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図書室の聖女がめっちゃ絡んでくるんですけど、これゲームの話ですよね!?逆セクハラされているんですけどっ!?

 図書室にいくと美少女の図書委員がいる。そんな高校に通えた奴は幸せだ。つまり僕は幸せな人間だということだ。

 

 棚越しにカウンターを見ると、肩にかかるほどの髪をかき上げPCの電源を落しているのは、男子の間で図書館の聖女と呼ばれる桜木 叶さんだ。

 見れば見るほどに信じられないほどに整った顔立ちは、黙っている時は精巧なビスクドールのようですらある。

 体は細身だが、運動もしっかりとしているのか健康的なスタイルをしていて隙が無い。


「桜木さん、今日一緒に帰らない? 帰りに美味しいアイスの店を見つけたんだけど、二組の宙野君も来るらしいよ」


 彼女と同じ図書委員の女子が誘うが、桜木さんは穏やかに微笑み誘いを断った。


「ごめんなさい。今日はカギ締め当番なの」


「ざんねーん。まぁ、桜木さんが寄り道なんてするはずないかっ。またねー」


 結果として彼女と僕以外人のいない図書館に夕日が差し込む。

 下校のチャイムが鳴る。司書の先生は先に職員室だ。

 本来ならここで帰るのだが……。


「さて、吉井君。……カギ閉め終わったし、ゲームをしよっ?」


「いや、帰ろうよ桜木さん」


 カウンターから身を乗り出しているのは、先程まで精緻な作り物のような様子と違う、おやつを前にした子供のような彼女だった。

 

「えー、せっかく。早めにカギを閉めたんだよ。ゲームしようよゲーム。だから残ったんでしょ」


「帰ったら、図書の履歴(性的な描写のある文学作品多数)を晒すと脅されていたからね。鍵を持って行く時間まで四十分ほどじゃないか? TRPGをしようにも時間ないぞ」


「キャラメイクならできるじゃん、オリオンソードRPGのキャラ作らない? この前ネットで素敵なシナリオを見つけたの! ゾンビがでるんだよ!」


 それは、国産TRPGの中でもとりわけ有名なもので、この図書館にもルールブックが置いてあるものだ。

 目をキラキラさせて彼女は手招きをする。

 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花という言葉通りの正統派美少女なはずの彼女は、この時間だけは、コロコロと表情を変える女の子だ。

  

 入学してからその美貌で学校の話題をさらった図書室の聖女は、どういうわけか僕と遊びたがる。

 

 普段の彼女とは違うその表情にうっかり勘違いしそうになるが、彼女は本心から遊びたいだけだ。

 割とマニアックな趣味を持つ彼女は色々あって僕にその趣味を打ち明け、それ以来僕等はたまにこうして一緒に図書室のカウンター越しに話すのだ。


「それで、今日はTRPGか」


 TRPG:テーブルトーク・ロールプレイングゲームと呼ばれるこのゲームは、ゲーム機を使うわけじゃない。ルールブックを持って、机にマップやフィギュアそしてダイスを使い、紙とペンで遊ぶものだ。

