割烹着
朝食を食べ終え、下げ膳をすると、
「まだまだ、勤務時間まで時間があるから一旦部屋に戻って休んで。ずっとマリナを凝視してたから、流れも掴めただろ?マリナっ!リンに給仕の割烹着出してあげて。降りて来る時に付けて出てもらうから!」
ヨーゼフが声を張るとマリナも、
「はいはい!大きさは小さめがいいかしら?きつかったら言ってね!」
と言いながら、袖にゴムが入った腰紐を一周して後ろで結べる割烹着を出してリンに当てる。
「サイズがぴったりだったら、あと3枚は渡すから、洗い替えにね!黒だから汚れが目立たないのよ!中の服も汚れないし、どう?うん、似合うわ!頭につける三角巾も、髪はまとめてつけてね。」
マリナから割烹着と三角巾を受け取って、
「ありがとうございます!」
と言うと、夫妻は嬉しそうに頷いた。
ご好意に甘え、二階に上がり黒の割烹着を着て腰紐をクルリと回して付けると、割烹着がワンピースのようになり、野暮ったくなく汚れにも強く着る人を選ばないデザインだと思った。
リンは栗色の髪をポニーテールにまとめ三角巾をつけ、そのままの格好で参考書を開いた。
勉強に夢中になって、遅刻したくなかったため、あえてこのままの格好で勉強することにしたのだ。
各学校の入試試験は高等部卒業レベルの一般教養4科目だ。スーモア国とラージリア国ではレベルに差があるといけないと思い、高等部一年生の頃にラージリア国の「入試必勝4科目」という参考書を取り寄せ穴が開くほど読み書きし、頭に叩き込んできた。
金銭に余裕があればもう一冊ほしかったが、朝の新聞配達と夕方数時間の家庭教師の仕事では、旅費や学費の蓄えに回すとほとんど残らず断念した。
大丈夫。
リンは自分に言い聞かせて、書き取りを始めた。
あと入試試験まで一週間ある。それまでにもう一冊どこかで読んで、達成度を確かめればいい。
心の焦りを鎮めて集中しよう。