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4 世界の中の自己

 

 先に書きすぎたが、落ち着いて振り返ってみよう。

 

 最原達は、作品の最後にはある終点にたどり着く。それは「ダンガンロンパ」というフィクションそのものを破壊する、という点だ。ここで、一つのフィクション形式が破壊される。破壊されるのは、暴力を娯楽として消費する世界におけるフィクションーーつまりエンタメ作品としての「ダンガンロンパ」だ。

 

 高校生達の殺し合いというのは、全て中継されており、それを無数の視聴者達が眺めていたのだった。そこでは最原達にとっては、自分達の生死を掛けた、本物の闘いだったにも関わらず、実際にはカメラの向こうの人々に届けられるただのエンターテインメントでしかなかった。傍観者の、上っ面のお遊びの為に、一部の人間は真剣に自分の生死を掛ける事を強要されていた。

 

 こうした事は、現在では冗談では済まされないだろう。私は、例えば、迷惑ユーチューバーの事を考える。それらは、このデスゲームと似た構造を持っていないだろうか。あるいは、人は果たして本当に、誰かの痛みに、心の痛みに気づいているのだろうか。私はこの点を疑問に思う。生活における習慣を守っている限り、誰からも変人とは思われないで済む。他人の内面を知らなくてもこの世界においては「普通の人」として生きていける。しかし彼の孤独はどこにも知られる事はない。習慣と挨拶、あるいは理解し合っているという幻想に包まれ、彼らの内面は絶えず消去される。他人の内面も関係ない。自分の内面だけは絶えず愚痴の種としてのみ意識される。旦那が、嫁が、子供が、友人が、思い通りにならない、と人はこぼす。そこに他者の視点はない。孤立した心性がそこにはあるが、孤立しているという事に気づく事もできない。

 

 殺し合いを見ていた人々はそんな人達ではないのか、と作品は呼びかけているようにも思える。実際、最原終一達の内面で何が起こっているのか、それに対して視聴者は興味がない。外面的なドラマ、絶望に反抗して立ちあがる希望のドラマ、それにしか聴衆は興味がない。

 

 これは単に「ダンガンロンパV3」というフィクション内だけの事だろうか? 私はあるユーチューバーが事故で死に、その死を弔っているとされる動画を見たが、とても弔っているようには見えなかった。彼らには死が見えない。他人の内面がないから、死も、生も見えない。存在するのはただ外面的なイベントのみである。死者への追悼も、おしゃべりとパフォーマンスに堕する。そうして見かけだけの真剣さや取り繕った態度があれば、人は本当に「真剣なのだ」と考える。

 

 最原終一達は、自分達が弄ばれていた事を知る。ここで、彼らキャラクターの物語は終わりなのだろうか? …いや、そうではない。

 

 最原達は何度も何度も、世界が、記憶が、即ち自分を構成しているアイデンティティが嘘であるのを暴露される。それも「殺し合いエンターテインメント」を構成する為に作られた嘘である。だがしかし、彼らの内面そのものがすべて嘘ではない。嘘の状況から発した嘘のシチュエーション。しかし、そこで抱いた感情は真である。だから、春川は自分の恋心を自分で消し去る必要はなかったのだ。それが作られた状況が嘘だとしても、その感情は彼女にとって真である。

 

 もっと言えば、人の内面とは他人に知られない部分において、いや、それによってのみ真なのである。語り得ないものだけが、本人にとって本物だ。デカルトが「我思う故に我あり」と言った時、その「我」は本質的には語り得ないものだった。デカルトはそれを語ったが、語った時、我が自分から逃れていった真理だったと思うべきだった。それはデカルトの中に埋蔵された真実だった。言葉は真実を指し示す事はできるが、真実そのものではない。そうして真実は、ついには語り得ないものであるように私には思われる。

 

 したがって、最原達が自分のアイデンティティを発見するのは、他者の視線によって、ではない。他者の視線によって作られた自分は嘘であったーーそれでも、自分は存在する。この「それでも」以降だけが、自信を持てる本当の自分だ。最原達はその「自分」を持って外の世界に出ていく。その世界は、これまでとは違う景色であるに違いない。嘘の世界が壊れてもまだ世界は続く。しかしそれ以上は、ダンガンロンパというフィクション形式では語れない。その先にあるのは違う世界のはずだ。

 

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