ、これ詰んだやつだわ。胃だけは正直。
光魔法=勇者専用……?
知らんかったわーーーーーーッ!?
落ち着け!今知ったならセーフ!
知らんからセーフ!はい無罪ィィッ!!
──そのとき。
ズギィィィィィィィン!!!!!
《♪BGM:深淵の序曲(咎の瞳・起動テーマ)》
(重厚なオーケストラ×パイプオルガン×滅亡系コーラス)
突然!宙にふわりと浮かぶエスト様。
地面に魔紋が浮かび、空気がバキバキに歪む。
ズゴゴゴゴゴ……!!!
《【奈落穿つ咎の瞳】 ── 起動》
サクラ「エスト様の声じゃない?別人格!?なんだこれ!?」
(間)
《いえ。やっぱり 【プリティー☆エリミネーション】 ── 起動》
[タグ]#空飛ぶ妹は大体ヤバい #妹が飛んでるだけで事件
サクラ「名前かわいくした!?コンプレックスなの!?」
《……………。》
(あ…図星だったんだ…ごめん…)
シュイン!シュイン!シュイィィィィン!!
《対象:勇者反応。敵意評価──開始》
サクラ「ちょっ、待て、待て待て待て!?初耳なんだけど!?光魔法って勇者専用なの!?!?」
《対象:勇者反応、確認完了》
(いや、知らなかったし!?
誰も教えてくんなかったし!?!?)
《撃滅プロトコル──最終段階へ移行》
サクラ「ていうか私、勇者なの!?違うよね!?鬼だし!!!違うと思うよ!?!?!??」
《──ビーム、チャージ完了。》
地割れが走り、空間が軋む。
(だめだ、マジで撃たれる……!)
……一瞬、時が止まった気がした。
心臓が嫌なほど早く打っている。
(……これ、本当に殺されるやつじゃない?)
目の前のエストがいつものエストじゃなく、
何かとんでもないものに見えた。
"今、死ぬかも"というリアルな予感が脳裏をかすめる。
(落ち着け……落ち着け……!)
(今言えることを、全部ぅー!!!)
── その時、ムダ様の言葉が頭をよぎった。
『ピンチ?しゃがめ。靴紐を結べ。待つのが礼儀だ。だから時間が稼げる。』
(……靴紐!?)
(……いや待って、今靴履いてないけど!?)
(……でも、やるしかない!!)
私はしゃがみ込んだ。
サクラ「あ、ちょっと待って!靴紐ほどけてる!」(靴履いてないけど)
《撃滅プロトコル──一時停止》
(え!?)
エスト(別人格)は空中で静止した。
律儀に待っている。
《……靴紐結び直すのは礼儀。待機する》
サクラ「マジで待つの!?ムダ様、神かよ!?」
私は存在しない靴紐を結ぶフリを始めた。
サクラ「あー、固く結びすぎちゃったなぁ……ほどくの時間かかるなぁ……」(棒読み)
《……………》
エスト(別人格)は無言で浮遊している。
サクラ「あ、こっちもほどけてる!両方結ばないと!」
《……………》
サクラ「うーん、難しいなぁ、蝶々結びって……」
(沈黙)
《……対象、靴を履いていない》
サクラ「えッ!?」
《観測完了。裸足である》
サクラ「観測するな!!」
《撃滅プロトコル──再起動》
サクラ「待って待って!!今のナシ!!」
── 突然、私は両腕の筋肉をムキッとアピール!
サクラ「ち、違うのよ!!!」
(あたふたあたふた)
サクラ「これは筋肉なの!!!」
(沈黙)
《は?》
(つづく)
\\次回予告!//
突如放たれた衝撃の一言──
「これは筋肉なの!!!」
光魔法は勇者の証?
それとも筋肉の輝きか?
迫りくる魔王の必殺スキル!
サクラの命運は……量子筋肉に託された!?
次回──
『マッスル☆量子力学概論(必修2単位)』
筋肉は嘘をつかない。ただし作者はつく。
\\お楽しみに!//
◇◇◇
──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──
『ピンチ?しゃがめ。靴紐を結べ。待つのが礼儀だ。だから時間が稼げる。』
解説:
ピンチの正体は焦りだ。
焦るから心臓が勝手にドラムを刻む。
だからしゃがめ。リズムを止めろ。
「靴紐がほどけてる」と言えば、どんな悪党でも立ち止まる。
礼儀だから。
相手は攻撃できない。なぜなら文明人だから。
しゃがんだ者を殴る?教育がない。
人間の尊厳はしゃがみに宿る。
「靴紐を結んでる」それは人類最後の合法的タイムストップだ。
ちなみに俺は待たない。相手が無防備でしゃがんでる?
チャンスだろ。そんなの。良い天気だな。