 自分が作ったキャラクターになり切り、その世界観での冒険を楽しむ。

 プレイヤーは時に犯罪者に、時に魔術師となって物語に没入する。

 本来はGMと呼ばれるシナリオを進行する役割の人間がいるが、僕等が二人でするときはどちらもプレイヤーなることもしばしばあった。

 今回のオリオンソードは剣と魔法のファンタジーな世界観だ。


「むふー、二人用の新規シナリオだから、キャラも新しく作ってね」


「おっけ、推奨【ジョブ】は?」


「回復系はサブでもいいから、入っているキャラが一体はいるかな?」


「じゃあ僕が回復するよ。王道を行く【メイジ・モンク】だ」


 前衛である格闘職と支援職である回復職を持つこのジョブはお気に入りの組み合わせだった。

 実際この職が扱える【プロテクション】と呼ばれるスキルがあるのとないのでは、シナリオのクリア率がダンチだ。

 桜木さんは、プクーと頬を膨らませる。


「えー、いつも【メイモン】じゃない? 同じ回復系でも【ギャンブラー・ウィザード】みたいなのもどう?」


「ダイスの機嫌次第で全滅する職業は二人プレイだと選択できないかなぁ」


「そうかなー。はまった時の爽快感あるよ。クリティカル判定でたらバフめっちゃ盛るし」


「そっちは何にするの?」


 僕が質問すると、桜木さんは「じゃーん」と擬音を着けながらキャラシート(キャラクターの情報が書かれた紙)を突き出す。


「【バーサーカー・ガンスリンガー】です。ダイスしだいでは最高火力がでます。ロマンだねっ」


「頼むから止めてくれない? 前回それでゴブリン相手に全滅したんだけど」


「射線上に入らないでっていったよね?」


「誤射姫は言うことが違うね」


 その後もあーでもない、こーでもないと二人で話していると、すぐに時間がきてしまう。

 とりあえず、僕のキャラシートをしまい前を見ると、腕を組み真剣な表情の桜木さん。

 彼女はまだ悩んでいるようだ。


「そろそろ、時間だけど?」


「迷っているの。吉井君はどっちがいいと思う」


 見上げるような角度で彼女がこちらを見る。狙っているんじゃないかと思うほどに可愛い。

 天然なのかわざとなのか、僕にはわからない。ただ鼓動が少し早くなり頬が赤くなるのを感じた。


「【スキル】のこと?」


「性格。女性キャラなんだけど、大人しい子と活発な子どっちが好き?」


 ……これはキャラの話で合って、僕の嗜好の問題じゃないよな?


「……【ジョブ】の性質上、活発な子の方がいいんじゃないかな」


「なるほど、じゃあ体格なんだけど、大きい方がいい? それとも小さい方?」


「身長は高い方が、補正つくし、いいんじゃない?」


「胸は?」


「キャラの話だよねっ!?」


 これセクハラじゃない? なんで僕図書室で唐突にセクハラされてんの?


「もちろんよ、それ以外になんの意味があるの?」


「じゃあ、ノーコメントで」


「このPCには、吉井君が借りた図書の履歴があります。正直に答えないとうっかり印刷してしまうかも」


 なんて卑劣な。気の迷いでちょっとエッチな昭和の文学を借りただけだというのにっ!!


「その手口を今回で最後にするなら……答えよう」


「約束するよ。……さぁ、どうぞ」


 なんでちょっと緊張感でてるの? おかしくない?


「胸の大きさに貴賤はない。大事なのはどんな胸かではなく、誰の胸かだっ!」


「あっ、今の録音したから」


 カウンターの下から、録音機が出てくる。


「ノオォオオオオオオオオオオ!!!」


 TRPGをするときはよく使うアイテムなので、皆も気を付けようね!


「それでは、この録音音声を消去してほしくば次の質問に答えてもらいます」


「主旨が全然わからないけど、これ誰が得するの?」


 僕の質問を無視し、桜木さんがメモを取り出す。


「質問です。吉井君は今、ショッピングモールで迷子です。スマフォで誰に助けを求めるか次のうちから一つ選んでください」


「キャラメイク関係なくなっただと!?」

 

「1:母親 2:私 3:私 4:私」


「実質二択な上にどちらも絶妙に選びづらい!」


 まぁ僕、母親いないんだけどねっ!?


「母親を選んだ場合、明日からマザ吉井コン君と呼びます」


「苗字を挟まないで……じゃあ、桜木さんで」


「…………正解!」


「何がっ!?」


 僕のツッコミは再び無視され、桜木さんは満足したように荷物を鞄にしまい帰り支度を進める。

 あぁ疲れた。カギを持って行く彼女の後ろについていくと桜木さんが入り口前でこちらを向いた。

 腕を組んでおり、何とは言わないが何が強調されている。


「私、結構あるんだよ?」


「……何の話?」


 目線が下に行かないように、ちょっと上を向いた僕を見て彼女はクスリと笑った。


「もちろん、ゲームの話。私と吉井君とのね」


 何のゲームなのか、その言葉を投げかける前に彼女は鼻唄を謳いながら図書室を後にした。

八か月後に異世界転移する二人。

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― 新着の感想 ―
>八か月後に異世界転移する二人。 唐突過ぎて草。連載版本編でもあるんですかね。
ヨシイくんのお爺ちゃんが健在だったなら、このまま二人の距離が縮まって恋仲になっていたんだろうな
[良い点] えっもえも
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