#101 : ラウワ王城☆災厄到来
◆王城・正面広場
侵略2日目。
朝もやの中、王都の中心部にそびえ立つ王城が、威厳を保ったまま静かに佇んでいる。
だが、その正面には──
エスト『楽しいねー☆』
小娘が遠足気分のようだ。
ふわふわと宙に浮かんで、王城の装飾を眺めながら手をひらひらと振っている。
サクラ「あーエスト様?どこから攻撃されるか分からないからバリア張っときなさい?」
私は腰に手を当てて、のんびりと言った。
エスト『あーいよ☆』
そう返事をすると同時にエスト様の周りに淡い光のバリアが張られた。
きらきらと光る魔法陣が回転しながら、小娘を包み込む。
辰夫「サクラ殿……本当にこれで王都を制圧できるんですか……?」
辰夫が、魔王軍の侵略活動を見ながら、困惑したように言った。
魔王軍の兵士たちは王城の前で──炊き出しをしていた。
湯気の立つ大鍋から香ばしい匂いが漂い、住民たちが列を作っている。
列の中には、しれっと並んでる王国兵も一人いた。もはや誰もツッコミをしなかった。
サクラ「制圧?…違うなぁ──これは、"無理に支配されるより、その方がマシだわ"って思わせる征服。優しさで殴る、ってやつ」
私は口の端を上げて答える。
エスト&辰夫『「ひぃ…」』
辰夫とエスト様が同時に身震いした。
確かに、これまでの戦争の概念を根底から覆すやり方だ。
敵を倒すのではなく、敵よりも住民に愛される──それが私の征服方法。
私は、どっしりとそびえる王城の扉を見上げて、口角を上げる。厚さ三メートルはありそうな鉄製の扉。
普通なら攻城兵器が必要なレベルの代物だ。
そして、呟いた。
サクラ「さてと。この扉……辰夫ロケットとエストミサイル、どっちで壊そうか?」
辰夫「またですか!?嫌です! なんで選択肢が物騒なんですか!!」
エスト『えっ!?やだよ!?また飛ばされるの!?私!?』
辰夫の声が1オクターブ上がり、エスト様も慌てて後ずさる。
二人は両手をぶんぶんと振って全力で拒否の意思を示していた。
二人が一歩どころか、三歩くらい後ずさる。
サクラ「じゃあ辰夫──」
辰夫「断固拒否します!」
辰夫は、完璧な九十度の角度で頭を下げた。
サクラ「じゃあエスト様──」
エスト『お姉ちゃん落ち着いて!?こんなに可愛い妹を扉に叩きつけるの!?』(カタカタカタカタカタ…)
小娘は必死に斜めピースサインを自分の目に当ててウィンクしようとしたが、手足が震えていて目に指が刺さりそうになっていた。久しぶりに見たなこれ。
──沈黙。
私はため息をついて、右足に力を込める。
サクラ「……ったく。結局こうなるんだよね。……まあ、ムダ様も言ってたしね」
頭の中で、あの人の声がよみがえる。
《扉をノックするってのは、"ここにいるよ"って伝える行為だ。でも俺は──"来たぞ"って言いたいんだよ。》
── その通りだ。私たちは招かれざる客なんかじゃない。
堂々と乗り込む征服者なのだから──。
私は助走をつけて跳び上がる。
空中で体をひねり、両足を正面の扉に向けて突き出した。
──その瞬間、朝日が差し込む。
私の背に、金色の光が広がった。
全身の力を一点に集中させて──
サクラ「ドロップ…キィィィック!!」
ズガアアアァァァン!!!!!
王城の正面扉が、爆音とともに吹き飛んだ。
砕けた石片が宙を舞い、白い煙が立ち込める。
遠くで兵士たちの慌てた声が聞こえてくる。
──そのまま私は、仁王立ちでその中心に着地した。
サクラ「うん。やっぱり自分で蹴るのが一番スカッとするわ」
煙の中から現れた私の姿を見て、城内で悲鳴が上がる。
エスト『こ、怖……』
辰夫「ドラゴン並みの破壊力…」
エストと辰夫が青ざめながら呟く。
サクラ「よし、行くわよ」
私たちはそのまま、煙を割って城の中へ足を踏み入れた。足音が静寂の廊下に響く。
コツ、コツ、コツ……
◇◇◇
◆王城内部・廊下
城の中は、美しかった。
高い天井には豪華なシャンデリア、壁には歴代の王の肖像画、赤い絨毯が敷かれた廊下。
だが──人の気配がない。
サクラ「逃げたのかな?」
エスト『お姉ちゃん怖かったもんね☆』
辰夫「賢明な判断ですな」
辰夫が軍服の襟を正しながら答える。
エスト様は興味深げに城の内装を眺めながら浮遊している。
壁にかかった絵画を指差して「この王様、眉毛すごいねー」などとはしゃいでいた。
辰夫「サクラ殿、王に会ったらどうするんですか?」
サクラ「決まってんじゃん。誠実に──」
私はくるりと振り返り、笑顔でグーを握った。
サクラ「真心こめて!話し合い(物理)だよぉ♡」
エスト『そのグーの拳のどこに誠実さがあんの!?』
エスト様が笑って言った。
辰夫「いやもう絶対それ武力交渉だ…」
辰夫が顔を引きつらせながら、そっと身構えた。
私たちの足音だけが、静かに響く。
コツ、コツ、コツ……
(つづく)




