手紙
マリナに町を案内してもらい、留学生パックというものを買った。
とても便利で安価であり、参考書まで付いていた。生活必需品もしばらく困らないほど入っており、大変ありがたかった。
毎日、働くとその内、料理の提供や片付けも任されるようになり、一連のことはできるようになった。
毎日を精一杯過ごしていると、あっという間に一週間が経ち、試験を受け、その一週間後に合格通知が届いた。
衛生師の夜間学校で夜の8時から夜中の正午まで週6回2年間で資格が取れるコースだ。
マリナとヨーゼフは合格を喜んでくれたし、昼の12時から夜の7時までの勤務を提案してくれた。お給料も契約書通りで学校の授業料が破格値のため、提示された金額で余裕のある生活が送れるほどだった。
入学に備え、夜間の通学は乗合の馬車が出るとの情報があり、その場所を確認に行ったり、教科書を揃えたり、カリキュラムを見直したりした。
そこで、優秀成績者は授業料免除になる項目を見つけた。
『同年度入学生の内、3ヶ月毎の試験順位3番以内は授業料全額免除。10番以内は4割引。また、一年次継続して30番以内の者には就職先(就職先一覧より自他共に推薦可であり、内定を取ること)より授業料全額負担があり、その内定先で2年勤続すれば、全額負担された金額は返済しなくて良い(途中退職があった場合は事項に記載)。』
これを見つけ、俄然やる気になり、購入したばかりの教科書数十冊を読み漁った。
制服はふくらはぎまでの白を基調にしたロングワンピースに紺の刺繍が入っている物が配られ、必ず黒のスパッツか黒のストッキングを着用とあった。また、パンツスタイルも選択でき、同系色のものが配られた。
初めて制服に袖を通し鏡の前に立つと、ロザリーが亡くなった時、16歳だったとふと思った。ロザリーは白と紺色の服が好きなのだ。
この制服のように。
記憶の中のロザリーが歳を取ることはもうない。ロザリーが落ち込み悲しんでいる時、まだ未成年であった自分が手を取って「ロザリーにぴったりの服を着に行こう」と誘う想像をした。
ロザリーは困った顔をしながら、でも、きっと、リンが手を引く方について来てくれる。
そう思うと急に悲しみが襲って来た。
あの時に手を引けばよかった。
リンはしばらく声も上げず鏡の前で泣いた。
そして、母と約束した手紙を書いた。
{お母さんへ
こちらは予定通り過ごしています。衛生師になるための学校への入学も決まりました。住み込みで働かせて貰っているご夫妻もとても良い人です。
話は変わりますが、ロザリーのお墓に青い花を備えに行って貰えませんか?ロザリーが好きな色の服がなんと制服の色と同じなのです。きっと、ロザリーも着たかったに違いありません。だから、私によく似合うと言ってくれた青いお花をロザリーにあげて、私がロザリーが好きな色を身につけて過ごそうと思います。
お母さんなら、マリウスのように「いつまでも縛られてる」等と言わないと信じています。
愛を込めて リンより}