#105 : 聖典☆噛み跡が刻まれる
こんにちは!カエデです!
オサカを出てエドノに向けて旅を続ける私たち。
石畳の街道は思っていたよりも整備されていて、歩きやすくて助かります。
でも三日も歩き続けると、さすがに足の裏が少し痛くなってきちゃいました。
午後の陽だまりが心地よい中、いつものように私はローザさんと他愛もない話をしていました。
カエデ「ローザさん、エドノってどんな街なんですか?」
ローザ「そうですねぇ、商業都市として栄えていて、色々な国の商人さんが集まる場所だと聞いています。きっと珍しい品物もたくさんあるでしょうねぇ」
カエデ「わあ、楽しみ!美味しい食べ物とかもありそう♪」
そんな会話を楽しんでいると、突然ツバキが足を止めました。
ツバキ「……異形の気配が、途絶えている……」(……おかしい。モンスターが、一匹も出てこない……)
その瞬間、ツバキの表情が一変した。
いつもの厳しい顔つきが、さらに険しくなる。
カエデ「い、いったい何がおかしいの?」
心配になった私は、慌ててツバキに聞いてみた。
こんなに緊張した空気になったのは初めてで、何だか胸がドキドキしてくる。
ツバキ「闇の帳が降りしこの三日、邪なる者の影すら踏んでいない……不吉な……」(街を出てから三日経つけど、モンスターがゼロよ。こんな事、ありえない……)
ツバキの声には深刻な不安が滲んでいた。
目は警戒心でギラついてる。
まるで見えない敵に囲まれているかのように、肩に力が入っている。
……うん?いや、私けっこう見たけどな?
何言ってんだろツバキ?
カエデ「えっ?モンスターならさっきも来てたよ?」
私の言葉に、ツバキが振り返った。
ツバキ「はあ!?カエデ、何言って……オホン!…平穏なる幻想に飲みゃれたか……?」(はあ!?カエデ、何言って……オホン!…平和そのものじゃん!)
すると、隣でローザさんが「それだ!」って顔をした。
いつの間にかポケットから小さな手帳を取り出し、勢いよく書き始める。
===================
【聖女の御言葉】
「平穏なる幻想に飲みゃれたか……?」
【注釈】
⇒ 外的脅威がないことに疑念を持つ鋭き問い。真の平和とは、表面には見えぬ罠であると示唆。
===================
ツバキ「ローザ!?ちょっと待て、それも教典に載せんの!?ていうか今の、ちょっと噛んだし……!」
ツバキのツッコミが刺さる中、ローザさんはうっとりとページを撫でていた。
カエデ「ツバキ?でも、本当にいたよ?さっきも、その前も……」
どうしよう……信じてもらえない…ツバキに嫌われたくない…
そんな不安で胸がいっぱいになりかけた時、遠くの森の向こうに小さな影を発見した。
カエデ「あ!見て!あそこにいるよ!」
私が指差した方向を、ツバキが目を凝らして見つめる。
ツバキ「……遠き虚空の果てに蠢く影……!(え?……あー、確かに……)って、遠ッ!!あれもう背景じゃん!!」
その瞬間、またしてもローザさんがキラリと目を光らせた。
ローザ「いただきました!」
例の小さな手帳をすかさず取り出し、さらさらと書き始める。
====================
【聖女の御言葉】
「……遠き虚空の果てに蠢く影……!」
【注釈】
⇒ 視認困難なモンスターを即座に視認した際の詠唱。聖女様の千里眼が冴え渡る瞬間であった。
====================
ツバキ「ローザ?話をややこしくしないで?」
慌ててツバキが否定してたけど、ローザさんはもう聖女モード全開。
たぶんそのページ、後で装丁される。
(つづく)




